
〈私のノート 太平洋から東海へ 5〉歴史の分岐点で問われる西側の選択/乗松聡子 2025年09月01日
国際政治『朝鮮新報』より許可を得て転載
〈私のノート 太平洋から東海へ 5〉歴史の分岐点で問われる西側の選択/乗松聡子 2025年09月01日
https://chosonsinbo.com/jp/2025/09/01sk-25/
8月15日は日本の「終戦記念日」です。この日の日本政府による「全国戦没者追悼式」での石破首相の挨拶には、首相としては13年ぶりに、戦争の「反省」という言葉が入りました。天皇も例年と同様「過去を顧み、深い反省の上に立って」と言いました。しかし誰に対し何を反省しているのかは語りません。
この式典は「戦禍に倒れた約310万人の方々の尊い犠牲」を追悼するためとされています(厚労省のHPより)。日本政府がいう、軍人・軍属230万、民間人80万は、日本人の戦没者の概数です。そこには植民地支配の下、日本人として動員され殺された朝鮮や台湾などの人々さえ入っていません。
アジア太平洋全域で2千万人以上の人たちの命を奪った戦争の追悼式で、310万人の日本人しか追悼していないのです。これは日本の侵略戦争を生み出した自国中心主義と通底する、「日本人ファースト」式典です。根本が間違っているのです。
8月15 日は、朝鮮半島の人々にとって、日帝の植民地支配から解放された日です。朝鮮の金正恩委員長は、祖国解放80周年の慶祝大会での演説で、「5千年の歴史に最大の恥辱を残し、人民の恨みと悲しみが骨髄に徹した亡国史の流れを止めたのが祖国の解放でした」と言いました。朝鮮の悠久の歴史の中で唯一、国そのものを奪うという罪を犯したのが日本だったのです。
ロシアのヴォロージン下院議長を招待したこの大会で、委員長はこうも言いました。「今日、朝ロ親善関係は歴史に前例のない同盟関係へと発展し、ネオナチズムの復活を阻止し、主権と安全、国際正義を守り抜くための共同の闘争を通じて強化されています。…(中略)今年、人類は全世界を奴隷化しようとしていたファシズムを撃滅し、その犯罪的蛮行に終止符を打った第二次世界大戦終結80周年を迎えています。」
歴史と現在を見事に繋げる言葉でした。ファシズムも、ナチズムも、昔のことではありません。ウクライナ戦争の根本の原因は、ソ連が崩壊し、冷戦が終結したにも拘らず、米国が率いるNATOが東方拡大を続けロシアを威嚇し続けたことにあります。2014年、米国がネオナチ勢力を投入してウクライナ政権を転覆させた「マイダンクーデター」以来、傀儡政権が東部でロシア系住民を迫害し、ウクライナは西側によるロシア侵略の拠点となりました。
ロシアにとって特別軍事作戦の目的は、自国を守るためのウクライナ中立化、非ナチ化であり、第二次大戦のナチスとの闘いと直結しています。西側メディアは180度違う報道をしていますが、いま「グローバル・マジョリティー」とも呼ばれる、グローバルサウス諸国では、この戦争の本質は広く共有されています。ロシアに軍事的協力をした朝鮮もその一国です。
8月15日は、アラスカにて、トランプ大統領とプーチン大統領の歴史的会談も開催されました。バイデン政権が外交を遮断し、4年間途絶えていた米ロ直接対話の再開だったのです。それなのに西側メディアは「テレビ向けの見世物」「KGB元将校がトランプを懐柔」といった、戦争を続けたいとしか思えないような語り口でした。
地政学アナリストのペペ・エスコバール氏は、アラスカ会談でプーチン大統領は、ロシアだけでなく「BRICSを代表していた」と指摘しています。ウクライナ戦争を受けた対ロシア制裁や、「トランプ関税」は、その意図とは逆にBRICS諸国を結束させ、脱ドル化を加速させました。いまやBRICSはパートナー国も合わせた20ヵ国で、世界のGDP(PPP購買力平価ベース)の46%、人口は55%を占めます。そのBRICS勢力を抑えるために米国をはじめ西側は、戦争や制裁を仕掛け続けています。
アラスカ会談は、8月15日に行われたことも象徴的でした。ロシアと米国は、第二次世界大戦の連合国側としてドイツと日本のファシズムを倒したという歴史を共有しています。プーチン大統領は会談後、アラスカで亡くなったソ連の飛行兵の墓に献花しました。
そして舞台は北京に移ります。5月9日のモスクワでの対独戦勝記念日に続き、9月3日の対日戦勝記念日に習近平主席とプーチン大統領が再び同席、さらに金正恩委員長も出席します。日本は本当に「反省」しているのなら敗戦国としてこの式典に敬意を払うのが筋でしょう。しかし報道によると、日本は各国に、「反日」的な行事に参加しないよう呼びかけています。あまりにも恥ずかしい行為です。
この式典にはトランプ大統領も招待されていると報じられています。今、かれが率いる西側帝国は、歴史の分岐点に立っていると言えるでしょう。失いつつある覇権にしがみつき破壊の道を歩み続けるのか。それとも国際協調の道を選ぶのか。西側の忠実な一員である、日本にも突きつけられている問いです。9月3日、日本人として北京に思いを馳せたいと思います。
プロフィール
ジャーナリスト。東京・武蔵野市出身。高2,高3をカナダ・ビクトリア市の国際学校で学び、日本の侵略戦争の歴史を初めて知る。97年カナダに移住、05年「バンクーバー9条の会」の創立に加わり、06年「ピース・フィロソフィー・センター(peacephilosophy.com)」設立。英語誌「アジア太平洋ジャーナル」エディター。2人の子と、3匹の猫の母。著書に『沖縄は孤立していない』(金曜日、18年)など。19年朝鮮民主主義人民共和国を初訪問。世界の脱植民地化の動きと共にありたいと思っている。
(本連載は、反帝国主義、脱植民地主義の視座から日本や朝鮮半島をめぐる諸問題や国際情勢に切り込むエッセーです)
初出は『朝鮮新報』 https://chosonsinbo.com/jp/2025/09/01sk-25/
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東京出身、1997年以来カナダ・バンクーバー在住。戦争記憶・歴史的正義・脱植 民地化・反レイシズム等の分野で執筆・講演・教育活動をする「ピース・フィロ ソフィーセンター」(peacephilosophy.com)主宰。「アジア太平洋ジャーナル :ジャパンフォーカス」(apjjf.com)エディター、「平和のための博物館国際ネッ トワーク」(museumsforpeace.org)共同代表。編著書は『沖縄は孤立していない 世界から沖縄への声、声、声』(金曜日、2018年)、Resistant Islands: Okinawa Confronts Japan and the United States (Rowman & Littlefield, 2012/2018)など。