森友事件高裁裁判長のメディアコントロール、籠池夫妻実刑判決「一人署名」の違法
メディア批評&事件検証・23億円契約書原本の欠落
―1審では、本件の最重要証拠である23億円の契約書の原本を提出するように裁判長が何度か求めたのに検察側は提出せず、丸山弁護士らが改めて提出を求め、どうやら原本を検察が持っていなかったことが判明しました。藤原工業は、サスティナブル補助金事業として実際は15億円余の契約金を23億円に水増しした偽の契約書のコピーを木活協(※注)に提出しています(施主・泰典氏は同契約書に覚えがないと述べている)。本件事件の核心点であるだけに、原本がないというのは問題だと思いますが。
南出:この契約書は、藤原工業と森友学園及びキアラの3者契約ですから、検察は、藤原工業とキアラに任意提出させることが出来たはずですが、提出出来なかつたのはその原本が双方ともになかつたといふことです。しかも、森友学園と籠池夫婦の自宅に対しても捜索差押を行ひ、根こそぎ押収したのですから、その中に原本があるはずです。
しかし、その中にもなかつたので提出できないのです。といふことは、藤原工業、森友学園及びキアラの三者のいづれも原本がなかつたといふことになります。つまり、この契約の原本はなく、他の書類に押捺された森友学園の印影を利用した「コピー偽造文書」であると弁論要旨でも主張してゐたのです。原本が存在しないことは、森友学園が押捺した事実を証明できなかつたといふことであり、この点からしても無罪です。
―事業者は補助金詐取に手を汚した理由を、施主と請負の関係でやむをえなかったと語っていますが、そうでありながら施主の意向を軽視する場面があります。たとえば2015年9月4日の会合。キアラ(と中道組)は、施主抜きで近畿財務局と工事代金の交渉を行なっています。また2016年3月11日まで藤原工業は基礎杭が打てず工事を中断、それを隠したまま、この日になって突然、施主に伝えています。藤原工業は、施主である森友学園のほかに相談する相手がいたようです。
南出:そのとおりだと思ひます。
―検察はなぜ事業者を立件しなかったのでしょうか。元検察官の小川敏夫参院議員は、別件事件の立件とは、それを足掛かりに本丸事件、今回の場合は違法値引きの根拠・矛盾に迫るというのがセオリー。ところが検察は、反対に事業者を逃がし、全貌解明を遠ざけたと批判しています。
南出:国策捜査ですので、何でもあれです。セオリーは関係ありません。
―藤原工業は、森友学園が再建団体となったために債権者となり、今回の不法取得分をそのまま学園に請求したとされます。
南出:藤原工業は、政府と検察の意向を忖度した再生裁判所と管財人によつて守り切る仕組みが始めからできあがつてゐるのです。
―その件で、弁護団としてはじめて森友本丸事件に関連付けて弁論されていますが、その主張の骨格をお教えください。
南出:前にも言つたとほり、国策捜査によつて、森友潰し、籠池潰しで初めに有罪ありきであり、民事刑事連携の冤罪事案なのです。
―結局、検察がキアラ・藤原工業を立件しなかったのは、両者が森友本丸事件の裏を知っていたからでは。司法も安倍晋三首相の権力に同調したということでしょうか。
南出:そのとおり。
―最後に一言お願いします。
南出:「権力は、その力を高めるために、自らを偽装するのである」(アレクサンドル・ソルジェニーツィン)。権力による情報の隠蔽・捏造・操作は、森友学園事件に限らず、ワクチン問題、ウクライナ問題など数へたらきりがない。
・上告記者会見での籠池夫妻の訴え
籠池氏らは5月6日に上告、16日に京都市内で改めて記者会見を行なった。質疑を通して高裁判決の酷さが改めて浮き彫りになった(詳細はユーチューブ「20220516 UPLAN 森友・籠池刑事事件 大阪高裁の異様な有罪判決書」やIWJ等で視聴可能)。
やはり注目すべきは、判決書の一人署名だ。この点は提出された上告受理申立理由書にも指摘されている。五十嵐裁判官は3月13日に退官している。西田裁判長は4月18日、判決文を読み上げる時に誤記訂正を行なっていたから、判決文の完成はそれ以後となる。南出弁護士が4月20日に受領した判決謄本は、五十嵐裁判官の退官後に成立している。退官前の合議は不可能である。
また武田裁判官については、「現在も大阪高等裁判所刑事五部に在職」「『差支えのため署名できない』はあり得ない」「『差支えのため』というのは、署名押印の拒絶を意味し、合議の不成立を意味する」。よって「高裁判決は西田裁判長が独断・単独で行なった違法判決で無効」との旨が主張された。
一方、本件刑事裁判で最大の問題となった諄子氏の「ぼったくる」発言の偽装は、判決でどう判断されたか。
検察の主張は、諄子氏による事業者への詐取=犯罪の指示だったとし、この発言が、籠池夫妻が首謀者である証拠とした。これに対し、控訴審で弁護側は、検察が提出した会議録の反訳書は、補助金をぼったくれと言ったように偽装されていたと主張した。
判決は、「被告人両名は、サスティナブル補助金と建設工事費が影響するという説明を受けていないため、その知識がなかった」と籠池氏らに補助金の知識がなかったことを認めつつ、「本来より多額の補助金をもらいたいという」「心情」になって「吐露」していれば、「ぼったくる」発言を通してその「趣旨」が述べられたことになり、「事業者の行為は、その意思を受けたものと考えられる」としたのである。
西田裁判長は、補助金詐取の具体的な指示内容なしに「多額の補助金をもらいたい」との「心情」をただ語っただけだとしても、事業者がその意思を受けて実行すれば、「犯罪」が成立するとしたのだ。施主と委託を受ける事業者は、法令に基づく契約にのみ拘束され、不法な指示や命令からは自由な関係にある。施主が国への批判や愚痴をどのように語ったとしても、それを受けて犯罪を行なえば、実行した事業者が罪に問われるのが当然だ。しかしこの判決は、愚痴を言った個人に罪を課すとしたのである。
23億円の契約書の原本がないことについては、判決では何の言及もなかった。補助金の最終手続きは2016年1月、事業者が籠池氏らに報告した前年10月に行なわれ、契約書のコピーは藤原工業から木活協に送られていた。契約書は森友学園・藤原工業・キアラの3社契約だが、籠池氏は押捺の記憶がないと控訴審で初めて表明。別の契約書の「籠池」の印影をコピーして作成した疑いがあり、ここでも籠池首謀説が一気に崩れることになる。
南出弁護士が指摘した詐欺罪の要件である「不法領得の意思」の立証にしても、1審判決は籠池夫妻には私的流用の事実がないと明記していた。これは、不法領得がなかったということであり、実質的に詐欺罪適用は無理ということである。ところが西田裁判長は、籠池夫妻が森友学園の理事長・塚本幼稚園の副園長であるため共同経営者として利害関係にあるとした。南出弁護士の指摘の意味すらわかっていないのだ。
本件は、補助金詐取をめぐる案件であり、一般法の詐欺罪ではなく、特別法である補助金適正化法の適用を図るのが法理である。ところが検察は権力に迎合し、最高刑が適正化法の倍の10年である詐欺罪を適用した。しかし、不法領得の意思が立証できない以上、検察は詐欺罪での法的組み立てが不可能になる。そこで高裁が、この問題に対処したような国策判決となった。
結果、この西田裁判長の無理筋判決は合議ができず、一人署名となったといえる。最高裁は、高裁への差し戻しによって司法の権威を維持するのか。ヒラメ裁判官の西田氏を擁護し司法を崩壊させるのか。国策捜査、冤罪への姿勢も問われている。
※注 木を活かす建築協議会。国交省主催のサスティナブル補助金の申請手続きを担う民間団体。
(月刊「紙の爆弾」2022年7月号より)
※ご支援のお願いのチラシ作成しました。ダウンロードはこちらまで。
環境ジャーナリスト。NPOごみ問題5市連絡会幹事。環境行政改革フォーラム、廃棄物資源循環学会会員。著書『引き裂かれた絆』(鹿砦社)など。