【連載】週刊 鳥越俊太郎のイチオシ速報!!

菅生事件で始まり大川原化工機事件までの冤罪、ここに極まれり!

鳥越俊太郎

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先週も原爆のことを書いたが、一部原稿の投下日を8月15日の終戦の日と間違えて書いたことが、娘の指摘でわかった。これは明らかに終戦の日と混同した間違いで、気づかれた方もいるのだろうが、ここに心からの謝り、謝罪を申し上げたい。書き上げた後のチェックが甘かったのが原因だと思う。今後チェックを疎かにしないように心がけたい。申し訳ありませんでした。

原稿を書いている今日は8月9日、長崎原爆記念日である。長崎は歴史的にキリスト教徒が多く、爆心地からそう遠くない地点に教会が複数存在している。そのうちの一つを私が現役の記者だった頃取材したことがあった。教会は無惨に壊れていて、信者が教会と命を共にしたのだろうな、とそのとき思った記憶がある。アメリカ人というのは同じキリスト教徒を戦争なら殺害して憚らないんだなあ…という戦争の持つ非情さを覚えた、微かな記憶も残っている。

結局日曜日10日に原稿書上げがずれ込んでしまった。
ここ半年ほど続いている脚、腰、首など体を支える部分が痛み長時間パソコンの前に座れないのが原因だ。

85歳の誕生日も半年ほど前のことになり、残り時間がすごいスピードで食いつぶされていく。その過程での「痛み」とどう付き合って生きていけばいいのか?毎日毎時毎分、痛み痛み痛み、こんなもんに負けるか?自分の心に強く強く強く言い聞かせながらパソコンの前にいる。
何故か?

大学での歴史専攻、新聞記者、テレビキャスターなど私の人生は目の前の現実、背中から広く広がっている歴史を、熱を込めて生きて来た。85歳の今もそれだけは変わらない我が内なるパッションだ。

例えば「冤罪事件」。私は仕事をしている間この冤罪事件の広場で大きく手を広げて仕事をしていたかった。鹿児島県警の大風呂敷を広げた選挙違反事件。志布志事件。これは県警幹部の一人芝居だった。これなどはハッピーエンド、つまり、完全な鹿児島県警の作り出した冤罪事件で終わったし、やれやれ、と心が軽くなる。今でも私の心から重い鉛が去らないのは福岡県北九州で起きた飯塚事件。これは死刑判決が出て僅か2年後に死刑が執行された。もちろん家族と弁護団は再審を求めて活動中なのに。腹立ったなあ!

それからもう一つ心の底におりのように私の気分を害し続けるものがある。
事件発生当時は「北陵会事件」と呼んでいた記憶があるが、仙台の高校の同窓会と名前が被っているためか事件名は「筋弛緩剤点滴事件」と場所名は飛んでしまっている。准看護師、守大助被告の再審請求が今も続けられている。それにもう一つ私が取材で関わった冤罪事件がある。「布川事件」だ。こちらは櫻井昌司さん、杉山卓男さん、両人とも無罪確定の完全な冤罪事件。櫻井さんとは何度もお会いし文交わす親しい仲だったが、残念ながら2年前に亡くなった。

では何故今回「冤罪事件」に拘っているのか?それには理由がある。
実は少年の頃より下山事件、三鷹事件、松川事件などに興味を持って新聞を読んでいた。特に松川事件は裁判のプロセスが興味深くハラハラしていたように思う。その後免田事件、財田川事件、松山事件。袴田事件……と数を数えたらキリがないねえ。こう書いていてハッと気がついたのが「菅生事件」のニュースだ。

これは忘れられない警察官によるダイナマイト放火事件。犯人は戸高公徳・大分県警の警察官。共産党員らによる事件として新聞各紙が報道した。が、後に大分新聞、大分合同新聞が交番をダイナマイトで爆破したのは「市木春秋」こと「戸高公徳」という警察官であるとスクープ。さらに1957年3月13日、私の12歳の誕生日に毎日新聞が「戸高は現在、国家警察本部(現在の警察庁)の警備課に勤務している」と暴き、驚いたなあ。

最近3件の裁判で、「冤罪」が確定して新聞の一面トップ記事となった。被告側が無罪を求める再審請求でこの10日の間に3件無罪が確定した。実は「冤罪」ということで被告が再審を求めるケースはいくつもあるが、最終的に無罪の確定判決が出て被告側が勝利するケースはそうしょっちゅうある訳ではない。珍しいのだ。私の感覚の中では、「冤罪」は最近でこそ、そう珍しくもなくなったが、元々は捜査側が有罪と決めた事件の99・9%は有罪となるものだった。しかも今回の3件の事件では、「無罪確定判決」が出た後、警察や裁判官のトップが謝罪していることだ.

月日を追って順番に紹介しておこう。日付はいずれも新聞の記事が出た日である。
先ず、7月19日朝日新聞1面トップ記事。

①【福井中3殺害  再審無罪】『目撃証言 信用できない』
「捜査機関誘導の疑い指摘」
「高裁金沢支部判決」

東京新聞も1面トップ記事、毎日新聞は1面左肩2番手記事。
朝日新聞の1面記事の中で高裁金沢支部の増田啓祐裁判長は「一審の無罪判決で確定していた可能性もある事件でした。長期間にわたりご苦労をおかけしてしまい、大変申し訳なくおもっています」と謝罪した、とある。

②朝日新聞は7月26日社会面トップ記事で次のような見出しで冤罪事件を報じている。
『違法捜査判決 控訴を断念』
「滋賀 県警本部長が謝罪」
「再審無罪 元看護助手の訴訟」
この記事の中で滋賀県警トップの謝罪談話を載せている。

「滋賀県警の池内久晃本部長は(7月)25日の会見で『西山さんに大きなご心労やご負担をおかけしたことに対し、大変申し訳なく思う」

③毎日新聞8月8日付け1面トップ記事で
【捜査指揮 機能不全】
「大川原冤罪  警視総監謝罪」
「元公安部長ら19人『処分』」
「検証報告」
「解説欄」には『自己検証に限界』とある。

さらに3面には刺激的な見出しが飛び跳ねている。
「大川原冤罪 傲慢の末暴走」
「公安捜査員 前のめり」
「反省の現場浸透課題」
「警察『重い処分』と説明」

社会面には「大川原冤罪」として
「事実関係うやむや」
「捜査員2人 報告書批判」
「警視総監『責任は私にも』」

この冤罪事件は日本社会にも大変ショックをもたらしたようで、各紙とも1面記事だけではなく社説や社会面で大きく取り扱っている。先ずは朝日新聞社会面全紙使い、さらに第二社会面でも「警視総監『私にも責任』」とある。社会面は全面で 「警察・検察が検証」とあり、
【公安の体質 招いた冤罪】
「現場責任者の『暴走』止められず」
「縦割り 知見共有しにくく」
「保釈反対 柔軟さ欠いた検察」
この警視庁の冤罪捜査の被害を被った大川原化工機の社長の談話の見出しが出ている。

「被害の社長『個人責任、曖昧なまま」

この事件では“保釈”が問題になっている。最高検はこの事件についてA4サイズ56ページの「検証報告書」を公表している。この報告書で「深く反省しなければ」と明言したのは大川原化工機の顧問だった相嶋静夫さん(72)の保釈の問題。相嶋さんは勾留中に胃がんの診断を受けてやがて死亡、その後も公判担当の検事は保釈請求に反対し続けた。朝日の記事の中にこういう下りがある。

「まだ謝罪を受け入れていない相嶋さんの遺族は、会見(大川原化工機)に参加しなかった。高田弁護士は長男のコメントを読み上げた。『ある程度しっかりした再発防止策を立てて頂き、一歩前進した。どのような謝罪をいただくか検討していく」

東京新聞の報道は内容的には朝日、毎日とほぼ同じだが、東京だけは社説でこのニュースをわかり易く解説しているので最後にこれを紹介しておきたい。その前に裁判の中で警視庁公安部の3人の捜査員が警視庁の捜査に批判的な証言をしていることが明らかになっている。これはせめてもの話なので付け加えておきたい。

社説=冤罪事件の検証「人質司法と決別せねば」
【噴霧乾燥機の輸出を巡る冤罪事件で、警察と検察が捜査の検証結果を発表した。自白しない限り身柄拘束を続ける「人質司法」は深刻な人権侵害にほかならない。日本の刑事司法全体の問題として、早急に改めるよう求める。
警視庁公安部は2020年、生物兵器製造に転用可能な噴霧乾燥機を国の許可なく輸出した外為法違反容疑で、大川原化工機の社長ら3人を逮捕。東京地検は起訴したものの、初公判直前に取り消す異例の経過をたどった。
同社側が起こした国家賠償訴訟は今年、逮捕は違法だったとして国と東京都に賠償を命じる判決が確定している。
警視庁の検証では指揮系統の不全が明らかになった。立件に積極的な係長らが捜査の実験を握り、外事1課長や公安部長は上司の役割を果たしていなかった。報告や会議は形骸化し、立件の障害となる情報は共有されなかった。
逮捕や家宅捜索など強大な権限を行使する捜査機関には歯止めが欠かせない。現場の暴走を許した態勢の欠陥を猛省すべきだ。
公安警察特有の「国家の安全を守る」という大義名分や極端な秘蜜主義が、強引な捜査の背景にあったとも考えられる。警察庁警備局を頂点とする全国の公安警察にも共通する問題ではないか。
検証は警視庁内で行い、第三者を入れなかった。虚偽の自白調書作成が故意だったか否かなど未解明の点も残る。身内に甘い検証だったと言わざるを得ない。
今回の冤罪事件では、長期間の身柄拘束と密室での取り調べによる重大な弊害が露呈した。
捜査は任意が原則で、逮捕後の勾留は証拠隠滅の恐れがある場合などに限られる。だが、否認した場合、裁判所が保釈を認めない傾向が強く、保釈が自白との引き換えになっているのが実態だ。
容疑者や被告は有罪確定までは「推定無罪」だ。裁判所には、身柄拘束の必要性を厳格に見極めるよう意識改革を求めたい。
取り調べの見直しも急務だ。密室での取り調べが事実と異なる自白を生み、冤罪の温床になってきた。録音・録画対象を拡大し、弁護士立ち会いも認めるべきだ。
これらは欧米や韓国、台湾などで実現していることも多い。日本の刑事司法は、人権面での遅れを自覚し、今回の検証を制度を改める契機としなければならない。】

1952年3月13日大分新聞・大分合同新聞によるスクープ。最初は共産党員数名の交番爆破事件と報じられたが、結局は大分県警の公安刑事が仕掛けたデッチ上げ事件だった。このまさに80年後の2025年8月8日、東京新聞がこの社説「冤罪事件の検証」を書いた。大川原化工機の冤罪だった。この80年、私は中学2年生から85歳、今現在裁判に興味を持つ高齢者。冤罪裁判に80年間搾り上げて生きてきた。実に興味深いなあ……(END)

2025年8月11日配信
鳥越 俊太郎 記述

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鳥越俊太郎 鳥越俊太郎

1940年3月13日生まれ。福岡県出身。京都大学卒業後、毎日新聞社に入社。大阪本社社会部、東京本社社会部、テヘラン特派員、『サンデー毎日』編集長を経て、同社を退職。1989年より活動の場をテレビに移し、「ザ・スクープ」キャスターやコメンテーターとして活躍。山あり谷ありの取材生活を経て辿りついた肩書は“ニュースの職人”。2005年、大腸がん4期発覚。その後も肺や肝臓への転移が見つかり、4度の手術を受ける。以来、がん患者やその家族を対象とした講演活動を積極的に行っている。2010年よりスポーツジムにも通うなど、新境地を開拓中。

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