【連載】櫻井ジャーナル

【櫻井ジャーナル】2025.10.10XML : イスラエルや米国にとってハマスとの和平合意はパレスチナでの民族浄化の一里塚

櫻井春彦

 ハマスとイスラエルの交渉担当者は10月8日、ガザにおける和平合意の第1段階をクリアしたという。アメリカのドナルド・トランプ大統領によると、人質全員が間もなく解放され、イスラエルは合意された線まで軍を撤退させるという。

 

今年1月の合意に沿った内容だが、アメリカやイスラエルは合意事項を守らない過去がある。実際、ハマスは人質が返還されたなら3月のようにイスラエルは合意を破棄するのではないかと懸念している。イスラエルに約束を守らせる役割をハマスはトランプに期待しているようだが、シオニスト、あるいはシオニストの命令に従うトランプがその期待にこたれられる可能性は高くない。

 

パレスチナに「ユダヤ人の国」を建設するというシオニズムはイギリスで生まれ、先住民であるアラブ系住民の虐殺を主導してきたのはイギリスの富豪だ。エリザベス1世の時代にもユダヤ人は宮廷の中にいて、女王自身もヘブライ語を学んでいたと言われているが、イギリスが正式にユダヤ人の入国を認めたのはピューリタン革命の時代。海賊行為で稼いでいたイギリスの支配層はマーチャント・バンカーを引き入れるためにユダヤ人の入国を認めたようだ。

 

パレスチナに「ユダヤ人の国」を建設する第一歩と言われる書簡、いわゆる「バルフォア宣言」をアーサー・バルフォアがウォルター・ロスチャイルドへ出したのは1917年11月のこと。イギリスは1920年から48年の間パレスチナを委任統治、ユダヤ人の入植を進めたが、1920年代に入るとパレスチナのアラブ系住民は入植の動きに対する反発を強めた。

 

そうした動きを抑え込むため、デイビッド・ロイド・ジョージ政権で植民地大臣に就任したウィンストン・チャーチルはパレスチナへ送り込む警官隊の創設するという案に賛成、アイルランドの独立戦争で投入された「ブラック・アンド・タンズ」のメンバーを採用した。

 

この組織はIRA(アイルランド共和国軍)を制圧するために設立されたのだが、殺人、放火、略奪など残虐さで有名だった。イングランドでは、ピューリタン革命を指揮したオリバー・クロムウェルの軍隊がアイルランドを軍事侵略、大量虐殺している。

 

アラブ系先住民がいる場所に「ユダヤ人の国」を作るためには先住民を排除しなければならない。南北アメリカやオーストラリアのように、先住民を虐殺しなければならないということだ。実際、パレスチナではそうしたことが実行されているが、パレスチナに先住民がいなくなれば中東全域に対象は広がるかもしれない。

 

今年1月9日、医学雑誌「ランセット」は2023年10月7日から24年6月30日までの間にガザで外傷によって死亡した人数の推計値が6万4260人に達し、そのうち女性、18歳未満、65歳以上が59.1%だとする論文を発表した​。ガザの保健省は同じ時期において戦争で死亡した人の数を3万7877人と報告、これでも衝撃的な数字だったのだが、それを大きく上回る。

 

「ハーバード大学学長およびフェロー」のウェブサイト「データバース」に掲載されたヤコブ・ガルブの報告書はさらに凄まじい。​2023年10月7日にイスラエル軍とハマスの戦闘が始まる前には約222万7000人だったガザの人口が、ガルブによると、現在の推定人口は185万人。つまり37万7000人が行方不明だ。​ガザは事実上の強制収容所であり、住民が逃走した可能性は小さい。つまり殺された可能性が高いと言える。

 

こうした虐殺を西側諸国のエリートは支援してきた。すでに、民族浄化後のパレスチナを統治する仕組みも作りつつある。パレスチナ人の抵抗を鎮圧した後に土地を奪い、「平和」を祝おうというわけだ。この問題ではトランプの義理の息子であるジャレッド・クシュナーとトニー・ブレア元英首相が暗躍している。

 

ブレアはオックスフォード大学の学生だった時に「ブリングドン・クラブ」という学生の結社に入っていた。メンバーの多くはイートン校の出身、つまり富豪の子どもたちで、素行を悪さを誇っていた。ブレアと同じ頃にこの結社に入っていた人物にはボリス・ジョンソン、デイビッド・キャメロン、ジョージ・オズボーン、ナット・ロスチャイルド、あるいはポーランドのラデク・シコルスキー元外務大臣も含まれている。

 

ブレアは1994年1月、妻のチェリー・ブースと一緒にイスラエル政府の招待で同国を訪問、帰国して2カ月後にロンドンのイスラエル大使館で富豪のマイケル・レビーを紹介された。その2カ月後、つまり1994年5月に労働党の党首だったジョン・スミスが心臓発作で急死、その1カ月後に行われた新党首を決める投票でブレアが勝利している。レビーやLFIのようなイスラエル・ロビーを資金源にしていたブレアは労働組合の影響を受けなかった。

 

1980年代以降、イギリスの二大政党である保守党と労働党の圧力団体である労働党イスラエル友好協会(LFI)と保守党イスラエル友好協会(CFI)の両方に資金を提供しているサー・トレバー・チン卿もブレアのスポンサー。

 

チンはキア・スターマーが首相になるのと助けたことでも知られている。スターマーは2020年にチン卿から5万ポンドを受け取って以来「無条件でシオニズムを支持する」と公言、親イスラエル色を強めている。その前、彼は労働党のパレスチナ中東友好協会に所属していた。

 

トランプにしろブレアにしろ、帝国主義の悪臭を放っている。

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