【特集】沖縄の日本復帰50周年を問い直す

復帰50年にあたって、「沖縄の覚悟」はあるのか?

与那覇恵子

復帰50年を考えるに当たって推薦したい図書をとのことで、東アジア共同体研究所の「琉球・沖縄センター」にエッセイを提出したのは、2022年2月のことだ。同センターが企画し出版した、『復帰50年沖縄を読む』(2022年)へのエッセイで、沖縄から50人の有識者がそれぞれの復帰に対する思いをしたためている。そのエッセイに加筆して、私なりの復帰50年への思いを吐露する機会の一つとさせていただきたい。

沖縄の現状については、別の原稿でも呟いた記憶があるが、再度、呟かざるを得ない。それほどに復帰50年を迎える沖縄の現状はあまりに悲しい。

辺野古では美しい海を埋め立てて、多様性豊かな生物を抹殺して危険と指摘されている軟弱地盤の上に新基地建設が強行されている。嘉手納基地や普天間基地周辺だけでなく沖縄全島で昼夜を問わず空から轟音が響き、米軍だけでなく自衛隊基地を含む周辺基地からコロナが感染拡大した。

さらに、危険化学物質PFAS・PFOAの河川への大量流出などに加え、米兵関連の事件、事故と相変わらず基地被害に苦しむ日々。そして今や何と、南西諸島要塞化が進み、「台湾有事」勃発の際の戦場となる危機に怯えている。日々の危険どころか、直接的に命が奪われる危険性に直面している。日本の安全保障のためとの確証無き理由を口実にして、沖縄の人々の安全が全く保障されないという問題には目もくれない。それが日本の政治情勢である。

Patriot missiles that have been deployed in a residential area

 

日本が起こした戦争で「捨て石」となり、米軍に地獄と形容された沖縄戦で多くの文化財や人材を失った沖縄に敗戦の責任を負わせ米軍占領下に置き、自国の独立を祝った日本。復帰50周年を迎える2022年を前にした昨年12月のクリスマス直前、日米政府からの沖縄へのクリスマスプレゼントであるかのように、米軍と自衛隊への取材で明らかになったことは、台湾有事の際に南西諸島が攻撃拠点となる、さらに自衛隊幹部が「自衛隊に県民を保護する能力は無い。県民保護の責任は自治体にある」と述べたという事実であった。

Japan ground self defense force

 

米軍基地無き平和な島沖縄を願い、日米だけで頭ごなしに進められる復帰を疑問視し作成した独自の建議書に込めた沖縄県民の平和への思いは、そのままの米軍基地に加え自衛隊基地が作られるという復帰の形で無残に裏切られたが、復帰50周年の年に直面させられているこの現実はあまりに過酷である。

亡くなった翁長雄志元沖縄県知事の日本政府への怒りと悲しみの叫び、「沖縄は日本の中に入っているのですか?」を思い出す。残念ながら、沖縄県民は日本国民のなかに数えられていないのではないかとの疑問は今や確信に変わった。彼は日本の政治には「愛がない」とも述べた。「米国に追従し、自国民に愛情もなく強権をふるうような政治は本当の保守ではない」と。沖縄への愛の無さは、やがて他県も味わうことになるだろう。

米軍と共同して起こす対中戦争の犠牲となることを沖縄に強いる日本。基本的人権も無き植民地主義に苦しみ、復帰に基地無き平和を夢見た人々は、今、復帰は幻想だったと言うだろう。悔恨と表現するには、あまりに複雑な辛い思いを噛みしめていることだろう。

このような現状ながら、今なお、地方選挙で自公政権の推薦候補が勝利し続けるのは基地よりも経済が争点化されるからだ。政権与党と企業とが利権で結びつくシステム、法の悪用と「飴と鞭政策」を恥じない政治の劣化に加え、コロナ禍の経済衰退でその傾向は強まっている。

Map of Okinawa Island with a red arrow moving down on a white checkered background. Conceptual image. Vector Illustration (EPS10, well layered and grouped). Easy to edit, manipulate, resize or colorize.

 

経済に疎い私だが、復帰50年にあたって『沖縄の覚悟』(来間泰男著、2016年、日本経済評論社)を読むことを薦めたい。「基地・経済・独立」のキーワードは沖縄の今に通じる。経済を基軸にした多くの論考の中で賛同するのは、「基地は経済に関係無く撤去されるべき」との考え方であり、「沖縄は『身の丈の経済』に甘んじるべき」という主張である。

基地経済ではない沖縄があるにも関わらず、選挙で経済と基地が対立項となる背景には、基地を引き受けさせるがための日本政府による「飴と鞭」政策の定着がある。原発同様、基地賛成の政治家に投票すれば政府の補助金がもらえる構造に、企業や地元政治家が惹きつけられ、本来の選挙のあるべき姿が歪められている。

「沖縄経済の課題はそれぞれの産業の現状に即して進められるべきで、外からの『経済振興策』なるものによって活路が開ける訳では無い」との来間氏の主張は真っ当であり、基地と経済を絡める日本政府と同じ発想をする限り、沖縄の真の経済発展は無く基地に依存し続ける沖縄を招くだけである。現在の選挙の在りように象徴される姿だ。

「可能性や必要性に欠ける過大な公共投資は止めるべき」との指摘も重要だ。インフラ整備はやり尽くしてはいまいか?必要以上の道路やトンネル建設が沖縄の経済発展にとってプラスかどうか考えるべきだが、政治家も市民もそのような長期的視野に欠ける。

「基地移設を拒否して振興策も拒否する」ことで自ら経営努力をする沖縄の覚悟が求められている。「基地引き受けでもらう金」と「命」の二者択一となっている現在の危機を考えれば自明の選択だが、今に至っても県民にはまだそこまでの危機感がない。

冒頭に述べた復帰後の沖縄の現状ゆえに、復帰時マイノリティであった「琉球独立論」が盛んになってきた。日米政府に運命を決定されてきた沖縄が、自決権を求め独立を模索することは当然で、可能であればと沖縄県民の誰もが考えると思う。

しかしながら、強国が自国の利権を貪り、正当な理由が無い戦争によって弱小国からの略奪を繰り返す、それに対して日本を含め国際社会が異議を唱え抵抗する力を持たないどころか協調していく、今の世界情勢では現実的ではないと思う筆者同様、それは気持ちの上だけでの賛同とならざるを得ないだろう。

理想にほど遠い愚かな人間による厳しい地政学的状況もさることながら、沖縄内で保革が一致できない現状では混乱を引き起こす可能性が高い。何より来間氏が望んだ「沖縄の覚悟」が足りないからである。

 

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与那覇恵子 与那覇恵子

独立言論フォーラム・理事。沖縄県那覇市生まれ。2019年に名桜大学(語学教育専攻)を退官、専門は英語科教育。現在は非常勤講師の傍ら通訳・翻訳を副業とする。著書は「沖縄の怒り」(評論集)井上摩耶詩集「Small World」(英訳本)など。「沖縄から見えるもの」(詩集)で第33回「福田正夫賞」受賞。日本ペンクラブ会員。文芸誌「南瞑」会員。東アジア共同体琉球・沖縄研究会共同代表。

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