9月の沖縄県知事選を前にして「誤魔化すな」。そして勝った方は「勘違いするな」
琉球・沖縄通信2022年7月10日の参院選沖縄選挙区の結果を見たときの率直な感想である。自民・公明両党は敗因について候補者の知名度が低かったと強調しているが、沖縄に暮らしているわけでもないのに、総務省の職員の知名度が高いわけはないだろう。
とにかく選挙の投票率を低く抑え、一方ネットやスマホで若い層を取り込み、企業や創価学会の組織票を固めれば当選確実と考えていた自民・公明両党の認識が敗北につながったのではないか? 敗因は候補者の知名度の問題ではない。誤魔化してはいけない。
他方、マスコミは勝った伊波洋一陣営について一斉に「オール沖縄」が盛り返したと報じた。「オール沖縄」というが、その実組織はどこか?
委員長だとか代表という人たちは居ても、実際に手足となって動く組合員や事務局がいるのだろうか?
勝ったのは県民が個人個人で動き、呼びかけ、投票したからであろう。組合や組織が力を取り戻したと考えているならば、それは勘違いである。
伊波洋一氏が2888票差で勝ったが、これは決して僅差ではない。沖縄県民が日本政府(安倍晋三、菅義偉、岸田文雄内閣)を相手に闘った結果である。
相手候補は総務省出身で政府との太い人脈を持つと喧伝していたが、それは「上意下達」即ち日本政府の言い分を沖縄は飲め、ということで、選挙区の持つ意味即ち地方からの声を政府に反映させるという「地方自治」を根本から否定することである。
県民はそれを正確に見抜いたからこそ、一人一人が自分の足と自分の意思で立ち上がって得た結果であり、極めて大きな意味を持つ票差である。
しかも今回の選挙は参院選でありながら、実は9月に行われる沖縄県知事選に軸足を置いたものであった。琉球列島(行政的には鹿児島県と沖縄県)が激しい勢いで軍事基地化されつつあることは馬毛島、奄美大島、沖縄本島、宮古、石垣、与那国島と、誰の目にも明らかである。9月の知事選はまさに、軍事基地建設・強化と知事の役割が重要な焦点となるであろう。
自衛隊法97条には、都道府県知事及び市町村長は自衛官募集のための事務の一部を行う、と書かれている。22年7月19日付琉球新報は一面トップと2面で、県内6市町村がその年に18歳を迎える住民の名簿を、住民に知らせずに自衛隊に提供していることを報道した。しかし県内での名簿の提供は実は以前から始まっている。
今回の知事選立候補者の一人である佐喜眞淳氏は宜野湾市長時代、14年に開かれた「沖縄祖国復帰42周年記念大会」(宜野湾市民会館で開催)に出席。この大会では、地元保育園の園児に日の丸のワッペンを付けた体育着を着せ、越後獅子のような逆立ち姿勢で歩かせたり、跳び箱をさせたり、その後全員で「立派な日本人となるように、心から念願するものであります!」と教育勅語を一斉唱和させたという(16年1月14日付日刊ゲンダイ)。
この記念大会は日本最大の右翼組織と言われる日本会議が開会の辞を述べ、宮崎政久衆議院議員も熱弁をふるい、佐喜眞市長(当時)は閉会の挨拶で「日本人としての誇りを多くの人に伝えたい」と述べたと書かれている(上記日刊ゲンダイ)。
15年5月に安倍内閣(当時)は戦争法案を閣議決定。すぐに国民的大反対運動が巻き起こったが、安倍首相(当時)は9月に強行採決。自衛隊内部資料によれば法の施行は6か月後の16年1月か2月とされていた(15年8月13日付しんぶん赤旗)。
驚くべきことに沖縄では、法の施行に先立って15年4月に宜野湾市(当時佐喜眞市長)と沖縄市(桑江朝千夫市長)がそれぞれ、自衛官適齢者名簿を自衛隊沖縄地方協力本部に提供していた(15年10月25日付琉球新報および15年11月3日付沖縄タイムス)。
名簿の内容は18~27歳未満の市民の氏名、生年月日、住所、性別を書いたもので、宜野湾市は約9900名、沖縄市は1万4385名分を本人の同意を得ずに地本に提供した。市民の強い反発によって沖縄市は次年度から提供を取りやめている。
その後、宮古島市は17年度以前から、そして21年度からは名護市、今帰仁村、宜野座村、嘉手納町、伊平屋村が提供を始めた。いずれの市町村も住民には全く知らせていない。このような名簿の提供を要求する法的根拠として自衛隊法施行令120条が挙げられているが、同法は、防衛相は自治体の長に「資料の提供を求めることができる」としているに過ぎず、提供の義務は無い。まして本人の同意も求めずに提供しているのは、まさに違法である。
ではなぜ、このような違法な名簿を提供する自治体が急に増えたのであろうか?
上記の琉球新報(22年7月19日)の解説によれば、19年に安倍首相(当時)が自衛隊の募集業務に協力的な自治体が少ないと非難し、自民党国会議員全員に、自分の地元市町村に名簿提供を促すよう要求。具体的には防衛省と総務省が名簿提供を要求する通知を全国の自治体に送った。以前からすでに提供していた宮古島市の他に、この通知に応えて上記5つの市町村が新たに提供を始めたことが、今回の名簿提供急増の背景である。
自衛隊法にはこのような市町村長への要請のほかにも知事への協力要請(実際は強制?)が多く記されている。
例えば自衛隊法第103条では、都道府県知事は長官又は政令で定めるものの要請に基づき、
① 病院、診療所、施設、土地、家屋、物資を接収・収用し、これらの物資の生産、集荷、販売、配給、保管、輸送を命じることができる。
② また医療、土木建築工事、輸送などに携わる人々を徴用して、これらの業務に従事することを命じることができる。
③ そして自衛隊が使うために接収した土地で立ち木等が邪魔であれば切り払ったり、家屋も取り壊したりすることができる。
徴用は徴兵と違って年齢制限はない。15、16歳の少女も、70歳の医師も徴用対象である。バスや重機、トラックの運転手はそれらの機械ごと対象となる。漁船も然り。先の大戦で沖縄からの戦時徴用船は少なくとも340隻以上でその船とともに徴用されて犠牲となった船員数は700人以上。アリューシャン列島からニュージーランドまで太平洋全域で犠牲となっている(20年1月1日付琉球新報)。犠牲者は15~17歳の若い船員が多く、最年少は14歳の司厨部の少年だったという(同上)。
東西1000km、南北400kmの範囲に散らばる47の沖縄の有人島は船か飛行機によって結ばれている。今、有事の際の島民避難は自治体が責任を持てということで、それぞれの島の人口に応じて船が何隻、飛行機なら何機と実現不可能な数値が出されている。しかしそれより前に、有事の際には空港や港湾施設は防衛省によってまず接収され、同時に航空機も船舶も操縦士や船員ごと徴用されるであろう。沖縄県民には逃げ場がないのである。
知事選を控えた今、県知事の役割を、私たちはしっかりと認識する必要がある。隊員適齢者の名簿提出も、土地や建物の接収も物資の収用も、いずれも県民生活に深く、強く関連している。このような要請が来た時、県民を守って「NO!」という知事を選ぶか、先取りして協力する知事を選ぶか。
自衛隊法だけではない。新たに土地規制法というがんじがらめの法律も9月には施行される。憲法に定められた国民の主権は次々に侵害されてきた。日本国憲法への復帰を望んだはずの沖縄が、主権者としての要求を実現させるためには、県民に顔を向けた知事を選ばなくてはならない。9月は、そのための「剣が峰」となるであろう。
●「ISF主催公開シンポジウム:参院選後の日本の進路を問う~戦争前夜の大政翼賛化」(8月27日)のお知らせ
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1943年、神奈川県生まれ。横浜国立大学学芸学部生物学科卒業。 九州大学大学院農学研究科昆虫学教室に進学。昆虫分類学を専攻。1973年琉球大学農学部農学科昆虫学教室助手に採用され、2008年定年退職。この間1993年に京都大学より理学博士の学位取得。現在も沖縄、台湾、ベトナム、インドネシアの地域で、サトイモ科植物と、その種特異的花粉媒介者であるショウジョウバエの関係を研究している。