【連載】櫻井ジャーナル

【櫻井ジャーナル】2025.10.23XML: EUやウクライナが戦争継続を主張する中、ブダペストでの米露首脳会談が中止に

櫻井春彦

 アメリカ政府によると、ドナルド・トランプ米大統領とウラジミル・プーチン露大統領が近い将来、会談する計画はないという。数日前にはハンガリーのブダペストで両国の首脳が会談するとされていたが、その予定が撤回されたようだ。

 

トランプとプーチンは8月15日にアラスカで会談、インフラへの攻撃を停止することで合意したものの、ウクライナ軍はロシアの製油所や発電所への攻撃を継続、ロシア軍はウクライナのインフラに対する攻撃を再開した。こうした状況が続くと、ウクライナの人びとは厳しい冬を過ごさなければならなくなる。

 

トランプ大統領は10月21日、記者団に対して「無駄な会談」や「時間の無駄」はしたくないと語ったというが、つまり彼が望む回答をロシアから引き出せないことを理解したということだろう。西側メディアの報道によると、マルコ・ルビオ米国務長官とセルゲイ・ラブロフ露外相との「建設的な電話会談」により、会談は不要になったとホワイトハウス当局者は語り、首脳会談の中止を認めている。

 

少なからぬ人が指摘しているように、ロシアが求めていることは、ウクライナの非軍事化、非ナチ化、NATOに加盟しないことの保証、ロシア国境付近への西側諸国軍の展開の制限、ウクライナに対する武器供与の制限、ウクライナにおけるロシア語使用の保証、また西側諸国が凍結したロシア資産を返還し、ウクライナの中立を維持すること、そして領土の「現実」、つまりクリミア、ザポリージャ、ヘルソン、ドネツク、ルハンシクにおけるロシアの主権を国際​​社会が承認すること、そしてウクライナ軍がロシア領から撤退し、NATO軍がウクライナから撤退することを条件としている。

 

ロシア政府はこの条件を変えるつもりはないようだが、EUの元指導部はこの要求を拒否している。アメリカ政府の内部にもウクライナ担当特使のキース・ケロッグのようなロシア嫌いのネオコンもいて、今でも軍事や外交の分野で影響力を保持している。トランプ大統領が実際、どのように考えているか不明だが、そうした勢力に逆らうことは困難なようだ。ケロッグのアドバイスがあると、それに従ってきた。

 

しかし、国際情勢を客観的に分析できる人が近くにいれば、ウクライナでNATOがロシアに勝利できないことをトランプ大統領も知っているはず。2014年の「ミンスク1」と15年の「ミンスク2」で西側諸国に煮湯を飲まされたロシアが停戦に応じる可能性が小さいことも理解しているだろう。

 

2019年12月から24年11月にかけてEUの外務安全保障政策上級代表を務めたジョゼップ・ボレル、同じ期間に欧州理事会議長を務めたシャルル・ミシェル、19年7月から22年9月までイギリスの首相を務めたボリス・ジョンソンはウクライナ/NATOが戦場で勝利すると発言、ドイツのフリードリヒ・メルツ首相は、ウクライナが戦争に勝利しなければならないと主張してきた。

 

当初は何らかの理由で彼らはロシアを簡単に打ち負かせると信じていたのだろうが、そうした展開にはならなかった。ウクライナが壊滅的な打撃を受けてもロシアを疲弊させることができ、NATOは疲弊したロシアを倒せいると信じていたかもしれないが、そうした展開にもなっていない。

 

ロシアには資源があるだけでなく、生産能力が欧米諸国を圧倒している。それがウクライナの戦闘で明確になった。戦場におけるロシア軍の死傷者は少ないため、大規模な動員を実施していない。戦場へ送り出すため、街頭で男性を拉致しているウクライナとは全く違う。

 

ジョン・F・ケネディ大統領は暗殺される5カ月前の1963年6月10日、アメリカン大学で「平和の戦略」と呼ばれる演説を行なっている。その中で彼は第2次世界大戦中にソ連が受けた苦しみほど大きな苦しみを味わった国はないと指摘している。ドイツ軍との戦いで少なくとも2000万人が命を落とし、国土の3分の1、産業基盤のほぼ3分の2が廃墟と化したとしている。ドイツ軍が1941年6月にソ連を奇襲攻撃して始められた「バルバロッサ作戦」の結果だ。ドイツは西側に約90万人だけを残し、310万人を投入するという非常識な作戦だが、これはアドルフ・ヒトラーの命令で実行されたという。

 

1941年7月にドイツ軍はレニングラードを包囲、9月にはモスクワまで80キロメートルの地点に到達。ヒトラーはソ連軍が敗北したと確信、再び立ち上がることはないと10月3日にベルリンで語っている。またウィンストン・チャーチル英首相の軍事首席補佐官だったヘイスティングス・イスメイは3週間以内にモスクワは陥落すると推測しながら傍観していた。(Susan Butler, “Roosevelt And Stalin,” Alfred A. Knopf, 2015)

 

しかし、ソ連軍の抵抗でこうした予想通りにことは進まず、ドイツ軍は1942年8月にスターリングラード市内へ突入する。ここでソ連軍に敗北、1943年1月に降伏した。この段階でドイツの敗北は決定的だった。

 

しかし、ドイツ軍との戦いでソ連は疲弊、結局、国が消滅するまで、その痛手から立ち直ることはできなかった。1991年12月にソ連が消滅してからNATOは東へ拡大するが、それは新たなバルバロッサ作戦にほかならず、ウクライナをNATOが制圧することをロシアが許すはずもなかった。

 

そしてウクライナでの戦争が始まるのだが、ソ連時代とは違い、ロシアは対策を練っていたようだ。現在、ロシア経済は順調で、財政状況は西側より健全。生産力もEUがロシアの資産を凍結、没収しよと目論んでいるものの、それでもロシアの外貨準備には余裕がある。生産力が高いため砲弾やミサイルが枯渇する兆候は見られない。

 

この状態が続けばウクライナの被害は膨らむ。すでにヨーロッパ経済は破綻しつつあるが、社会そのものが崩壊する。被害がこれ以上膨らまないようにするにはロシアの要求を受け入れるしかないが、これまで勝てると言い続け、国民に犠牲を強いてきたエリートにとって、それは個人的な破滅を意味する。アメリカ政府の内部にも同じような立場の人もいるが、​トランプ大統領はEUと距離を置き、ロシアがウクライナを滅ぼすのを傍観するつもりだろうと推測する人もいる。

【​Sakurai’s Substack​】
※なお、本稿は「櫻井ジャーナル」https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/
のテーマは「 EUやウクライナが戦争継続を主張する中、ブダペストでの米露首脳会談が中止に 」(2025.10.23XML)
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