【連載】櫻井ジャーナル

【櫻井ジャーナル】2025.09.01XML: 麻薬対策の名目で艦隊を派遣したトランプ大統領だが、麻薬取引の背後にはCIA

櫻井春彦

 ドナルド・トランプ大統領は確認石油埋蔵量が世界最大であるベネズエラの沖へアメリカ海軍の駆逐艦3隻を派遣、ベネズエラ軍は警戒態勢に入っている。アメリカ政府はさらに数機のP-8偵察機、少なくとも1隻の攻撃型潜水艦、そして海軍と海兵隊で合計約4500人の兵士を乗せた軍艦を投入するように命じたという。この軍事行動の建前は麻薬対策だが、その命令は主権国家の指導者を排除することが目的だとしか言いようがない。

 

そもそも、麻薬取引の黒幕はアメリカの情報機関にほかならない。ベトナム戦争の際には東南アジアの山岳地帯で栽培されるケシを原料とするヘロイン、中央アメリカでアメリカの巨大資本にとって都合の悪い政権が誕生した際にはコカイン、アフガニスタンで戦争を始めた時にはパキスタンとアフガニスタンをまたぐ山岳地帯で栽培されているケシで生産されるヘロインなど、いずれもCIAが工作資金の捻出に使っている。本気でアメリカ政府が麻薬取引を撲滅したいなら、自らの国の情報機関や犯罪組織を摘発しなければならない。

 

アメリカはイギリスの戦略を引き継いでいるが、そのイギリスは中国を侵略して富を盗み出すため、19世紀にアヘン戦争を仕掛けている。1839年9月から42年8月にかけての第1次アヘン戦争と56年10月から60年10月までの第2次アヘン戦争だが、この戦争をビクトリア女王にさせたのは反ロシアで有名な政治家、ヘンリー・ジョン・テンプル(別名パーマストン子爵)にほかならない。イギリスは「自由貿易の原則を守る」ためにアヘン戦争を始めるとしていた。アヘン戦争と並行する形でプロテスタントの影響を受けた道教信仰の教団が率いる太平天国の乱が起こった。

 

中国(清)は1729年にアヘンを禁止したが、イギリスは無視してアヘンを中国へ密輸する。そこで中国政府は1799年に禁止政策を強化したのだが、それでも東インド会社は南岸への密輸ルートを拡大した。こうした犯罪行為を主導したのがウィリアム・ジャーディンとジェームズ・マセソンにほかならない。このふたりが創設した会社は香港の香港上海銀行(現在のHSBC)と深く結びついていた。

 

2度のアヘン戦争で大儲けしたジャーディン・マセソンは1859年にトーマス・グラバーを長崎へ、ウィリアム・ケズウィックを横浜へそれぞれエージェントとして送り込んだ。ケズウィックの母方の祖母は同社を創設したひとりであるウィリアム・ジャーディンの姉だ。

 

グラバーとケズウィックが来日した1859年にイギリスのラザフォード・オールコック駐日総領事は長州の若者5名をイギリスへ留学させることにする。選ばれたのは井上聞多(馨)、遠藤謹助、山尾庸三、伊藤俊輔(博文)、野村弥吉(井上勝)。この5名は1863年にロンドンへ向かうが、この時に船の手配をしたのがジャーディン・マセソンにほかならない。1861年に武器商人として独立したグラバーも渡航の手助けをしているが、ケズウィックは1862年にジャーディン・マセソンの共同経営者となるために香港へ戻った。

 

第2次世界大戦が終わって間もないころまではアヘンの原料であるケシの主要産地がトルコやイランの周辺。アヘンを精製して得られるモルヒネはマルセイユを経由してアメリカなどの消費地へ運ばれていった。このモルヒネをジアセチル化することでヘロインは得られる。この当時、麻薬取引の中心はコルシカ島系の犯罪組織やフランスの情報機関。いわゆる「フレンチ・コネクション」だ。

 

1946年からフランスはインドシナの再植民地化を目論み、独立を目指す人びととの間で戦争になるが、50年代に入るとケシの主要産地はその東南アジアへ移動していく。東南アジアのケシ産地は「黄金の三角地帯」と呼ばれた。1960年代に入るとフレンチ・コネクションにCIAが関係してくる。

 

この麻薬密輸ルートにはイタリアを拠点とするミケーレ・シンドナなる人物が関係、麻薬の取り引きを通じて蒋介石と親密な関係を築く。シンドナはCIAの工作員であると同時にバチカン銀行の財政顧問。秘密結社P2(プロパガンダ・ドゥー)のメンバーでもある。イタリアの富豪たちの資産を隠す仕事もしていた。(Paul L. Williams, “Operation Gladio,” Prometheus Books, 2015)

 

フレンチ・コネクションの後、麻薬取引の中核はCIAになる。CIAの麻薬を売り捌いたのは第2次世界大戦当時からアメリカの情報機関と関係が深まった犯罪組織の大物たち、例えばユダヤ系のメイヤー・ランスキーやイタリア系のサント・トラフィカンテ・ジュニアだ。

 

麻薬取引は儲けを処理する金融機関が必要だ。東南アジアにおけるヘロイン取引ではナガン・ハンド銀行、アフガニスタンの反ソ連ゲリラを支援する工作ではBCCIが使われた。

 

UNODC(国連薬物犯罪事務所)のアントニオ・マリア・コスタはイギリスのオブザーバー紙に対し、麻薬資金と銀行との関係について語っている。2008年に世界の金融システムが揺らいだ際、麻薬取引で稼いだ利益3520億ドルの大半が経済システムの中に吸い込まれ、いくつかの銀行を倒産から救った疑いがあるという。麻薬資金は流動性が高く、銀行間ローンで利用された可能性があるというのだ。(The Observer, December 13, 2009/The Observer, April 3, 2011)

 

2008年にワコビアという銀行が破綻してウェルズ・ファーゴに吸収されている。このワコビアが2004年から07年にかけて3784億ドルという麻薬資金のロンダリングをしていたことが判明しているのだが、この事実に気づき、内部告発した社員は解雇されてしまった。このマネーロンダリングを銀行の幹部は知っていたということだ。

 

CIAは麻薬資金のロンダリングにも関係、「CIAの銀行」と呼ばれる金融機関が存在する。例えば対キューバ工作と関係しているバハマ諸島ナッソーのキャッスル銀行、CIAに強力していたユダヤ系ギャングのメイヤー・ランスキーが違法資金のロンダリングに使っていたマイアミ・ナショナル銀行、ペリーン銀行、BWC(世界商業銀行)等々。BWCとつながっていたスイスの国際信用銀行はイスラエルの情報機関、モサドへ資金を流していた。1953年にイランのムハマド・モサデク政権を倒したクーデターでCIAが資金の調達に使ったディーク社はロッキード事件でも登場する。

 

こうした資金はロンドンを中心とするオフショア市場のネットワークへ流れ込む。そのネットワークにはジャージー島、ガーンジー島、マン島、ケイマン諸島、バミューダ、英領バージン諸島、タークス・アンド・カイコス諸島、ジブラルタル、バハマ、香港、シンガポール、ドバイ、アイルランドなどが含まれている。(Nicholas Shaxson, “Treasure Islands”, Palgrave Macmillan, 2011)

 

CIAが麻薬取引に関係していることはCIAの内部調査でも判明しているが、麻薬取引の捜査でCIAに迫ったロサンゼルス市警の捜査チームは解散、捜査官は退職させられ、コカインとCIAの関係を暴いたジャーナリストもメディアの世界から追い出されて「自殺」に追い込まれている。

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【​Sakurai’s Substack​】
※なお、本稿は「櫻井ジャーナル」https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/
のテーマは「麻薬対策の名目で艦隊を派遣したトランプ大統領だが、麻薬取引の背後にはCIA 」(2025.09.01XML)
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