【特集】参議院選挙と改憲問題を問う

「米国との約束」で政治が決まる、岸田外交の正体

足立昌勝

・ウクライナ情勢を利用した改憲策動

日本維新の会は6月8日、他国の武力攻撃や感染症のまん延などに対応するため、憲法を改正して緊急事態条項を創設する「条文イメージ」をまとめた。2週間後に告示された参院選では、憲法9条への自衛隊明記などとともに憲法改正を訴えている。

News headlines. It says “emergency”.

 

維新案は、緊急事態の宣言下に「合理的に必要と認められる範囲内」で国民の自由や権利を制限し、義務を課すことができると規定。選挙実施が困難な場合における議員任期の延長も認めている。これは、ロシアによるウクライナ侵攻を日本への危機ととらえた改憲策動である。

自民党など改憲派は、憲法に「緊急事態条項」を創設する必要性をこれまで以上に強調し、衆参の憲法審査会で意見を集約したい考えのようだが、野党第一党の立憲民主党は現行憲法で対応できるとして反対である。

5月3日の憲法記念日に、東京新聞は、憲法改正の現状を次のように伝えた。

〈自民はウクライナ侵攻を機に、衆院憲法審で緊急事態条項創設の必要性に加え、議論の加速化も強調し始めた。党の改憲4項目の条文イメージに盛り込んだ大規模な自然災害時に加え「有事やテロ、感染症も対象にすべきだ」との声も上がる。ただ、緊急事態の定義は定かではない。

論点の1つは、緊急事態が発生した時に、国会議員の任期を延長するかどうかだ。自民党、公明党、国民民主党は延長に前向きである。
これに対し、立民は任期満了時に衆参の選挙ができなくても、3年ごとに半数改選される参院では半分の議員が残り、憲法に定められている参院の緊急集会などで対応可能だと主張。改憲は不要だとしている〉。

この日、改憲派の民間団体が東京都内で開催した集会に、岸田首相はビデオメッセージを送り、緊急事態条項新設や第九条への自衛隊明記を盛り込んだ党改憲四項目について「いずれも極めて現代的な課題であり、早期の実現が求められる」と述べた。

特に緊急事態条項については、ロシアのウクライナ侵攻や新型コロナ禍を挙げ「緊急事態への備えに対する関心が高まっている。大地震などの緊急時に、国会機能をいかに維持するのか。国家や国民はどのような役割を果たしていくべきなのか」と問いかけ、「迅速な対応を確保するため、憲法にどのように位置付けるかは、極めて重要な課題だ。真剣に議論を深めなければならない」と訴えた。

首相が言及した「国民の役割」には、緊急事態が発生した際に、国民の権利を制限する私権制限が念頭にあるとみられる。つまり、国家の一大事には私権を差し出せ、ということだ。

また岸田首相は、憲法施行から75年を迎えたことに「時代にそぐわない部分、不足している部分は改正すべきではないか」と指摘し、自衛隊については「大規模災害やコロナに懸命に対応しているにもかかわらず、違憲とする声がある」として、九条への明記が必要だとの考えを示した。

政府・自民党内にはウクライナ侵攻を前面に出して、緊急事態への備えを万全にする必要があると訴え続ければ、改憲に向けた世論の理解が得やすくなるとの読みがあるらしい。首相の発言は、改憲の機運を高めるのが狙いなのだろうか。

かつてハト派といわれた宏池会に所属する岸田首相は、いつからタカ派に変わったのか。「新時代リアリズム外交」を打ち出した首相だが、彼の言うリアリズムとは、どの立場に立てば自己保身を図れるかにすぎない。

岸田首相はいま一度宏池会の原点に立ち返り、被爆地・ヒロシマ選出の代議士として平和主義とは何かを真摯に考えるべきだ。憲法の平和主義に立ち、それを擁護する国民の立場に立たなければならない。

ウクライナ情勢を利用した改憲など、日本を世界の危機に巻き込むことにしかならないのは明らかだ。これこそがリアリズムであろう。もう一度、自分の頭でしっかりと考えたらいかがだろうか。

・立法府を無視した岸田政治

5月26日付の朝日新聞は、「『外交の岸田』密かに仕込んだ防衛費増額置き去りになった国内議論」と題し、次のような報道を行なった。

〈23日の日米首脳会談、24日の日米豪印4カ国(クアッド)首脳会合は、岸田文雄首相にとって就任以来、最大の外交的な見せ場だった。来年の主要7カ国首脳会議(G7サミット)に地元の広島開催を打ち出すなど、参院選に向けた演出にこだわった。防衛費の大幅増額や「反撃能力」の検討にも踏み込んだが、与党や国会での具体的な議論も不十分なまま、国際的な約束として打ち出した。

ロシアのウクライナ侵攻や台頭する中国を見据え、「首相が特に準備に力を入れた」(首相周辺)日米首脳会談。これに合わせて、首相が秘密裏に検討を進めたのが、バイデン米大統領との記者会見で、来年のG7サミットの広島開催を表明することだった。

G7 flags, seven table flags on gray background 3d render. Flags of Group of Seven countries: Canada, France, Germany, Italy, Japan, the United Kingdom, USA.

 

開催地には世界的な関心が集まる。広島選出で「核なき世界」への強い思いを持つ首相だけに、事前に米国と調整を済ませていた〉。

岸田外交の特徴は、外交での約束を通して予算を確保する手法である。言うまでもなく外交はあくまでも政府間交渉であり、そこでの合意は政府間の問題である。つまり、行政間の問題にすぎない。

それを根拠として予算を作成することは、国民を愚弄することにほかならない。外国と約束してきたから予算が必要というのは本末転倒であり、国民主権をないがしろにし、立法府を無視したものである。

外交交渉とは秘密裏に進められるもので、交渉過程が外に出てしまえば敗北や交渉の不成立につながる。しかし、予算が伴う外交交渉は、その結果として伴う予算を国民の前に明らかにすべきであり、それ抜きに他国と交渉するのは国民無視であり行政の暴走である。

これも、岸田政権のリアリズムの下では「さも、ありなん」なのか。こんな重大な問題は、言葉遊びで許されるものではない。国民主権を無視した外交を、絶対に許してはならない。

(月刊「紙の爆弾」2022年8月号より)

 

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足立昌勝 足立昌勝

「ブッ飛ばせ!共謀罪」百人委員会代表。救援連絡センター代表。法学者。関東学院大学名誉教授。専攻は近代刑法成立史。

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