【連載】今週の寺島メソッド翻訳NEWS

☆寺島メソッド翻訳NEWS(2025年12月30日):米国によるベネズエラ侵攻は時間がかかり、費用がかかり、歴史的な過ちとなるだろう

寺島隆吉

※元岐阜大学教授寺島隆吉先生による記号づけ英語教育法に則って開発された翻訳技術。大手メディアに載らない海外記事を翻訳し、紹介します。

記事概要―ベネズエラにおける米国のいかなる戦争も、時間と費用がかかり、戦略的に自滅的なものとなるだろう。ベネズエラ政府と隣国ガイアナの間の情勢悪化(*)、ロシア、中国、イランとの緊密な関係、そして根深い犯罪網は、いずれ介入の引き金となるかもしれない。しかし、米国による制空権の確保と迅速な攻撃は、その序章に過ぎない。

*ガイアナ総面積の3分の2にあたる西・中部のエセキボ地域をベネズエラが自国領と主張し、国際仲裁でガイアナ帰属が決められたが、ベネスエラは2023年においても「150年にわたる土地収奪」として領土要求を続けている。

・本当の戦いはカラカスやマラカイボなどの都市での残忍な市街戦となり、その後ジャングルや河川、国境地域で全国的な反乱が起こるだろう。

・地域的な支援がほとんどなく、米国の国際的姿勢にとって機会損失が大きいことから、ベネズエラに対する軍事行動は力の誇示というよりは戦略的な罠となるだろう。

ベネズエラへの米国の侵攻は一言で言えば「泥沼」だ

ベネズエラは、もはや戦略的想像力の限界を超えた米国との対立へと漂流している 。ガイアナのエセキボ地域をめぐるベネズエラ政府の緊張激化、ロシア、中国、イランとの経済・外交・安全保障上の関係強化 、米国に対する多面的戦争の遂行、そして政権の生存のための犯罪網への依存は、かつて仮説であった展開を真剣な議論へと再浮上させている。米国はどのような状況下でベネズエラに部隊を派遣するのか、そしてもし派遣された場合、どのような戦争が展開されるのか。

真っ直ぐな答えは、迅速な攻撃という空想に反する。ベネズエラでの戦争は、米国近隣諸国における、ゆっくりとした、厳しい戦いとなるだろう。そして、米国民と米国の信頼性に対する危険度は、容易な勝利という幻想をはるかに上回るだろう。

動機:火花や刺激、そして戦略的重力

いかなる展開も、米国をベネズエラに引きずり込むことはない。 ベネズエラがガイアナ領に侵攻し、凍結された国境紛争が公然たる侵略へと変貌すれば、エセキボ紛争が危機の引き金となる可能性がある。

麻薬密売とベネズエラの武装勢力に手を出せなくなっている状況は、米国の法執行機関と国境警備隊からの圧力を強めるだろう。しかし、どちらも単独では戦争への合意を生み出すことはないだろう。

より深刻な懸念は別のところにある。それはロシアの軍事的基盤の強化、 中国の金融・生活基盤面での影響力、そしてイランの諜報活動とドローン協力によって、ベネズエラはカリブ海地域における他国の作戦拠点と化している。

海外における大国間の競争に対処しつつ、西半球の安全確保に努める米国にとって、敵対勢力がベネズエラに拠点を持つことは、警鐘を鳴らすような構造変化と言えるだろう。米国による介入が仮説から現実へと移行するとすれば、たとえ世論の議論が国境紛争や麻薬問題に集中したとしても、敵対勢力によるベネズエラの拠点化がその背後にある引力となるだろう。

侵攻開始段階:米国の航空力からすれば制空権確保は容易だが、その後は厳しい現実が待っている

米国の侵攻の第一段階は予測可能だ。米軍はベネズエラの防空網を粉砕し、指揮統制網を突破し、数日以内に制空権を確保するだろう。 老朽化したSu-30と古びたF-16からなるベネズエラ空軍は 、長くは持ちこたえないだろう。 ベネズエラがロシアから調達したS-300とBukの砲台は 、指揮統制機構に完全に統合されることも、適切な整備がおこなわれることもないため、すぐに陥落するだろう。

しかし、その空襲が勝利に繋がるわけではない。米国の空軍力はベネズエラ軍を粉砕することはできるが、これほど広大で、分裂し、非正規戦に適した国を支配することはできない。真の戦争は、空からの攻撃が静まった後に始まるのだ。

市街地での戦闘:地形が侵略者に不利に働く場所

カラカスやマラカイボ、マラカイ、そしてバレンシアは、占領を待つだけの空虚な碁盤の目ではない。それらの都市は巨大で不均一な都市圏であり、政権支持者や諜報員、そして侵略軍よりも土地をよく知る勢力が蔓延している 。彼らは米軍を止めることはできない。だが、あらゆる区画の制圧を面倒なものにするだろう。

現代の市街戦は、歩兵や工兵、小型無人戦闘機、装甲車両、そして兵站部隊を、熟練した指揮官でさえも驚愕するほどの速さで消耗させる。空爆は有効だが、階段や地下室、そして非正規戦闘員が疲弊した民間人に紛れ込む密集地域を一掃することはできない。初期の報道では成功が伝えられるだろう。しかし、現実は長期にわたる占領の始まりとなるだろう。

テネシー州陸軍州兵の兵士たちは、第1-181野戦砲兵連隊アルファ砲兵中隊に所属し、6月9日にミシシッピ州キャンプ・シェルビーでM142高機動ロケット砲システム(HIMARS)を用いた訓練演習を実施した。この部隊の年次訓練は、大隊の即応性を高め、任務遂行に不可欠な任務に重点を置き、兵士が重要な技能を習得することを目指している。

米陸軍州兵、グレイソン・キャバリエール軍曹撮影

反乱:ゲリラのために築かれた国

都市部以外の地理的条件も事態を悪化させている。ベネズエラの内陸部――アンデス山脈の回廊地帯、河川網、鉱山地帯、国境地帯――は、何十年にもわたってゲリラ、密輸業者、武装犯罪組織の隠れ家となってきた。これらの組織はマドゥロ大統領に忠誠を誓っているわけではない。彼らは自らの領土や収入源、そして自治権に忠実なのだ。米国の存在は、これら3つすべてを脅かすことになる。

米軍が沿岸地帯を突破すると、非正規戦闘員は熟知した地形へと散り散りになる。後方に安全な場所などない。あらゆる車列の経路が標的となり、あらゆる河川の渡河地点が待ち伏せ地点となる。政権崩壊作戦として始まったものが、イラクのほぼ4倍の面積を持つ国土を襲う反乱鎮圧作戦へと変貌を遂げることになるだろう。

地域的な反動:孤立した政治

マドゥロ大統領を信用していない政府でさえ、米国の侵攻に反対するだろう。ブラジルやコロンビア、メキシコは直ちに国内からの反発に直面し、カリブ海諸国は移民問題への対応に追われることになるだろう。ラテンアメリカ諸国(グアテマラやドミニカ共和国、グレナダ、パナマ)への米国の武力介入という長年の記憶が、再び蘇るだろう。

地域的な支援がなければ、米国は紛争後の安定化の全責任を担うことになる。すなわち、破壊された都市の警備や人道的緊急事態への対応、そしてあらゆる制度が空洞化した状態における政治秩序の構築である。占領は長期にわたり、孤立し政治的に腐敗したものとなるだろう。

戦略上の危険:他国における米国の力を弱める戦争

最終的な損害は戦略的なものだ。ベネズエラでの戦争は、米国がインド太平洋地域の抑止力と規律ある西半球情勢の維持に必要とする資源をまさに浪費することになる。ベネズエラの製油所確保に割り当てられた軍団は、太平洋の有事には投入できない。毎年オリノコ盆地での非正規兵の追跡に労力を取られてしまい、米国がはるかに大きな利害関係を抱える海上やサイバー、外交といった領域から注意力が奪われることになる。

ベネズエラへの軍事作戦は、単に費用がかかるだけではない。米国政府を終わりのない政権転覆戦争へと引き戻すことになるだろう。そのような動きは、米がここ10年間、逃れようとしてきたものなのに、だ。

重荷となる勝利

マドゥロ政権を打倒するのは容易なことだ。困難なのは、旗が降ろされた後のすべてだ。鎮圧に抵抗する都市や解散を拒む非正規勢力、戦闘員や密輸品を流出させる国境、そして、地域からの敵意により米国が孤立させられる状況だ。米国は友好国を求めているのだが、そうはいかないだろう。

超大国はあらゆる戦いに勝利しても、その後の戦争で敗北する可能性がある。そして、戦略的規律を徐々に取り戻しつつある米国にとって、ベネズエラ侵攻は力の誇示というより、選択肢のひとつのように見せかけられた罠に過ぎない。

元記事: nationalsecurityjournal.org

※なお、本稿は、寺島メソッド翻訳NEWS http://tmmethod.blog.fc2.com/

の中の「米国によるベネズエラ侵攻は時間がかかり、費用がかかり、歴史的な過ちとなるだろう(2025年12月30日)

http://tmmethod.blog.fc2.com/

また英文http://tmmethod.blog.fc2.com/原稿はこちらです⇒A U.S. invasion of Venezuela would be slow, costly and a historic mistake

筆者:アンドリュー・レイサム(Andrew LATHAM)

出典:Strategic Culture Foundation  2025年12月16日https://strategic-culture.su/news/2025/12/16/a-us-invasion-of-venezuela-would-be-slow-costly-and-a-historic-mistake/

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寺島隆吉 寺島隆吉

国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

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