【特集】ウクライナ危機の本質と背景

マリウポリ陥落─「降伏」を「戦闘任務終了」という言い換え─

安斎育郎

ロシア国防省は2022年5月17日、ウクライナ戦争の激戦地マリウポリで、アゾフスターリ製鉄所を最後の拠点として抵抗していたウクライナ部隊が「降伏した」と発表しました。この事実をウクライナ軍は「戦闘任務終了」と表現しましたが、疲れ切った兵士らが撤退する様子が映し出されました。

ロシア軍はアゾフスターリ製鉄所を包囲していた部隊を戦況が停滞している東部戦線に派遣して、攻勢を強めるものと予想されています。アメリカのワシントン・ポスト紙は、「ウクライナがマリウポリを失って大きく後退した」と報じました。

「時間の問題」と言われていたのですが。ウクライナ側が発表した情報によると、5月16日に負傷兵を含む264人の兵士がロシア側支配地域に「退避」したということです。

かつて日本軍も、「撤退」や「退却」という言葉を使わずに「転進」と表現しましたが、意味内容は「自軍が不利になって敵から逃げる形へと行動を変更すること」で、ガダルカナル島の戦いで日本軍が撤退した際の大本営発表で使われた言葉です。実態は「敗北」に外なりませんでした。

黒海につながるアゾフ海に面した要衝であるマリウポリは、ロシア軍が開戦直後から重点的な攻撃対象にしていたもので、プーチン大統領は4月にマリウポリを「制圧」することを宣言し、アゾフタル製鉄所の包囲を続けるよう指示していました。

マリウポリは戦略的要地で、2014年にロシアが領土に編入した南部クリミア半島と東部のドネツク州やルハンスク州の親ロ派支配地域をつなぐ都市であるとともに、重要な港湾施設もあることから、海上輸送の拠点としての利用価値も大きい。

ウクライナ軍参謀本部は声明で「マリウポリの守備隊は戦闘任務を完遂した」と説明し、「軍最高司令部はアゾフスターリ製鉄所に駐留する部隊の指揮官に対し、隊員の命を救うよう命令した」と述べました。ウクライナ軍を構成しているアゾフ連隊の司令官は「降伏せず、死守する」と公言していただけに、「戦闘任務終了」とでも表現しない限り「降伏」出来なかったのかもしれません。

参謀本部は、さらに、「マリウポリの守備隊はわれわれの時代の英雄であり、永遠に歴史に残るだろう。この中には『アゾフ』特別部隊やウクライナ国家親衛隊第12旅団、第36独立海兵旅団、警察、義勇兵、マリウポリの領土防衛隊が含まれる」と発表しました。

声明は最後に、「すべてのウクライナ人と全世界に共通する最も重要な仕事はマリウポリの守備隊の命を守ることだ。われわれはあなた方に劣らず忠実に、すべての前線であなた方のために戦う」と宣言しています。

ゼレンスキー大統領は5月16日に動画を公開し、「マリウポリの兵士たちを救うための作戦が始まった」と明らかにし、「兵士の中には重傷を負っている者もいる。英雄たちが生きることがウクライナにとって何よりも必要だということを強調したい」と述べていました。

ユダヤ人であるゼレンスキー大統領は、心の内では、ネオナチの流れをくむアゾフ連隊がマリウポリの戦いで全滅することを秘かに期しているのではないかという憶測もありましたが、アゾフ連隊の子々孫々に遺恨を残さないためにも、アゾフ連隊を含むウクライナのマリウポリ部隊を「英雄化」し、その命を救った実績を残したかったのかもしれないという穿った見方もあります。

ウクライナのマリャル国防次官は、同日、「53人の重傷者がアゾフスターリ製鉄所から 東部ドネツク州にある親ロシア派の医療施設 に搬送され、 211人が避難ルートを 通じて移送された」と述べ、兵士の移送にあたってウクライナ軍が拘束したロシア軍の捕虜との交換が行われる可能性も示唆しました。

一方ロシア国防省は5月17日 、「この24時間でウクライナ側の戦闘員や兵士 265人が武器を捨てて投降し、このうち51人が重傷を負っていて治療のため病院に送られた」などと発表しました。

また、ロシア国防省は、西部リビウ州の鉄道駅付近で、欧米側から供与され東部に輸送する準備中だったとする兵器を巡航ミサイルで破壊したとしたほか、北東部スムイ州や北部チェルニヒウ州でも訓練センターを攻撃したと発表しました。

どうもウクライナの人々には、親西欧系ウクライナ人、親ロシア系ウクライナ人に加えて、少数ながら、ネオナチ系の差別的・暴力的ウクライナ人がいるようですが、ブチャなどでの国際社会だましをゼレンスキー大統領も知っていたとすれば、それこそ大問題ですね。ゼレンスキー大統領は戒厳令を敷き、反対派の最大野党“Opposition Platform for Life”を非合法化してみたり、批判的なテレビ局を潰して単一の国営テレビ・プラットフォームに統一してみたり、もう「独裁者」になっていますね。

(「2022年5月~6 月ウクライナ戦争論集」から転載)

 

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安斎育郎 安斎育郎

1940年、東京生まれ。1944~49年、福島県で疎開生活。東大工学部原子力工学科第1期生。工学博士。東京大学医学部助手、東京医科大学客員助教授を経て、1986年、立命館大学経済学部教授、88年国際関係学部教授。1995年、同大学国際平和ミュージアム館長。2008年より、立命館大学国際平和ミュージアム・終身名誉館長。現在、立命館大学名誉教授。専門は放射線防護学、平和学。2011年、定年とともに、「安斎科学・平和事務所」(Anzai Science & Peace Office, ASAP)を立ち上げ、以来、2022年4月までに福島原発事故について99回の調査・相談・学習活動。International Network of Museums for Peace(平和のための博物館国相ネットワーク)のジェネラル・コ^ディ ネータを務めた後、現在は、名誉ジェネラル・コーディネータ。日本の「平和のための博物館市民ネットワーク」代表。日本平和学会・理事。ノーモアヒロシマ・ナガサキ記憶遺産を継承する会・副代表。2021年3月11日、福島県双葉郡浪江町の古刹・宝鏡寺境内に第30世住職・早川篤雄氏と連名で「原発悔恨・伝言の碑」を建立するとともに、隣接して、平和博物館「ヒロシマ・ナガサキ・ビキニ・フクシマ伝言館」を開設。マジックを趣味とし、東大時代は奇術愛好会第3代会長。「国境なき手品師団」(Magicians without Borders)名誉会員。Japan Skeptics(超自然現象を科学的・批判的に究明する会)会長を務め、現在名誉会員。NHK『だます心だまされる心」(全8回)、『日曜美術館』(だまし絵)、日本テレビ『世界一受けたい授業』などに出演。2003年、ベトナム政府より「文化情報事業功労者記章」受章。2011年、「第22回久保医療文化賞」、韓国 ノグンリ国際平和財団「第4回人権賞」、2013年、日本平和学会「第4回平和賞」、2021年、ウィーン・ユネスコ・クラブ「地球市民賞」などを受賞。著書は『人はなぜ騙されるのか』(朝日新聞)、『だます心だまされる心』(岩波書店)、『からだのなかの放射能』(合同出版)、『語りつごうヒロシマ・ナガサキ』(新日本出版、全5巻)など100数十点あるが、最近著に『核なき時代を生きる君たちへ━核不拡散条約50年と核兵器禁止条約』(2021年3月1日)、『私の反原発人生と「福島プロジェクト」の足跡』(2021年3月11日)、『戦争と科学者─知的探求心と非人道性の葛藤』(2022年4月1日、いずれも、かもがわ出版)など。

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