☆寺島メソッド翻訳NEWS(2025年10月15日):元インド外務大臣カンワル・シバル氏:中国とインドの和解はアジアを変える
国際※元岐阜大学教授寺島隆吉先生による記号づけ英語教育法に則って開発された翻訳技術。大手メディアに載らない海外記事を翻訳し、紹介します。

中国天津での2025SCO首脳会議に先立ち、ロシアのウラジミール・プーチン大統領と中国の習近平国家主席と対話中のインドのナレンドラ・モディ首相 。Suo Takekuma – Pool/Getty Images
中国天津でのSCO首脳会議は、これまでのどのSCO首脳会議よりも西側の注目を集めた。西側は総じて、SCOよりもBRICSの会議の方に高い関心を示してきた。その理由は、BRICSはSCOとは違い大陸をまたいで加盟国が広がっているからである。SCOについては、ユーラシア大陸内に収まっている。具体的には、発生当初からの加盟国は、中国とロシア、中央アジア諸国であり、その後かなり時間が経ってからインドとパキスタンが加盟し、最近はベラルーシも加盟した。
BRICS加盟諸国の経済が台頭し、「新開発銀行」や「外資準備基金」などの金融機関の創設や貿易で自国通貨を使用するという提案、米ドルへの依存の軽減という目標、自前の信用格付機関などのアイデアなどを通して、BRICSは加盟諸国や友好諸国、さらには西側からさえも、多極化世界の創設の触媒である、と見られている。そして米国は、そのような世界は、自国の実存する優先性を直接に脅かすものである、と捉えている。SCOは、これまでそのように見られてこなかったのだが、天津首脳会議後には、多極化世界構築に向けた動きのひとつである、と見られることになるだろう。
興味深いことに、BRICS首脳会議は天津での首脳会議のような注目を西側世界から受けたことがない。それにはいくつかの理由がある。
今回のSCO首脳会議は、2008年の北京五輪と同様、中国が自国の勢力を世界に示す機会として利用された。北京五輪の時は、中国が自国が経済大国として台頭したことを世界に示す機会だったのだが、今回中国は、SCO首脳会議を利用して、自国の軍事力の台頭を見せつける機会にしていた。中国は大規模な軍事パレードを組織し、最先端の武器をずらりと並べ、その力を存分に見せつけたのだ。

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そもそも中国によるこの動きは、西太平洋地域における力関係が変わったことを告げるものだった。つまり、米国を抑止する狙いがあったのだ。米国はこの伝言を受け取り、実際トランプ大統領は中国がこのパレードを自分に見て欲しがっていると語り、実際彼はそうしたと明言し、このパレードはすごかった、とも語った。ただし、中国によるこの示威行為が米国に圧力を掛け、この地域における中国の利益を認める方向に向かうのか、それとも米国が自軍の軍事力を強化し、台頭する中国と対抗できるようにするのか、どちらに出るかはまだわからない。トランプ大統領が「防衛省」を「戦争省」という名に戻した理由がここにあるのだろうか、と勘ぐる向きもある。
明らかにこの伝言は台湾にも向けられているものであり、その中身は中国は非常に強力なので、この地域で米国の強い軍事力を使用したとしても台湾の独立に向けたどんな軍事行為も排除できる、というものであった。さらにこのパレードはこの地域の全ての国々に対して、強力な軍事力を有する中国は、南方や東方の海洋上の領土権を放棄する気はない、という伝言でもあった。このような中国の動きは疑いなく、中国の領有権の主張と歩調を合わせて、東シナ海における行動規範の議論の方向性に影響を与えるものだ。
米印関係の深刻な悪化の後で、モディ首相がこの首脳会議に参加したことも、この首脳会議が米国の報道機関や政界において前例のないほど関心を呼んだ理由となった。インド側からすれば、モディ首相がこの会議に参加したことは、トランプ大統領がインドをいわれなき攻撃の対象にしたこととは無関係である、とのことだが、こんな絶妙の時機に会議に参加したことは、インドが、「自国の戦略的自律を実行する際に、より広い政治的代替案も使える」という伝言を米国に伝えた、と解釈されてもしかたがない。ここ20年間、米国はインドを、インド・太平洋地域における中国の拡大主義に対抗する友好国と捉えており、インドは米国のアジアにおける地政学上の戦略である「クアッド」の一員となった。それゆえに、米国側の監視者たちは、中印両国が近づくことで、この戦略が台無しにされ、中国対策として繰り出される米国の手が弱化される、と危惧している。
クアッドやインド・太平洋地域の概念に関しては、インドはもっと微妙な見方をしている。中国はインド国境で直接的な圧力をかけ、インドの隣国諸國に間接的な圧力をかけている。その対抗策として、クアッドやインド・太平洋地域という概念により、インドは中国に圧力をかけようとしている。しかし、米国が中国と大規模な貿易関係を結び、西太平洋地域で軍事衝突が起こらないよう取り組んでいるのと同様に、インドも直接国境を接した隣国として、中国と良好な関係を結ぶことに関心があり、直接対決が発生する危険性を制限し、さらには二国間貿易関係を深めたい、と考えている。

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モディ首相が7年ぶりの中国訪問を決めたことは、両側にとって重大な政治的動きである、と捉えられている。 中国の王毅外務大臣は、すでに前もって訪印しており、インドの国家安全保障の顧問や外交問題担当大臣らとの会談においていくつかの合意を結んでいる。インドにとってこの動きは、天津でのモディ首相と習近平国家主席の2度目の対談を利用して中国とのさらなる緊張緩和を探るための論理的な次の一歩だった。昨年のカザンでの両者の初めての会談は、2020年にラダクで起こった両国間の軍事的対立のせいで、久しぶりの会談となった。カザンでの首脳会議は、制限的ではあったものの、良い結果を産んだ。モディ首相と習近平国家主席との天津での対談は、一時間にわたっておこなわれたが、すぐに大きな前進を成し遂げられることは期待できなかった。しかし、印中関係における空気を改善するものとなった。その目標は、両国関係の前進的な正常化に向けた必要条件とした適切な国境についての話し合いを通じた、国境に関する平和と安定を確実なものにすることにある。
この首脳会議は、すでに両者は今年の12月に訪印を発表しているインドの首相とプーチン大統領が対面の話し合いを前もってもつ機会となった。インドが米国に対して明らかにしたことは、インドはトランプ大統領による圧力に屈することなく、ロシアから原油を買うのをやめるつもりはない、ということだった。したがってモディ首相は、プーチン大統領との面会には非常に友好的な手を差し伸べ、インドのさらなる国益をもたらすという意味において、インドはロシアとの繋がりに非常に重きを置いている、ということを示したのだ。
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モディ首相とプーチン大統領との天津での対談は、疑いなく、殊のほか暖かい雰囲気の中でおこなわれた。モディ首相は自身の自動車でプーチン大統領とともに移動し、ロビーで側近を待たせて、車内で45分間の個人的な会話を持ったのだが、このことは政治的にも報道機関にとっても大きな印象を残した。プーチン大統領がモディ首相にアラスカでのトランプ大統領との対談の中身の詳細について詳細に語った、と推察する向きもある。具体的には、ウクライナ紛争の和平に向けた現在の努力が話し合われ、さらには言うまでもないことだが、印露両国が12月の毎年恒例の印露首脳会議の間に何を追求するかについても話し合われたことだろう。車内の両者のこのやり取りの後、代表団規模での話し合いも持たれ、相互の関わりが両国にとって重要であることが強調された。
車内でのこの話し合いの後、2人の指導者は手に手を取って習近平国家主席のもとに歩み寄り、モディ首相は中国の国家主席に手を差し伸べ、三者が落ち着いた挨拶を交わしたことは、米国の政界や政策立案研究所、報道界に衝撃を与えることになった。ロシアと中国の蜜月ならまだしも、中印露の三国が仲良くなることは、米国の政策上の大失態としか見られなくなるからだ。トランプ大統領がイライラした態度でインドを疎外し、5割の関税を掛けることでインドを攻撃したことにより、インドを「失ってしまった」ことを責める声は多い。さらには、トランプ大統領や彼の部下である高官らがインドに対して多くの屈辱的な発言をおこなってきたことも、非難の対象となっている。

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先日ロシアのセルゲイ・ラブロフ外務大臣も、露印中間の話し合いの再開について言及した。三国の指導者が友好的な雰囲気の中で一堂に会した姿により、米国内のいくつかの集団、特に反トランプ派は不安が掻き立てられることになった。米国自身が地政学上および経済上の強力な一翼の形成に手を貸してしまう形になったからだ。
SCO首脳会議はモディ首相にとって他のアジア諸国の指導者たちと交流する機会となった。例えばイランの大統領だ。SCOが創設されたのは、テロや過激主義、分離主義の問題に取り組むことにあった。これらの問題は、ほぼ全ての加盟国にとって脅威になっているからだ。インドにとっては、これらの脅威は長年抱えてきた問題であり、本会議中のモディ首相の発言においても強調されていた。その際、同首相の頭にあったのは、2025年4月に起こったパパルガムでのテロのことであり、モディ首相は二重規範は受け入れられず、SCO諸国はともにテロに対してあらゆる形態や様式において反対する必要がある、と発言した。
繋がりの形成が、SCO諸国内部の協力拡大における不可欠な要素だ。モディ首相はチャバハル港や国際的な「南北輸送回廊」などの取り組みについて言及した。これらの港や回廊は、アフガニスタンや中央アジアとの繋がりを強化するものだ。ただしモディ首相は、繋がり形成に向けた全て努力は、国家主権や領土保全の原則によって支えられたものでなくてはならず、この原則もSCO憲章の中核となるものである、と述べた。この発言は、「中国・パキスタン経済回廊」を暗に指すものだった。
モディ首相はいくつかのSCO諸国と仏教遺産を共有することについて触れ、SCOのもとでの「文明対話会議」を創設し、市民同士の繋がりを強化することを提案した。この提案は、SCO主要諸国が自国を「文明国家」と捉えているという文脈において重要な意味を持つ。
端的に言えば、天津でのSCO首脳会議により、SCOは国際的な知名度を高めた、ということになるのだ。
※なお、本稿は、寺島メソッド翻訳NEWS http://tmmethod.blog.fc2.com/
の中の「元インド外務大臣カンワル・シバル氏:中国とインドの和解はアジアを変える」(2025年10月15日)
からの転載であることをお断りします。
また英文原稿はこちらです⇒Can India and China finally bridge their deep divides?
先日の上海協力機構(SCO)首脳会議が西側から注目を集めたのは、より良い世界構築のために、自国が何らかの変化を起こせる、という事実が各国に示されたからだ。
筆者:カンワル・シバル(Kanwal Sibal)
引退した元インド外務大臣で2004年から2007年までロシア駐在大使。トルコやエジプト、フランスでも大使をつとめ、ワシントン駐在インド大使館の公使次席でもあった。
出典:RT 2025年9月13日https://www.rt.com/news/624536-sco-summit-india-china/amp/
                
                
                
                
            
        
        
        
        
        
        
        
        
        
        
        
        
        
        
        
        
        
        
        
        
        
        
        
        
        
        
        
        
        
        
        
        
        
        
        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        

















