権力者たちのバトルロイヤル:第38回 マフィア国家とフロント国家
国際・ウクライナの闇
戦争が始まり、5カ月が過ぎた。しかしメディアの偏向報道は続いている。
大手メディアは相も変わらず悪のロシア、正義のウクライナの構図を崩さない。多くの日本国民は、この戦争の本質を理解することなく、「侵略してきたロシア軍をウクライナ軍が撃破」といった“大本営発表”を鵜呑みにしているのが実情だろう。
そして垂れ流される報道において、すっぽりと抜け落ちているのが「ウクライナの闇」である。
まず触れておきたいのは、戦争が起きるまでウクライナという国家が、いわゆる西側諸国から「犯罪国家」という印象を持たれていたことだ。まさか、と思う人もいるだろうが、このウクライナの闇を扱ったハリウッド映画まであるのだ。それが2005年公開の「ロード・オブ・ウォー」である。
1991年、ソビエト連邦が崩壊し、独立したウクライナに「死の商人」が殺到、大量の武器弾薬や、旧ソ連の兵器技術が流出していく実態が描かれている。主演のニコラス・ケイジが扮する「死の商人」は、実在した複数の武器商人をモデルとしており、映画のエピソードもまた実在の事件をモチーフにしている。
1990年代以降、ユーゴ内戦が激化し、アフリカで多くの内戦が発生、サダム・フセインのイラク軍が最新兵器を揃えていたのも、すべてウクライナが関わっている実態をあますことなく映画化した。タイトルの「ロード」は、戦争を引きおこす過程と、戦争貴族(ロード/卿)にひっかけたものである。
・フロント国家
なぜ、このような事態になったのか、少し説明したい。
91年のソ連崩壊時の混乱で東側の兵器や技術の流出は当然、ロシアでも起こった。この連載でも述べたが、アフガン戦争(1978年〜) で米CIAはイスラム武装兵力を支援する際、ケシなどの違法薬物の栽培を推奨し、それをソ連兵にばらまいてきた。それが悪名高き「ロシアンマフィア」の母体となる。
ロシアンマフィアは、中央アジアをテリトリーに麻薬・武器・人身売買を行なった。大量のドル「外貨」を得たマフィア勢力は、ボリス・エリツィン政権による「民主化」で腐敗した共産党幹部と結託、「民営化」した有望なガス・油田や鉱山鉱区、またインフラ企業を次々と傘下に収めていく。このマフィアのフロント企業群を「オリガルヒ(新興財閥)」と呼ぶ。1990年代のロシア連邦は、GDPの4割をフロント企業が牛耳る「フロント国家」となっていった。
これはロシアに限らず、旧ソ連の構成国家でも「民主化」の美名の下、似たような状態となるが、より深刻な事態を引き起こしたのがウクライナだった。首都のキエフや、ドンバスを中核とした東部エリアでは、旧ソ連時代、700以上もの兵器工廠が整備され、核兵器、ロケット、空母や原子力潜水艦などの軍艦、さらに戦闘機などソ連が誇る兵器工場が集約されていたためである。
さすがにロシアでは、ウラル地方やサンクトペテルブルグの軍工廠は軍が管理していた。残されたロシア最後の威信が「核兵器」と「最新兵器」であったからだ。またマフィア側もエネルギー資源で十分利益が出るために、武器密輸にはあまり手を出さなかった。
ところがウクライナには輸出品となる資源はない。西部の穀倉地帯はチェルノブイリ原発事故(1986年)で壊滅的な影響を受けた。つまり独立したウクライナにとって「売れる商品」が武器と兵器技術だったのである。
当たり前だが、旧ソ連兵器をウクライナが勝手に売買すればロシアが黙ってはいないし、国際社会も容認はすまい。
日増しに悪化する経済のなか、こうして背に腹はかえられないウクライナ政府は、唯一の「売れる商品」である武器や兵器技術の売買を「死の商人」に委託する。国家ぐるみで武器密輸を行なえば、当然、ウクライナの政権や政府は、マフィアによって汚染される。なまじ民主化したことで歴代政権はマフィア「武器商人」のフロント政権と化す。映画「ロード・オブ・ウォー」は、このウクライナ政府の腐敗がストーリーの根幹といっていい。
実際、ウクライナのフロント化は、北朝鮮に核開発・弾頭ミサイル技術を流出させたことからも伺えよう。北朝鮮の核開発の指揮を執っていた金正日は、即座にウクライナの技術者を数十人単位で囲い込んできたといわれる。
日本に向けて発射した弾頭ミサイル「火星」は、ウクライナのロケット企業「ドニエプル」がベースとBBCが報じている。また中国でも、初の国産空母となった「遼寧」は、ウクライナが違法な手段で売却したヴァリャーグがベースとなり、その後の国産空母における技術の大半もウクライナから流出した。中国海軍の急速な近代化には、旧ソ連時代の軍需工廠が集まっていたキエフの軍需企業が中国企業に買収されたことで起こっているのだ。
今回の戦争で、ウクライナではどうして政治と無関係なコメディアンが大統領になったのか、疑問に感じた人も少なくあるまい。ゼレンスキーが主演したドラマ「国民の僕」(15年)は、マフィアの「フロント国家化」したウクライナの実情を描いて人気を得た。
政財界におけるマフィア汚染の酷さに絶望した国民が彼を大統領に選んだ背景には、「さすがにコメディアンはマフィアと関係があるまい」との見立てがあったのだろう。ゼレンスキーの存在は、ある意味、ウクライナの闇の深さと国民の絶望の深さを示している。
・なぜ、ナチスか
このウクライナの「闇」を理解すれば、今回の戦争が起きた理由も見えてくる。
ロシアにすれば、もともとの連邦国で国境を接するウクライナが、強い反ロ感情を持ったマフィアの支配するフロント国家となったのである。
開戦前、ウラジーミル・プーチン大統領が「ウクライナの非軍事化と非ナチス化を目指す」と演説し、ゼレンスキー政権にも「ネオナチ政権」という言葉を使った。
1968年、広島県出身。フリージャーナリスト。