【特集】宗教と政治―旧統一教会問題を中心に―

自民党を支える「宗教」―旧統一教会問題と安倍暗殺、現状は検証・解決に向かっていない―

鈴木エイト 

・「安倍さんは何も関係ないのにね」

安倍晋三元首相銃撃死事件の翌週、ある民放のワイドショーでの政治ジャーナリストの発言だ。この発言はある意味、正鵠を射ている。山上徹也容疑者の一家に起こった金銭的な被害と家族離散、一家の崩壊に安倍氏は一切、関わっていないからだ。

だが、もしこの発言が安倍氏と世界平和統一家庭連合(以下、統一教会)の関係性を指して言っていたとしたら、それは完全な誤りである。

実際に、多くのコメンテーターやキャスター、そして有識者として持て囃される論客たちが安倍氏と統一教会の関係性を矮小化するかのような発言を行なっている。これはあえて矮小化の方向へ誘導しようとしているのだとすると問題だが、私は単に彼らには「絵」が見えていないのだと感じた。

安倍氏と統一教会の間には、第二次安倍政権発足以降の国政選挙における特定候補者への組織票依頼や二世信者を使った策動など様々な裏取引が疑われる痕跡がある。そしてそれらが昨年9月の教団フロント組織・天宙平和連合(UPF)での安倍氏のリモート登壇に繋がるのだ。一連の流れを検証しない限り、真相には辿り着けない。

多くの人が疑問に思っている安倍元首相と統一教会の本当の関係性。まず本稿では、安倍氏が凶行に遭った直接の原因を考察してみたい。

安倍氏をターゲットにした理由を、事件前日にルポライターの米本和広氏へ宛て郵送した手紙の中で、山上容疑者はこう記している。

「苦々しくは思っていましたが、本来の敵ではないのです。あくまでも現実世界で最も影響力のある統一教会シンパの一人にすぎません」「安倍の死がもたらす政治的意味、結果、最早それを考える余裕は私にはありません」

「苦々しくは思っていました」。この言葉から、山上容疑者は安倍氏と統一教会の関係を以前から把握していたことがわかる。山上容疑者のツイッターを見ると、私が自民党国会議員と統一教会の関係を指摘したツイートや私がハーバービジネスオンラインに連載していた「政界宗教汚染 安倍政権と問題教団の歪な共存関係」の記事をリツイートしていたことが確認できる。

そして「本来の敵ではないのです」との記述からは、山上容疑者は自身の一家に起こった家庭崩壊に安倍氏が直接何かを及ぼしたとは思っていないことも読み取れる。教団への憤りが安倍氏へ転嫁されたという文字通りの「逆恨み」などではなく、冷静にどうすれば教団に最もダメージを与えることができるかを考えたうえでの凶行だったとわかる。

なぜなら、安倍氏をターゲットとした理由をこう記しているからだ。

「現実世界で最も影響力のある統一教会シンパ」。これが山上容疑者の安倍元首相への評価だ。冷静に事を進める一方で、事件を起こした後の“政治”に関することには「考える余裕」がないとしている。事件に政治的な背景が皆無であることは明白である。

・山上容疑者が安倍氏を狙った”合理的判断”

検証のポイントは2つある。一つは、山上容疑者が安倍氏をターゲットにしようと思うに至った根拠は何だったのか。そこに一定以上の合理性があり、彼にとっての必然性がどう導き出せるのかという点。もう一つは、安倍氏と統一教会との関係性が実際にどんなものだったのかという点だ。

Seoul, South Korea – Sep 19 2018 : In front of Family Federation for World Peace and Unification Cheonbokgung Church. Confucius, Buddha, Christ and Quran statues

 

まず後者、実際の安倍氏と統一教会との関係性を見ていこう。安倍氏の祖父・岸信介元首相と父・晋太郎元外相については統一教会との緊密な関係性が歴史的検証も含めなされている。多くの文献でも確認されており、私の出る幕はなく、ここではすでに前提事項として共通理解にあるとする。

安倍氏と統一教会の関係が最初に注目されたのは2006年のUPF(天宙平和連合)の集会に祝電を贈ったというのもの。しかし、当時の「安倍晋三官房長官」は、まだそれほど教団とは近い関係性にはなかったと思われる。しかし、6年を経た第二次安倍政権発足以降は相当緊密な関係性にあったことが様々な傍証から推測される。

両者の間には多くのギブアンドテイクの形跡がある。安倍氏側からは、特定候補者への首相じきじきの組織票支援依頼、教団会長の首相官邸への招待、側近閣僚による教団名変更時の管轄省庁への圧力疑惑、多くの自民党国会議員の教団系イベント派遣など。教団サイドからは、組織票だけでなく選挙の運動員を含めたスタッフ提供、安倍政権支持を訴える二世信者組織を使った策動疑惑などが挙げられる。

第2次安倍政権発足以前、2007年~2010年にかけて、全国の霊感商法販社が摘発され教団の南東京教区事務所(渋谷区)が家宅捜索を受けた。警察は教団松濤本部(同)への家宅捜索を行なう予定だったが、当時の国際勝共連合会長が警察官僚出身の有力政治家に泣きつき、本部はガサ入れを逃れた。

宗教法人格取り消しといった事態へ発展することを避けようと画策した教団は政治家対策を強化。体制保護と引き換えに、悲願である憲法改正のための長期安定政権運営を目指す安倍元首相側との利害が一致し裏取引が結ばれたと見られる。

そして前者、山上容疑者が安倍氏を「統一教会シンパ」だと思うに至った根拠については、この一連の裏取引の存在をどこまで山上容疑者が把握していたかに尽きる。安倍氏が直接統一教会サイドと何らかの裏取引をしていた証拠は、教団内部文書、教団内部の証言など傍証は積みあがっていた。しかし、安倍氏自身が教団系の集会に来賓として出席するなど、関連が明示された事例はなかった。2021年9月までは。

昨年9月12日、韓国で開催されたUPFの大規模オンライン集会に安倍氏がリモート登壇し韓鶴子(ハン・ハクチャ)総裁を礼賛した。あたかもその場に本人が立ち基調講演を行なっているかのような演出がなされた映像が教団系ネットメディアから世界中に配信された。

この時、初めて安倍氏が“証拠”を残す形で教団との関係を示した。翌日には消すという条件で公開された配信映像。決して教団との関係を隠さなくなったということではない。事実、全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)が送付した公開抗議文を安倍元首相の国会事務所は受け取り拒否しており、「ビデオメッセージ」の経緯についても安倍事務所はUPFジャパンからの依頼だとして詳細を答えていない。

この開き直りともとれる安倍氏側の対応をどこまで山上容疑者が追っていたかは不明だ。しかし、この映像が彼にとっては「最も影響力のある統一教会シンパ」として安倍元首相をターゲットオンした直接のきっかけとなったことは疑いようがない。

次に焦点となるのは、安倍氏の判断だ。このUPFへのビデオメッセージについて安倍氏は「公開されても自身への影響は全くない」とタカを括っていたと思われる。事実、この時に報じたのは『週刊ポスト』『FRIDAY』『実話BUNKA超タブー』の三誌と新聞は共産党の『しんぶん赤旗』一紙のみ。テレビ・新聞では一切報じられず、それゆえに安倍氏へ非難が集まることもほぼなかった。

2006年くらいまでは、前述の安倍氏によるUPF集会への祝電や国会議員による年会費数万円の関連団体への支払い程度のトピックが批判的に報道されていた。しかし、それ以降は政治家と統一教会との関係を報じる媒体はほとんどなく、私が寄稿した記事以外は皆無といった状態が15年以上続いてきた。

当然、他の政治家にしてみれば、統一教会と関係を持っても何も報じられず問題視されないとなれば利用し合った方が得だ、ということになる。これがまかり通っていたのが第二次安倍政権以降の状況だ。

メディアの反応や世論の動向については、安倍氏の見立ては正しかった。しかし、その判断が山上容疑者の発火点となり、今回の凶行に及んでいたとするならば、この安倍氏の判断が自らへの凶弾を呼び込んだことになる。

安倍氏の視点に欠けていたのは、教団が引き起こしてきた数々の社会事件の影にいる被害者の存在だ。

金銭的被害だけを見ても、全国弁連の集計によると、1987年から2020年に弁連や全国の消費者センターに寄せられた統一教会による霊感商法の相談件数は3万4490件、累計被害額は1237億円を超えている。

これは氷山の一角に過ぎず、実際にはこの10倍以上の被害があると見られている。近年も億単位の被害を巡る訴訟が複数起こされている。当然、そこには多くの被害者とその家族がいる。

 

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ジャーナリスト。ニュースサイト「やや日刊カルト新聞」主筆。共著に『徹底検証 日本の右傾化』(筑摩選書)、『日本を壊した安倍政権』(扶桑社)。

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