相次ぐ不審死、そして警察への違和感 著名人の〝自殺〞報道のあり方を問う

三川和成

・遺書なしで死んだ渡辺裕之

5月3日に亡くなった俳優の渡辺裕之。所属事務所が“ 縊死(いし)”と発表したのは2日後のことだった。

「メディア各社も寝耳に水の話でした。自然死ならともかく、自殺なのに時間が経ってからの発表。警察の記者クラブにも知らされていなかったようです。自殺した人がトレーニングルームで身体を鍛えていたことも、不審がられていました」(週刊誌記者)。

それでもメディアの報道は、“自殺”の原因を詮索することに終始した。

「渡辺さんは老人性鬱だった」「投資詐欺にあっていた」「コロナ自粛で仕事の先行きに不安を抱えていた」「親しい関係者に、奥さんの原日出子さんと熟年離婚するかもしれないと言っていた」「撮影現場で『財布からカードを盗まれた!』『カネを取られた』と周囲のスタッフに言い出すなど、言動もおかしかった」等々。

しかし、ひとつひとつを確認すると、疑問も出てくる。

渡辺のレギュラー出演のゴルフ番組を見ても、言動におかしなところは見られない。少なくとも仕事はそつなくこなしていた。投資詐欺に遭ったのは十数年も昔の話。被害額は大きかったが、貯金を失っただけで借金はなかった。

仕事が減ったという事実もなく、数カ月先までスケジュールが組まれていたとされる。夫婦仲も悪くはなかったようだ。財布やカードを盗まれたというのは、事実か勘違いだったのかは不明。そもそも証言したのが誰かわからないような話ばかりだった。

しかし、そうはいっても、5月10日に事務所が出した妻・原日出子のコメントを見れば、自殺であることは明らかだと思われたに違いない。

Suicide. Torn pieces of paper with the words Suicide. Black and White. Close up.

 

〈コロナの最初の自粛の頃から、人一倍家族思いで心配性な夫は、先行きの不安を口に出すようになり、考え込むことが多くなりました。(中略)「眠れない」と体調の変化を訴えるようになり、自律神経失調症と診断され、一時はお薬を服用していましたが、またお仕事が忙しくなって、元気を取り戻したようでもありました。しかし、少しずつじわじわと、心の病は夫を蝕み、大きな不安から抜け出せなくなりました。医師にも相談し、希望の持てる治療を始めた矢先の、突然の出来事でした〉。

スポーツ紙等に掲載されたコメントの「原日出子」の署名には、肉筆と印字の2種類があったという。ささいな違いだが、わざわざ2種類を用意して配布するのも奇妙な話だ。この疑問について事務所広報に質問書を出したが、回答は来なかった。

少なくとも、このコメントが発表されるまでは、必ずしも自殺と見られておらず、トレーニング中の事故死説も囁かれていた。

ちなみに渡辺の死が発表された直後のTVニュースは、TBSが「所属事務所によると自殺とみられています」と自殺という言葉を使っていたが、「縊死」とだけ伝えた報道もあった。TBS以外の5日のニュース報道は「渡辺が地下のトレーニングルームで倒れているのを原が見つけた。死因は縊死であることが判明した」だった。

縊死とは首が締まって死に至ることだが、実は、縊死に使われた紐が見つかっていないのではないか、という話がある。自殺した人間が自分で首から紐を外したり、隠したりは出来ない。

筆者が渡辺宅の所轄にあたる神奈川県警に、「俳優の渡辺裕之の死因を自殺と断定したのか」「紐は現場に残っていたのか」と質問書を送ると「広報していないので、回答はしません」との返事だった。広報していないということは、神奈川県警は、冒頭の週刊誌記者の話通り、クラブ記者にさえ情報を出していないようだ。

ちなみに神奈川県警は不祥事が多いことで有名だ。昨年には葬儀会社から賄賂を受け取って元警部補が逮捕。3月の公判で元警部補は「自分が知る限り、神奈川県警内の全ての警察署で葬儀会社からビール券等の金券提供があった」と証言している。神奈川県警警務部監察官室に「否定のコメントを出さないのか」と訊くと、「回答を差し控えます」と言ってきた。事実だと認めているようなものだ。

腐敗した警察組織によって、自殺や事故死に見せかけた“殺人事件”が見逃されているのではないか。そう疑われるケースを、いくつか振り返ってみたい。

・レコード大賞審査委員長の怪死

年末にTBSが放送する「輝く!日本レコード大賞」は、かつては受賞曲の売上が跳ね上がるなど影響力を誇っていたが、近年は大手芸能プロダクションが専横する内情がばれて、音楽ファンも注目しなくなっている。

2005年にレコード大賞の衰退と芸能界の闇を象徴する怪死事件があった。審査委員長の阿子島たけし氏が、同年12月12日にホテルで行なわれたディナーショーに出席後、行方がわからなくなる。翌早朝、横浜市の自宅で火災が発生して全焼。家族が警察に捜索願を出し、12日午後11時頃にJR戸塚駅の防犯カメラに映っているのが確認された。消火後も火災現場から遺体は見つからず、謎の失踪事件として報道された。

ところが、火事から3日後の16日になってから、庭から阿子島氏の遺体が発見された。3日間の捜索で遺体が発見されなかったことについて、神奈川県警は、「16日に屋外の捜索を開始した」と説明。庭で発見されたのは、火災発生時に阿子島氏は2階で寝ており、火事に気付いてベランダへ逃げ、庭に転落したからだと推測した。

Legs and feet on a peak looking down. Danger, adrenaline rush and risk taking concept. Vector illustration.

 

神奈川県警は、火災は放火ではなく失火と断定。死因は焼死として処理をした。ところが司法解剖で、阿子島氏の肺が煙を吸い込んでいなかったことが判明した。それでも神奈川県警は、事件性はないとした。筆者は、同県警捜査1課に、当時の広報内容の詳細を確認したが、「昔のことなので資料が残っていない」という回答だった。

阿子島氏は、亡くなる数カ月前から、レコード大賞の審査に関係して不正をしていたと非難する怪文書を配布され、嫌がらせを受けていた。本人は「やっている連中はだいたいわかっているよ」と話していたという。

 

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三川和成 三川和成

フリーライター。事件取材を中心に、幅広く活動中。

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