
【櫻井ジャーナル】2025.10.09XML : 地下経済の動脈としてのオフショア市場網と資金の出入り口としてのカジノ
国際政治アメリカ、西ヨーロッパ、日本はかつて世界経済をリードする「先進国」と呼ばれていたが、最近は経済が衰退、社会は崩壊しつつある。そうした状況を生み出した主な原因は不公正なシステムによって富を一握りの集団に集中させ、貧富の差を拡大させたことだ。富を集中させる新自由主義が導入されると富豪たちは生産活動を軽視、金融取引に傾注するようになった。通貨を崇めるカルトだ。そのカルトの教祖的な存在がフリードリッヒ・ハイエクやミルトン・フリードマンだと言えるだろう。
富豪たちには資産を隠し、移動させる手段がある。そうした手段を提供しているのは金融機関にほかならない。昔から資産を隠すための仕組みとしてタックス・ヘイブンは存在していたが、新自由主義が導入された1970年代にイギリスの金融界が「地下経済の動脈」として作り出したオフショア市場のネットワークは旧来の仕組みに比べて秘密性が高い。管理には信託の仕組みが採用され、沈められた資金の持ち主は信託の管理者が話さない限り特定は難しいと言われている。(Nicholas Shaxson, “Treasure Islands”, Palgrave Macmillan, 2011)
このオフショア市場のネットワークはかつての大英帝国を中心に張り巡らされている。いわば大英金融帝国。ロンドンを中心にして、ジャージー島、ガーンジー島、マン島、ケイマン諸島、バミューダ、英領バージン諸島、タークス・アンド・カイコス諸島、ジブラルタル、バハマ、香港、シンガポール、ドバイ、アイルランドなどが繋がれている。(前掲書)
イギリスはアヘン戦争で香港を奪い、その後も中国を収奪する拠点として機能してきた。アメリカの情報機関や犯罪組織も麻薬取引だけでなく、その取り引きによる利益を処理するためにも使われてきた。香港は一種の犯罪都市であり、世界で最も不平等な地域のひとつだが、それを「民主的」で「自由」だと考えている人もいる。
イギリスは香港を1997年に中国へ返還したものの、この場所は依然として大英金融帝国の重要な拠点であり、今でもイギリスと香港のエリートは結びついているのだが、人の結びつきだけでなく、金融の結びつきも強い。香港ドルの発行認可を受けている3銀行のうち、HSBC(香港上海銀行を母体として1991年に設立)とスタンダード・チャータードはロンドンに拠点を置いている。
オフショア市場のネットワークには地下世界と地上世界を結ぶ出入り口が存在しているが、そこにはカジノが建設されていることも少なくない。香港、シンガポール、マカオ、ラスベガスだけではない。多額の通貨が動く場所はマネーロンダリングしやすいのだろう。日本にもカジノが作られる。
帝国主義の仕組みは変異しながら生きている。軍事力だけでなく金融システムを利用しているが、アジア、アフリカ、ラテン・アメリカなどを略奪しているという点でかつての帝国主義と違いはない。
新自由主義も帝国主義の変異種。そうした地域だけでなく、「先進国」のエリートは国内でも人びとの富を略奪し、オフショア市場のネットワークに隠蔽している。イギリス労働党の党首だったジェレミー・コービンはイスラエルによるパレスチナ人虐殺を批判すると同時に、経済的な略奪システムの中枢にいる金融エリートを批判したのだが、それを「反ユダヤ主義」だと攻撃する人もいた。
ロンドンを中心とするオフショア・ネットワークに対抗する形でアメリカは1981年にIBF(インターナショナル・バンキング・ファシリティー)を開設、これをモデルにして日本では86年にJOM(ジャパン・オフショア市場)をオープンさせた。
しかし、こうした仕組みが分離、対立しているわけではない。2015年9月にロスチャルド・アンド・カンパニーのアンドリュー・ペニーはサンフランシスコ湾を臨むある法律事務所で講演した際、税金を払いたくない富豪は財産をアメリカへ移すように顧客へアドバイスするべきだと語ったという。(Jesse Drucker, “The World’s Favorite New Tax Haven Is the United States,” Bloomberg, January 27, 2016)
ペニーによると、アメリカこそが最善のタックス・ヘイブン。アメリカは富豪たちが絡む金融犯罪が免責され、開いた穴は庶民が埋めてくれる腐敗した国。単純に税金を払いたくない富豪だけでなく、国の資産を盗んだり、賄賂を受け取っている政治家や役人、麻薬業者のように不正な稼ぎを隠したい犯罪者などを集めているように見える。
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