【独自】犯人とみられる女性由来のDNA型鑑定―布製粘着テープに付着した新証拠は再審請求の道を開くのか? ―
メディア批評&事件検証さらに驚くべき事実は、解剖医の本田元教授は早い段階で解剖結果を出してはいるが、栃木県警が解剖の説明を受けに訪れたのは、勝又受刑者が殺人容疑で逮捕される後で8年間訪れたことは一度もない。約1万体の司法解剖を行ってきたベテランのもとには警視庁や大阪府警、茨城県警などの捜査員が早い段階から犯人像をつかむために根掘り葉掘り聞いていくが、「解剖医に説明を受けずにどうやって犯人像をつかんだのか。だから供述調書が全く解剖結果と違う。こんなことは初めて」と不審に思ったという。
一審では、検察は勝又受刑者が女児にわいせつ行為をした際に顔を見られ、発覚を恐れて翌未明に女児を車に乗せ、女児が通っていた小学校から約60㌔離れた茨木県常陸大宮市三美の山林に連れて行って午前4時ごろに殺害し遺棄したと説明したが、控訴審では東京高裁に促されて、殺害場所を遺体発見現場の林道から「栃木県か茨城県内とその周辺」とし、殺害時刻もこれまでの主張から13時間以上拡大し「1日午後2時38分ごろから2日午前4時ごろまでのあいだ」と大幅な予備的素因変更をした。これはまさに本田元教授の解剖結果そのものだった。
藤田元教授は「私の経験から話すとDNA鑑定は、捜査側から鑑定者に無言の圧力がかかることがあるのは事実。だからこそDNA鑑定機関は一刻も早く捜査機関から独立しなければ冤罪は止められない」と指摘する。
栃木県警は1990年5月に保育園女児が殺害された冤罪「足利事件」ではDNA鑑定が誤鑑定であったが、今回はDNA鑑定に失敗しており、2度目の大失態になりそうだ。今市事件捜査を見てもわかるように強引な思い込み捜査の気質があるのでは、と言っても過言ではない。
本田元教授は「足利事件では、未熟なDNA検査の曖昧な一致のみで菅家さんが有罪とされた。今市事件では全ての資料から行った繰り返しの当時最新のDNA検査で、全て勝又氏と不一致であったが、足利事件の裏返しの過ちにならなければいいのだが」と話している。
(梶山天(たかし))
今市事件関連として特集面で緊急連載「絶望裁判 データの隠ぺい・映像に魂を奪われた法廷の人々」(全25回)を毎週月曜、金曜日に掲載します。
独立言論フォーラム(ISF)副編集長(国内問題担当)。1956年、長崎県五島市生まれ。1978年朝日新聞社入社。西部本社報道センター次長、鹿児島総局長、東京本社特別報道部長代理などを経て2021年に退職。鹿児島総局長時代の「鹿児島県警による03年県議選公職選挙法違反『でっちあげ事件』をめぐるスクープと一連のキャンペーン」で鹿児島総局が2007年11月に石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞などを受賞。著書に『「違法」捜査 志布志事件「でっちあげ」の真実』(角川学芸出版)などがある。