
【櫻井ジャーナル】2025.10.11XML : 米支配層の意向に沿う形でベネズエラの体制転覆を目指す活動家にノーベル平和賞
国際政治今年の「ノーベル平和賞」が授与されるのは、ベネズエラの現体制を転覆させ、アメリカの巨大資本が支配する帝国主義体制を復活させる活動をしてきたマリア・コリナ・マチャドだという。この章を授与されるということは、碌でもない人物だということだろう。ベネズエラの確認石油埋蔵量は世界最大で、石油や天然ガスを含むロシアの資源を奪うことに失敗したアメリカやイギリスの富豪たちは涎を垂らすほど欲しくてたまらないようだ。
北米の巨大資本は中南米の国々を植民地化し、略奪してきた。その構図を壊そうとする試みは何度かあったが、1998年にベネズエラの大統領に選ばれたウゴ・チャベスもアメリカの巨大資本への従属を拒否するひとり。そこで巨大資本の走狗であるアメリカ政府はベネズエラの体制転覆を目論み始めた。マチャドもその手先だと言える。
まずジョージ・W・ブッシュが大統領だった2002年。対ベネズエラ工作の中心には、イラン・コントラ事件に登場したエリオット・エイブラムズ、キューバ系アメリカ人で1986年から89年にかけてベネズエラ駐在大使を務めたオットー・ライヒ、そして1981年から85年までのホンジュラス駐在大使を務め、2001年から04年までは国連大使、04年から05年にかけてイラク大使を務めたジョン・ネグロポンテがいた。
ホンジュラス駐在大使時代、ネグロポンテはニカラグアの革命政権に対するCIAの秘密工作に協力、死の部隊(アメリカの巨大企業にとって都合の悪い人たちを暗殺する組織)にも関係している。クーデターが試みられた際、アメリカ海軍の艦船がベネズエラ沖に待機していた。後にWikiLeaksが公表したアメリカの外交文書によると、2006年にもベネズエラではクーデターが計画されている。
アメリカの支配層はベネズエラの体制を転覆させるため、2007年に「2007年世代」を創設、09年には挑発的な反政府運動を行う。こうしたベネズエラの反政府組織に対し、NEDやUSAIDといったCIAの資金を流す組織は毎年4000万ドルから5000万ドルを提供していた。
その2年前、つまり2005年にアメリカの支配層は配下のベネズエラ人学生5名をセルビアへ送り込んでいる。そこにはCIAから資金の提供を受けているCANVASと呼ばれる組織が存在、そこで学生は体制転覆の訓練を受けていた。このCANVASを生み出したのは1998年に組織されたオトポール!なる運動だ。
この運動の背後にはCIAの別働隊であるIRIが存在した。このIRIは20名ほどのリーダーをブダペストのヒルトン・ホテルへ集め、レクチャーする。講師の中心的な存在だったのは元DIA(国防情報局)分析官のロバート・ヘルビー大佐だ。
抗議活動はヒット・エンド・ラン方式が採用された。アメリカの政府機関がGPS衛星を使って対象国の治安部隊がどのように動いているかを監視、その情報を配下の活動家へ伝えている。このとき、アメリカは情報の収集や伝達などでIT技術を使う戦術をテスト、その後の「カラー革命」におけるSNSの利用にもつながった。(F. William Engdahl, “Manifest Destiny,” mine.Books, 2018)
ラテン・アメリカはアメリカだけでなく、ヨーロッパの富も築いた。15世紀から17世紀にかけての「大航海」時代、この地域で財宝を奪うだけでなく、そこで産出される金、銀、エメラルドなども奪ったのだ。中でもボリビアのポトシ銀山は有名で、この銀山だけで、1545年に発見され手から18世紀までに15万トンが運び出されたとされている。
スペインが3世紀の間に南アメリカ全体で産出した銀の量は世界全体の80%に達したと言われているが、詳細は不明。全採掘量の約3分の1は「私的」にラプラタ川を経由してブエノスアイレスへ運ばれ、そこからポルトガルへ向かう船へ積み込まれていた。16世紀の後半にスペインはフィリピンを植民地化、銀を使い、中国から絹など儲けの大きい商品を手に入れる拠点として使い始める。(Alfred W. McCoy, “To Govern The Globe,” Haymarket Books, 2021)
そうした財宝を運ぶスペインの船を海賊に襲わせ、奪っていたのがイギリスにほかならない。エリザベス1世の時代にイギリス王室が雇った海賊は財宝を略奪しただけでなく、人もさらっていた。つまり人身売買にも手を出していた。
ジョン・ホーキンスという海賊は西アフリカでポルトガル船を襲って金や象牙などを盗み、人身売買のために拘束されていた黒人を拉致、その商品や黒人を西インド諸島で売り、金、真珠、エメラルドなどを手に入れている。こうした海賊行為をエリザベス1世は評価、ナイトの爵位をホーキンスに与えている。
フランシス・ドレイクという海賊は中央アメリカからスペインへ向かう交易船を襲撃して財宝を奪い、イギリスへ戻るが、ホーキンスと同じように英雄として扱われた。女王はそのドレイクをアイルランドへ派遣して占領を助けさせるが、その際、ラスラン島で住民を虐殺したことが知られている。その後も海賊行為を働いたドレイクもナイトになっている。
ホーキンスやドレイクについで雇われた海賊のウォルター・ローリーは侵略者のイングランドに対して住民が立ち上がったデスモンドの反乱を鎮圧するため、アイルランドにも派遣された。ローリーも後にナイトの爵位が与えられている。(Nu’man Abo Al-Wahid, “Debunking the Myth of America’s Poodle,” Zero Books, 2020)
アングロ・サクソン系の人びとはオーストラリアでも先住民を虐殺して富を奪ったが、同じことをパレスチナでも行っている。勿論、アフリカも犠牲者だ。
アメリカのバラク・オバマ政権は2014年2月、ネオ・ナチを利用してビクトル・ヤヌコビッチ政権を倒した。ヤヌコビッチの支持基盤だったオデッサではネオ・ナチが攻め込んで反クーデター派の住民を虐殺して制圧したが、同じくヤヌコビッチの支持基盤だった東部のドンバス(ドネツクやルガンスク)では武装闘争が始まり、南部のクリミアはいち早くロシアと一体化して身を守った。つまり、アメリカはクーデターでウクライナを完全に支配することには失敗した。ノルウェーのノーベル賞委員会が2022年に「平和賞」をベラルーシのアレシ・ビャリャツキ、ロシアの「メモリアル」、ウクライナのCCL(市民自由センター)に授与したのは、その失敗への腹いせかもしれない。なお、CCLは2007年5月にキエフで創設された組織で、資金提供者としてアメリカ国務省、欧州委員会、CIAの資金を扱っているNED、ジョージ・ソロスのオープン・ソサエティが含まれている。
以前から「ノーベル平和賞」は政治色が強いと言われてきた。例えば「棍棒外交」で侵略、殺戮、略奪を繰り返したテディ・ルーズベルト、核兵器を保有したがっていた佐藤栄作、チリやカンボジアでの大量殺戮の黒幕的な存在であるヘンリー・キッシンジャー、イルグンという「テロ組織」のリーダーだったイスラエルのメナヘム・ベギンも受賞している。
その後、CIAとの緊密な関係が明らかになっているポーランドの労働組合「連帯」のレフ・ワレサ、やはりCIAから支援を受けていたダライ・ラマ、CIAと連携していた人脈に周りを囲めれ、ソ連を解体してロシア人に塗炭の苦しみを舐めさせたミハイル・ゴルバチョフも登場する。
バラク・オバマは大統領に就任した年に受賞したが、任期中にドローン(無人機)を使い、アメリカ人を含む多くの人を殺害、ムスリム同胞団やサラフィ主義者(ワッハーブ派、タクフィール主義者)を利用してアメリカへの忠誠度が低い国を侵略し、殺戮と略奪を繰り広げている。オバマの翌年にはコロンビア大学の研究員から中国の反体制活動家になった劉暁波も受賞した。
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