本物のテロ国家を見きわめろ!―土地ドロボー国家USAとイスラエルの共犯幻想が、世界に不幸をもたらしている―
国際出典:https://commons.wikimedia.org/wiki/Carlos_Latuff
イスラエルのガザ大虐殺「世界は見ているぞ!」(カルロス・ラトゥーフ作、2008年)ロシア軍による「強姦虐殺(ごうかんぎゃくさつ)」等々、ウクライナから日々発信される凄惨(せいさん)な「ニュース」に世界中が憤慨(ふんがい)していた5月の半ば、パレスチナのガザ地区で取材中のアル・ジャズィーラ女性記者がイスラエル軍に故意に狙われ射殺された。
イスラエルは「テロとの戦い」を名目にパレスチナでの無差別殺戮(さつりく)を日常的に行なっているが、米国政府はこれを黙認どころか擁護(ようご)してきた。
両国とも出自(しゅつじ)は“土地ドロボー”の侵略国家であるが、この“原罪”を正当化するためにイスラエルはパレスチナでの“ホロコースト政策”を、そして米国は「世界民主化」を名目にした“アメリカ主義革命の押し売り”を妄(みだ)りに暴走させて世界を不安と不幸に陥れている。
・戦争が始まると、「真実」が一番最初に殺される
「戦争の最初の犠牲者は真実である」(The first casualty when war comes is truth.)という格言は、20世紀前半の米国の政治家ハイラム・ジョンソン(1866~1945年)の言葉として知られているが、彼以前にも、例えば古代ギリシャの三大悲劇詩人の一人であるアイスキュロス(紀元前525~456年)は「戦争になると真実が最初に殺(あや)められる」という名言を残したと伝えられるし、古代中国(春秋時代)の呉の兵法家・孫武(そんぶ)(敬称「孫子」、紀元前535年頃生~没年不詳)が著した兵法書『孫子』には「戦争はしょせん騙(だま)し合いである」と断言した条(くだり)が出てくる。こんな具合に――
「兵は詭道(きどう)なり。故(ゆえ)に能(のう)なるも之(これ)に不能を示し、用(よう)なるも之に不用を示し、近くとも之に遠きを示し、遠くとも之に近きを示し、利(り)にして之を誘い、乱(らん)にして之を取り、実(じつ)にして之に備え、強(きょう)にして之を避け、怒(ど)にして之を撓(みだ)し、卑(ひ)にして之を驕(おご)らせ、佚(いつ)にして之を労(ろう)し、親(しん)にして之を離す」。
(【現代語訳】戦争はしょせん騙(だま)し合いだ。だから自分に能力があっても敵には無能と見せかけ、ある作戦を用いていても用いていないように見せかけ、自軍が敵に接近していても遠くにいるように見せかけ、敵から離れていても近接しているように見せかけ、敵に有利と見せかけて誘い出し、敵を混乱させて奪い取り、自軍が充実していても敵には充実していないと見せかけて備えを固め、自軍が強いのに弱いふりをして敵を避け見せ、自軍が故意に怒りを示し敵を挑発して攪乱(かくらん)し、自軍が故意にへりくだって敵を驕(おご)らせて油断させ、自軍が故意に安佚(あんいつ)な状態にあるよう見せかけて敵をむやみに疲労させ、敵国の仲間と故意に親交を結んで敵国を孤立させるべし。)
孫子やアイスキュロス以来、さまざまな賢人が似たような格言を遺(のこ)してきたようであるが、100年前の米国共和党上がりの政治家で、この格言の出所として最も有名なハイラム・ジョンソンは、奇(く)しくも広島に原爆が投下されたその日(45年8月6日)に死去した。
「戦争の最初の犠牲者は真実である」と指摘した人物そのものが死んで、第二次世界大戦の幕が下り、米ソ冷戦が始まり、米国は「朝鮮戦争」「ヴェトナム戦争」「湾岸戦争(第一次イラク戦争)」「第二次イラク戦争」「アフガニスタン戦争」と自(みづか)らの戦争を戦い、その他、無数の代理戦争を“教唆煽動後押し(プロモート)”してきたわけだが、いずれの戦争でも「最初の犠牲者は真実」である、と声高に警告する賢者なきままに“軍産複合体の公共事業”としての「戦争」が暴走し、「真実」が殺され続けてきたわけである。
現在進行中のロシアとウクライナの戦争も、米国がプロモートした代理戦争の一つにすぎない。本誌(『紙の爆弾』)6月号に記したように、ヴォロヅィーミル・ゼレンスキーがウクライナ大統領に就いた2019年に――なおゼレンスキーが《国民の下僕(しもべ)》政党を立ち上げたのは前年の3月でその年の大晦日に大統領立候補を表明している――米国の戦争シンクタンク《ランド研究所(コーポレイション)》が、ウクライナを手駒に用いてロシアと戦争させてロシアを“衰弱死”に追い込む、という“代理戦争”計画を作成していた。
ここであらためて紹介しておこう。ランド研究所が2019年に発表した対ロシア“代理戦争”計画は、『ロシアを“強奪”するには:有利な土俵で競うのだ』(Extending Russia:Competing from Advantageous Ground)と題する350頁を超える報告書である。
その概要は『ロシアを消耗させて不安定に追い込む:損害犠牲を背負わせる戦略の評価』〔Overextending and Unbalancing Russia:Assessing the Impact of Cost-Imposing Options〕という全編12頁のパンフレットで読むことができる。この2冊は、ここに掲(あ)げた英文題名に「rand.org」を添えて検索すれば簡単に見つかるが、問題の報告書は、要するに次のような提案をしていた――
【1】ロシアの弱点は経済領域にある。
①米国との競争において、ロシアの最大の弱点は、経済規模が比較的小さく、エネルギー輸出に大きく依存していることだ。
②ロシア指導部の最大の不安は、体制の安定性と耐久性に起因する。
【2】ロシアにストレスをかける標的として最も有望なのは、エネルギー生産と国際的圧力の領域である。
①我が国が自然エネルギーを含むあらゆる形態のエネルギー生産を継続的に拡大し、他国にも同様の生産を奨励することは、ロシアの輸出収入、ひいては国家予算や防衛予算に対する圧力を最大化させる。この報告書で検討した多くの方策の中で、最もコストやリスクが少ないのはこの方法である。
②さらにロシアに制裁を科(か)せばその経済的潜在力を制限することができる。但しそのためには、少なくとも、ロシアにとって最大の顧客であり最大の技術・資金源であるEUを巻き込んだ多国間の政略を行なう必要があり、これらの同盟国はこうした政略の遂行上、米国自体よりも大きな意味をもつ。
【3】ロシアをおびき寄せる地政学的策略は非現実的であったり、二次的な結果を招く恐れがある。
多くの地政学的策略は、米国をロシアに近い地域で活動せざるを得ない境遇に追い込み、結果的に米国よりもロシアの方が安価で容易に影響力を行使することができるようになる恐れがある。
【4】政権の安定を損なうイデオロギー的策略は、逆にエスカレートする大きなリスクを伴う。
戦力態勢の変更や新戦力の開発など、多くの軍事オプションは米国の抑止力を強化し同盟国を安心させるが、モスクワはほとんどの領域で米国との同等性を求めていないため、ロシアを無理矢理奮闘させて消耗できるような策略はごく一部である」。
ランド研究所の戦略提言は、米国自身が傷つかずに、ロシアを挑発してその国家経済を不安定化して弱らせる、という構想なのであるが、「地政学的策略」の議論のなかで、ロシアと戦わせるための“アメリカにとって最も好都合な手駒(てごま)”はウクライナである、という結論を出していた。今年2月24日以降の展開は、まさにこのランド報告書どおりに進んできた。
ロシアの侵攻開始(2月24日)から2ヶ月を経た5月の初めにマスコミは声を揃(そろ)えて「ウクライナでロシア軍は、強姦・無差別殺害・空き巣に強盗にカッパライなど住民相手に暴虐のかぎりを尽くしている」という悲報を、おしゃべりオウムのように繰り返していた。連日こんな「ニュース」ばかりで、私は――いや世界中の人々が――辛(つら)くて心に“潰瘍(かいよう)”で穴が開(あ)くほどだった。
しかも「ロシアは核兵器を使いそうだ」という“専門家の観測”がわれわれの心をかき乱していた。私はその時期、マスコミが煽動する「核戦争の危機」とその風聞に乗って日本の“好戦馬鹿(ウォーモンガー)”が仄(ほの)めかす「核兵器の借り受け(シェアリング)」論に対処すべく7月号の原稿(「ニッポン核武装妄想の脳天気」)を書いていたが、パレスチナで、アル・ジャズィーラのベテラン女性記者が取材中に、イスラエル軍に狙撃されるという大事件が起こり、居ても立ってもいられない気持ちになっていた。
ところが5月末日に、ゼレンスキーの大統領就任と同時にウクライナ国会(最高議会(ヴェルホーヴナ・ラーダ))「人権問題全権委員」に就いていたリュドミラ・デニソワが、「世界のメディアの関心を、証拠が確認できない“性犯罪”にばかり集中させて、ウクライナが本当に必要としている関心の向かい先から逸(そ)らして国家に損害を与えている」という理由で、国会の過半数の決議でいきなり解任されたのである。
彼女はインターネット(SNS)を使って夥(おびただ)しい数(4万3000件以上!)の「ロシア兵による強姦(レイプ)や虐殺」を発表し続けてきた。マスコミはそれを“ネタ元”にして「ロシア軍の蛮行」を書き散らしてきたのだが、人権団体が強姦被害の実情を調べてみたら、根も葉もない嘘だとバレたのである。
さらに捕虜の保護と交換を行なう任務や、ロシア占領地域のウクライナ人のロシアへの送還の防止する任務を怠(おこた)り、戦闘地域の住民を他所(よそ)へ逃がす「人道回廊」の設置について非協力的な態度で妨害を行なっていたことや、仕事をサボって外国で遊んでいたことまで判明したのである。6月になって国内メディアの取材に対して、彼女は嘘をついていたことを認め、その動機を告白している。
彼女がイタリア議会で演説した時、議員たちは“ウクライナの好戦主義”にうんざりしており、革新政党《五つ星運動》が――こちらもやはり人気コメディアンが中心となり2009年に結成されたもので“ゼレンスキーの《国民の下僕(しもべ)》党のお手本”となった政党であるが――ウクライナへの武器供与に反対していたため、イタリアの議員たちを驚かせて奮起させるために敢(あ)えてホラを吹いたのだという。
彼女はこう語ったのである――「そうですね、非常にキツい言葉を使ってしまいましたね。広報担当と相談はしたんですが、ついつい言ってしまいました、大げさだったかもしれませんね。でも私は、世界を説得して武器を調達し、ロシアに圧力をかけるという目的を達成しようとしたんですよ」。
筑波大学で喧嘩を学び、新聞記者や雑誌編集者を経て翻訳・ジャーナリズムに携わる。著書『もうひとつの憲法読本―新たな自由民権のために』等多数。