【連載】データの隠ぺい、映像に魂を奪われた法廷の人々(梶山天)

【独自】犯人とみられる女性由来のDNA型鑑定―布製粘着テープに付着した新証拠は再審請求の道を開くのか? ―

梶山天

2005年12月に栃木県今市市(現日光市)の大沢小学校1年の吉田有希ちゃん(当時7歳)が殺害された「今市事件」。一審裁判で、被害者女児と、栃木県警科学捜査研究所職員2人のコンタミ(汚染)があり鑑定資料として役に立たないとされたが、女児の頭部から見つかった布製粘着テープのDNA型鑑定は、実際には犯人とみられる被害者以外接触者のDNAを捜査当局が黙殺したものだった。入手した同鑑定の解析データや捜査報告書を筑波大学法医学教室の本田克也元教授らが検証した。20年に無期懲役が確定した勝又拓哉受刑者(39)の型は全く検出されず、裁判で検察側が説明した科捜研2人の汚染では説明がつかない被害者以外の女性由来の型が混在しているという。この新たな鑑定事実の発掘で浮上した女性由来型の混在は再審請求へ向かって大きく前進するのは間違いない。

検証した資料の大半は、ISF独立言論フォーラムが入手した。この検証に参加した徳島県警科捜研出身で、徳島文理大学大学院人間生活学研究科の藤田義彦元教授も「被害者以外の女性の由来の型の検出は明らかで、データの歪曲は鑑定人業務としての改ざんのそしりをまぬがれない」と厳しく批判する。

問題の布製粘着テープは、女児の遺体発見後の茨城県警常陸大宮署での検視の際に女児の頭部右側に付着しているのを見つけて栃木県警が押収した。幅約5㌢、長さ約5・5㌢の断片1片。解剖の結果などから女児の鼻あたりをふさいでいたとされる粘着テープ痕の延長線上にあり、犯人がこのテープを女児の鼻口部に貼り付け、遺体を捨てる際に剥がし損なったとみられる。被害者の遺留品や凶器などこれといった証拠が見つかっていない中で、確実に犯人の接触があることから、このDNA型鑑定はまさに唯一の犯人割り出しができる重要な証拠だった。

写真:犯人とみられる女性のDNA型が検出されていたのに隠ぺいされた被害者女児の頭から見つかった粘着テープ

しかし、一審で検察側が明らかにした栃木県警科捜研による粘着テープの鑑定は①05年12月、遺体発見後すぐに嘱託されたのを機に②13年8月と③翌14年3月と計3回嘱託が行われたことになっていたが、入手した資料ではこの間、少なくとも数十回の検査が行われている。1回目の鑑定で検出されたのは被害者女児だけだったとされているが、後の2回の鑑定結果は科捜研職員の鑑定結果と法廷で検察側が説明した内容とは全然違っていた。

まず第1に上記②と③の鑑定では鑑定書に付記された表に記載された型と一致する解析データが含まれている。ところが、その表に記載された型がどのようなデータをどう解析してつくられたかが明示されていない。データにはたくさんのピークがあるのに、表に記載された型が取捨選択されているのは不自然である。たとえば、表に記載された型以外にも繰り返し出ている型があるのに、それが無視されていることがある。しかも資料①②の表と裏からY染色体の検査が行われているのに、結果は不検出と記載されている。つまり男性細胞の汚染はないことになり、当然に鑑定人(男性)の汚染がないことになる。しかも鑑定人自身はこれについて何も説明していないのに栃木県警の警部で特捜班長であった丸山光廣氏が当時の阿部暢夫刑事部長宛てに鑑定汚染を示唆する捜査報告書(14年9月16日付)を提出していた。

わずかに資料②の裏には性別を判断するアメロゲニン検査でYが僅かに検出されているとされているものがあるが、Xの高さに比べるとあまりにもピークが低く、判定しうるレベルとは言えないことからも、男性である鑑定人の汚染では説明できない。つまり解析データに現れている型は、被害者以外の女性由来であるものが含まれている。

本田元教授は「常染色体STR検査で男性由来の型がもし含まれていたとすれば、Y染色体が出ないことはあり得ない。被害者と異なる型が勝又氏と一致しなかったために、また犯人は男性だという思い込みで、データに含まれていた真犯人由来の型の解釈を誤った可能性が疑われる」という。

裁判員裁判だった一審の公判前整理手続きで審理内容が決まってしまうのに、一審ではDNA型鑑定などのチャートに当たる生データは検察から開示されておらず、さらに当時の一審の弁護団3人はDNA鑑定に精通していなかった。一審では鑑定結果を裏付けるデータなどが提出されていないにもかかわらず、裁判官たちは鑑定結果の確認もせずに審理を進め、重要な証拠を蚊帳の外において葬ってしまったが、高裁ではDNA鑑定結果は証拠たり得ないとして無視される方向に進んでしまった。

被害者女児の解剖は、本田元教授が行った。勝又受刑者が女児にわいせつ行為などをしたことになっているが、下半身にそれらの傷などが全くなく、顔を中心に爪による多数の傷があることや、致命傷だった刃物で10ヵ所の胸を刺す間隔の正確さなどを考えると猟奇的で、犯人は男性ではなく、女性の犯行の可能性があるのでは、と見ていた。さらに勝又受刑者の供述調書では、殺害時などで軍手をしていたとあるが、実は科捜研の鑑定人たちは粘着テープのDNA型鑑定時にテープの付着物の微物鑑定も行っており、髪の毛以外は付着していないと鑑定書に明記されており、明らかに軍手をしていたこととは矛盾する調書であることがわかる。鑑定結果を無視させるための詭弁であった可能性もある。

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梶山天 梶山天

独立言論フォーラム(ISF)副編集長(国内問題担当)。1956年、長崎県五島市生まれ。1978年朝日新聞社入社。西部本社報道センター次長、鹿児島総局長、東京本社特別報道部長代理などを経て2021年に退職。鹿児島総局長時代の「鹿児島県警による03年県議選公職選挙法違反『でっちあげ事件』をめぐるスクープと一連のキャンペーン」で鹿児島総局が2007年11月に石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞などを受賞。著書に『「違法」捜査 志布志事件「でっちあげ」の真実』(角川学芸出版)などがある。

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