【対談】天木直人(元駐レバノン大使)×木村三浩(一水会代表):「台湾有事」の米国謀略と「沖縄」の可能性
琉球・沖縄通信安保・基地問題・「沖縄党」しかない!
天木:日本が真の平和主義を取り戻すにはどうすればいいのか。その役割を期待されてきたのが左翼ですが、すでに社民党は壊滅状態。その遠因は、やはり政権ほしさに日米同盟を認めたからだと思います。残る平和政党は共産党だけですが、彼らも日米安保反対を棚上げしました。
ウクライナ戦争・台湾有事についても一方的にプーチン批判、習近平批判をして、憲法9条に違反する米国の批判をしません。保守はといえば、かつての宏池会や日中国交回復を成し遂げた田中・大平コンビは見当たらなくなった。要するにこの国の政治から本当の平和勢力、アジア主義勢力がなくなったのです。
木村:東洋平和~世界平和の総調和が伝統保守の理念です。右こそ世界平和を唱えなきゃならない。
天木:平和が大事だというのは、普通の人は誰でも思うことでしょう。しかし、それを口にすれば左翼(共産党や社民党)に見られてしまうことを恐れて、多くの国民が平和主義を大きな声で言い出さない。ここに平和主義がひろく国民の間に根づかない大きな理由があると私は思います。平和主義や憲法九条護憲を、ある意味で独占してきた左翼政党の責任は大きいと私は思う。
木村:しかし、保守の方も毒されている。今の自民党の中にアジア共生を主張する者が見当たらないのは問題です。
天木:自民党のアジア派は今でもいるかもしれないが、発言しなくなりましたね。また、民主党による政権交代が期待外れに終わった結果、政権交代しても平和主義の政治は来ないことが明らかになった。そうであるならば、自民党を分裂させ、アジア主義の自民党による政権交代を実現するしかないという気がしてきました。
木村:対米従属に問題意識を感じている議員は自民党にもいます。彼らの声を広げていくことは、私も重要だと考えています。
天木:ただし、それら勢力も、次に口を開けば中国を叩いている。
木村:まさに支離滅裂。アメリカから自立するためには、当然アジアの安全保障があってはじめて対米自立ができる。シンプルな論理のはずです。
天木:この現実を変えるには、沖縄に期待するしかないと思うに至りました。これまでの沖縄は、沖縄社会大衆党という地域政党はあっても国政に沖縄の主張を反映する政党を持たなかった。共産党や社民党に沖縄の願いを代弁してもらっていた。これでは沖縄の願いは実現できるはずがない。なぜならば左翼政党では政権がとれないからです。ところが今は台湾有事で、沖縄は危機にさらされるようになった。このままいけば再び沖縄は捨て石にされる。今度は中国と戦うことを迫られる。
これだけは何があっても避けたいはずです。沖縄の人たちは、「ぬちどぅたから(命こそ宝)」や万国津梁という言葉を琉球王国時代からの沖縄人の魂だと言います。ならば、それを唯一の公約とした「沖縄党」をつくって国政に参加してほしい。沖縄党が「二度と戦争をしない」と言えば、左派系の野党はもちろん、自民党のリベラル派や公明党も賛成せざるを得ない。そして、与野党問わずアジア主義を掲げる勢力と組めば、沖縄党は政権を獲れるのです。
政権を獲れば、自主・自立外交ができる。沖縄は絶対に、中国と敵対しない、沖縄には在日米軍は要らない、そう日本政府を動かすことができるようになるのです。そしてもし米国がそんな沖縄の声に耳を傾けないなら、米国は沖縄や日本を差別していると世界に叫べば、米国は世界に恥をさらすことになり、何も言えなくなるでしょう。この差別という言葉は、米国にとっては一番の弱点です。
木村:日中国交には敗戦から27年かかりましたが、それからの両国は非常に良い関係を保っていました。それが、中国脅威論に埋め尽くされた。このまま台湾有事に向かえば、今のロシアと同じように、冷静な意見も「お前は親中か!」と排斥が始まるでしょう。それでも沖縄が「二度と戦争の犠牲にはならない」と言えば、誰も反論はできない。
天木:私は20年ほど前、外務省を辞めてしばらくしたころに、沖縄で講演をしたことがありました。そのときに親交を結んだのが、沖縄の彫刻家・金城実さんです。その金城さんと電話でお話ししたときに、「ロシアがウクライナを攻めたように、中国が沖縄を攻めてきたらどうしますか」としょっちゅう質問されると彼は怒る。金城さんは、「沖縄はウクライナになんかなるもんか」と怒りを込めて私に言うのです。琉球は中国と歴史的に関係を持ってきた。ウクライナとロシアの関係とは違う。
また、ウクライナのように武器に頼って戦争を広げるようなことを沖縄はしない。中国の脅威を煽り、沖縄の危機を煽る連中は、米国の軍事力に頼って戦争しようとする日本政府と同じだ。そういう連中の犠牲に、沖縄は二度とならない、と言うのです。
私はこの言葉に感銘を受け、「本気でそう思うのだったら本にしてください」ともちかけて出来たのが、金城さんとの共著『沖縄よ!ウクライナにナルナ』(展望社)です。
玉城デニー知事は「ゼレンスキーです」と言って批判されました。彼がどういう思いで言ったか知りませんが、「私はゼレンスキーにはならない」と言ってほしかった。そうしたら、ゼレンスキーは正体がバレたと狼狽し、バイデンは衝撃を受け、そして平和を愛する世界の多くの国々は玉城知事に拍手喝さいしたでしょう。
選挙で平和を訴えても勝ち目はないと思われています。今度の参院選でも皆が軍拡に賛成している。しかし本当に有事になったときには、日本人は皆“反戦”に傾くはずです。そのときに民意を集約できるのは、既存の左翼勢力ではなく「沖縄党」だと、私は思っているのです。
木村:そして、万国津梁、すなわちアジア共生の政治が日本に誕生します。
天木:素晴らしい締めくくりの言葉です。その言葉で今回の対談を終えたいと思います。
(月刊「紙の爆弾」2022年8月号より)
●「ISF主催公開シンポジウム:参院選後の日本の進路を問う~戦争前夜の大政翼賛化」(8月27日)のお知らせ
※ご支援のお願いのチラシ作成しました。ダウンロードはこちらまで。
株式会社鹿砦社が発行する月刊誌で2005年4月創刊。「死滅したジャーナリズムを越えて、の旗を掲げ愚直に巨悪とタブーに挑む」を標榜する。