【櫻井ジャーナル】 2025.12.03XML : ウクライナで露国に敗北して米国はベネズエラに矛先を向けたが、暗雲
国際政治ドナルド・トランプ政権はベネズエラに対して軍事的な威嚇を続ける一方、西側のメディアは怖気づいたニコラス・マドゥロ大統領が国外へ逃亡しようとしているかのような話を流している。
しかし、10月下旬にロシアのアヴィアコン・ジトトランス所属のIl-76TD輸送機がベネズエラへ飛来した頃から状況が変わっている。ロシアから軍事物資、あるいは傭兵会社の戦闘員を運んできたと考えた人が少なくない。ロシアのスペツナズ(特殊部隊)もベネズエラへ入ったとする話も伝えられている。
11月上旬には、アメリカ軍が威嚇のために2機のB-52爆撃機をベネズエラへ向けて飛行させたのだが、陸地から約100キロメートルの地点でロシア製防空システムであるS-300に照準を合わされ、基地へ戻らざるをえなくなった。そのほか中低高度の防空システムであるブークM2e、シリアで有効性が証明された近距離対空防御システムのパンツィリ-S1も配備された。対艦ミサイルも配備されただろう。
中国やイランもベネズエラへの支援を始めていると言われ、イランは航続距離が2500キロメートルだという攻撃用ドローン「シャヘド」を供与、これによってベネズエラはフロリダのアメリカ軍基地を攻撃できるようになった。ベネズエラはアメリカを恐れていないだろう。
トランプに限らず、アメリカの政権はベネズエラを再植民地化して石油を奪おうとしてきたが、そのアメリカでは他の産油国とは違い、生産コストの高いシェール・ガスやシェール・オイルに頼っている。
シェールとは堆積岩の一種である頁岩(けつがん)を意味し、シェール層から天然ガスやオイルを採取するのだが、そのために水圧破砕(フラッキング)と呼ばれる手法が使われている。垂直に掘り下げ、途中からシェール層に沿って横へ掘り進み、そこへ「フラクチャリング液体」を流し込んで圧力をかけて割れ目(フラクチャー)を作って砂粒を滑り込ませ、ガスやオイルを継続的に回収する。この際に化学薬品が使用されるのだが、それによって地下水源が汚染されている。
アメリカの食糧生産はグレートプレーンズ(大平原)の地下にあるオガララ帯水層に支えられてきたのだが、その水位が低下している。その貴重な水源をシェール・ガスやシェール・オイルの開発で汚染しているのである。この帯水層は2050年から70年の間に枯渇する可能性があるとも言われ、アメリカはエネルギーと食糧で危機的な状況だ。
ウクライナをNATOの支配下に置き、ロシアを征服できればそうした問題を解決できたのだろうが、ウクライナでNATO軍はロシア軍に負けてしまった。イギリスなどはウクライナのクーデター政権に対し、最後のひとりまでロシア軍と戦えと命じている。「総玉砕」しろということだ。少しでもロシアを疲弊させ、容易に倒せる状況を作れということだが、それはできそうにない。疲弊しているのはヨーロッパ諸国だ。
ウクライナ軍の補給を支えていた幹線道路が交差するポクロフスクをロシア軍は制圧、ウクライナ側の要塞線は崩壊した。ロシア軍の進撃スピードは速まり、ウクライナ軍の戦死者は百数十万人とも推測され、そのほか、今年8月までにウクライナ軍では約40万人が無許可で部隊を離脱、つまり脱走したと報告されている。
ウクライナ軍の兵士不足は深刻。街頭での拉致が横行しているが、ろくに軍事訓練をしないまま戦場へ送られ、短期間に戦死してしまう。徴兵担当者が賄賂をもらって逃亡させるケースも少なくないようだ。そこでNATO加盟国が情報機関員、特殊部隊員、ミサイルなどのオペレーターだけでなく、通常の兵士も送り込んでいる。1カ国あたり数千名から1万名の部隊を投入、相当数が戦死したという。NATOが部隊を正式にウクライナへ派兵したがっている理由はそうした実態を隠したいからだろうという推測もある。
ウクライナへはブラックロックやJPモルガンといった西側の巨大金融機関が多額の資金を投入してきた。ドイツのフリードリヒ・メルツ首相はブラックロックの元幹部、フランスのエマニュエル・マクロン大統領はロスチャイルド銀行の出身。イギリスのキア・スターマー首相はシオニスト、つまり親イスラエルであることを公言している。イスラエルとロスチャイルド家が緊密な関係にあることは言うまでもない。
スターマーに限らず、イギリスの政界はアメリカと同様、イスラエルの影響を強く受けている。その仕組みの中で最も重要な役割を演じてきたとされている人物がトレバー・チン。2005年には「イスラエル・英国ビジネス協議会」の共同議長としてイスラエルを訪れ、アリエル・シャロン首相の輸出国際協力会議に参加。2018年にはトニー・ブレア元首相をはじめとする英国政界の有力者数名が出席したハイム・ヘルツォグ元イスラエル大統領の盛大な祝賀会を共同主催している。
チン卿は1980年代以降、イギリスの二大政党である保守党と労働党の圧力団体である労働党イスラエル友好協会(LFI)と保守党イスラエル友好協会(CFI)の両方に資金を提供、イスラエルのパレスチナ人虐殺に批判的だったジェレミー・コービンを攻撃する一方、キア・スターマーが首相になるのと助けた。
イギリス労働党は1982年9月にレバノンのパレスチナ難民キャンプ、サブラとシャティーラで虐殺事件が引き起こされた後、親イスラエルから親パレスチナへ変化していたが、それを親イスラエルへ引き戻したのがブレアにほかならない。
ブレアは労働党を親イスラエルへ引き戻しただけでなく、社会民主主義を放棄して大企業に接近していく。チン卿はそのブレアの大口献金者だったが、富豪のマイケル・レビーも有力スポンサーだった。
ブレアとイスラエルとの関係は遅くとも1994年1月に始まっている。このときにブレアは妻のチェリー・ブースと一緒にイスラエル政府の招待で同国を訪問、帰国して2カ月後にロンドンのイスラエル大使館で富豪のマイケル・レビーを紹介されたのだ。
その2カ月後、つまり1994年5月に労働党の党首だったジョン・スミスが心臓発作で急死、その1カ月後に行われた新党首を決める投票でブレアが勝利している。レビーやLFIのようなイスラエル・ロビーを資金源にしていたブレアは労働組合の影響を受けなかった。
西側の巨大金融機関はウクライナを乗っ取り、ロシアを再属国化しようと目論んだのだろうが、思惑通りに進んでいない。損を受け入れるのか、粘って全てを失うのかという状態だ。
【Sakurai’s Substack】
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