相次ぐ不審死、そして警察への違和感 著名人の〝自殺〞報道のあり方を問う

三川和成

・不審な新聞記者の自殺・事故

2006年2月10日に朝日新聞社会部のS次長が、自転車通勤中に急性心不全で亡くなった。自殺説も流れたが、S次長と懇意で、国土交通省が公表した構造計算書偽造問題を告発した藤田東吾・イーホームズ社長は、死因は自転車に乗っている際に受けた「頭部への打撃」だったと話している。

Man lying on the ground after being shot by a gun-wielding criminal

 

同年12月17日には、朝日新聞のS論説委員が東京湾に浮かんでいるのが発見された。同氏はリクルート事件のスクープ記事を書くなど、朝日の看板記者だった。水死は事件か事故・自殺かの判断が困難だが自殺とされた。

2007年4月5日に起きた読売新聞政治部I記者のケースは、さらに異様だった。I記者は自宅マンションの玄関で死んでいるのが家人に発見された。遺体は口の中に靴下が詰め込まれ、その上から粘着テープが貼ってあった。後ろ手に回した両手には手錠がかかり、左手に手錠の鍵を持っていた。警視庁は、「事件性はなく事故の疑いが濃厚」と発表した。一人でSMプレイ中に“事故死”したとされたのだ。

I氏のケースが前例になったのか、2015年10月に東京都日野市の山中で、小学4年生の男児が全裸で首を吊った状態で発見されたのも「自殺の可能性が濃厚」とされた。両手足はビニール紐で縛られ、衣服は近くに畳んで置かれ、遺書はなかったという。

警察が、この種の不可解な事件を捜査したがらないのには理由がある。検挙率が落ちるからだ。自殺に見せかけた殺人の疑いのある難事件を現場が捜査しようとすると、上司から咎められる。

各県警の本部長クラスはほとんどがキャリア組だ。彼らは腰掛けだから、赴任中の成績にしか関心がない。犯人を検挙できないかもしれない難事件の捜査を嫌がり、自転車泥棒や万引き、かっぱらい犯を取り締まって、検挙率を上げることを指示する。

また、犯行側と癒着している場合もある。さすがに人殺しを見逃すわけにはいかないだろうと考えるのは一般人の甘い考えだ。警察組織は組織を守る為なら人殺しも闇に葬りかねない。

1997年12月20日にマンションの駐車場で、映画監督の伊丹十三が遺体で発見され、警視庁は飛び降り自殺として処理した。社会派の映画監督として知られる伊丹は、山口組系後藤組に襲撃されたり、右翼に上映中の映画のスクリーンを切り裂かれるトラブルに見舞われていた。また彼は当時、暴力団と宗教団体の映画も企画していた。それゆえ、ワープロ打ちの遺書があったにもかかわらず、当初から自殺に見せかけた殺人を疑う声があった。

毎日新聞の元記者が一橋文哉の筆名で2000年に出版した『オウム帝国の正体』(新潮社)では、警察官僚と暴力団との裏取引が示唆されている。同書の内容には疑問もあるが、1989年11月に横浜市で起きた坂本堤弁護士一家殺害事件への暴力団の関与説など注目すべき記述が多い。

この事件は、現場でオウムのバッジが発見されたのをはじめ、解決の糸口がたくさんあったにもかかわらず解決が遅れた。地下鉄サリン事件後に自供した岡﨑一明が神奈川県警の捜査官と密かに接触をしていたなどの、オウムによる捜査への介入が疑われている。

第2次安倍内閣の内閣官房副長官に抜擢され、内閣人事局長を兼任、「安倍政権のゲシュタポの頭目」の異名のあった杉田和博氏は、1993年から神奈川県警本部長に赴任していた。

今年1月に着任した神奈川県警の林学本部長は、目標として特殊詐欺の撲滅を挙げていたが、同県警の「防犯CSR」活動に協力する不動産会社では、2年前に社員が特殊詐欺で逮捕されていた。

同社には、1995年の國松孝次長官狙撃事件の捜査を指揮した警視庁公安部長が役員に入っている。特殊詐欺グループの撲滅が難しいのは、その収益の一部を警察に上納して裏金作りに貢献しているからといわれ、被害を訴えても受理されないケースが多い。

警察と犯罪組織の癒着は、人々が考えているよりも、ずっと深刻だ。6月に中国で起きた女性暴行事件で、犯行グループが地元の公安と癒着していたとして話題になり、日本のメディアも大々的に採り上げたが、とても他国を馬鹿にできる状況ではない。

・劣化している日本の〝自殺〞報道

2020年7月18日の、俳優の三浦春馬の不審な“自殺”以来、芦名星(9月14日)、藤木孝(同20日)、竹内結子(同27日)と短期間に連続して芸能人が“自殺”している。

このうち三浦・芦名・藤木はTBS系ドラマ「ブラッディ・マンデイ」で共演。竹内と三浦も共演歴があった。昨年12月には、ミュージカル女優の神田沙也加が北海道で15センチしか開かないホテルの窓から転落死したのも“自殺”とされた。そして、渡辺裕之、上島竜兵(5月11日)と芸能人の“自殺”が続いている。

遺書がなく理由が不明なばかりか、仕事は順調で、傍目には自ら死を選びそうにない人が亡くなっている。中には何らかの理由があった人もいるのだろう。警察は、その全てを自殺と確信して処理しているのだろうか。

警察がメディアに“自殺”の状況を説明しなくなったのもここ最近の特徴だ。前述の伊丹十三監督や阿子島たけし氏の場合は、状況はある程度報道されていた。警察が自殺や事故で処理しても「それはおかしいのでは」という疑問を出せた。最近は現場の状況さえ広報されないから、事件性を疑うべきかさえ、警察以外は判断できない。

しかも、渡辺のケースでは、警察は自殺という判断すら出さなくなった。後で犯人が出てくるのを恐れているのではないか。実際、過去にそういうケースがあった。

その代わり、事務所に発表をさせたり、一部メディアに情報を流して印象操作をしている。この状況を変えるには、警察内部で情報が隠されたり、記者クラブで独占されたりしないような、新たな広報ルールをつくるしかない。

それが出来るのは国会議員だけだ。情報公開制度の制定に尽力し、オウム事件の捜査情報を被害者遺族に開示するよう動いたのが、2002年に刺殺された民主党の石井紘基衆院議員だった。

(月刊「紙の爆弾」2022年8月号より)

 

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三川和成 三川和成

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