山上容疑者を誰が利用したのか、「国葬」で隠蔽される安倍暗殺事件の真相
メディア批評&事件検証・元首相の負の遺産
暗殺事件直後、複数の方から連絡をいただいた。それは、安倍政権時代の負の遺産への責任追及を、今後どう継続すればいいのかという話だった。
安倍氏による政治の私物化は、国交省・財務省にまたがる国有財産を棄損する背任の罪、証拠の公文書を含む事実改ざんの罪、国会で繰り返された虚偽答弁の数々、そして関与した役人や事業者の自死や不審死、安倍氏に反旗を掲げた籠池氏をスケープゴートにする弾圧、そのために検察を動かし、裁判官も手玉に取ってきたこと、さらにメディアから安倍政治に批判的な記者や出演者を排除するなど多岐にわたる。つまり独裁政治そのものといえる。
自公政権として政権運営を続けるうえで、安倍独裁政治が残した負の遺産とどう向き合うかが岸田政権の核心だったことは間違いない。
森友事件をめぐり赤木雅子さんが闘う裁判を、岸田政権は「認諾」という超法規的対応で逃れた。一方、今回の暗殺事件によって負の遺産と訣別せんとするかに見える。事件が参院選の大勝をもたらし、政権運営上の邪魔者を取り除いたという側面がある以上、岸田首相には真相解明の義務がある。
振り返るに、参院選の前後に、森友事件について安倍氏の責任を問うべき新事実が次々と提示され、岸田政権は難しい采配を迫られていた。森友事件は過去の問題ではなく、岸田政権にとって現在進行中の難問となっていた。
その一つは、検察官出身の小川敏夫元参院議員(元法務大臣)が、『未解決事件森友疑惑 安倍晋三夫妻いまだ釈明せず!』(世界書院)を、6月30日に刊行したことである。
「未解決」「いまだ釈明せず」というタイトルから、事件を過去のものとしてはならないという小川氏の心意気が伝わる。「私や妻が関与していれば総理大臣も議員も辞める」という安倍発言の後、森友学園の籠池泰典理事長は昭恵夫人から100万円を寄付されたと明かし、関与の事実を示した。安倍氏は否定したが、寄付の証拠も同書には示されている。
国会の委員会での審議や野党合同ヒアリングを通し、小川氏をはじめとする野党議員たちは、政府が示した「8億円値引き」の根拠が破たんしていることを突き止め、財務省や国交省が作成した写真資料も偽装されていたことを明らかにした。その内容や経緯についても同書で詳述されている。
安倍氏による行政の私物化が、国会で追及されて明らかになるなかで、首相の安倍氏だけでなく、麻生太郎元財務大臣や石井啓一元国交大臣(公明党幹事長)、佐川宣寿元財務省理財局長、太田充元財務事務次官らが虚偽答弁を繰り返した。
国会では野党の働きで曲がりなりにも森友事件の不当・不法がチェックされてきた一方、行政府を監視する会計検査院や検察は全く役に立たなかった。同書の第7章では「会計検査院 骨抜きの検査報告」、第8章では「検察の背信」「手ぬるい対応で事件に蓋をしただけ」「犯人を逃がすための常道を外れた捜査」として、報告されている。
同書の序文で小川氏は、「行政は、国家の頭脳と背骨と言ってよいだろう。その行政を芯から蝕まれ、国民の信頼を棄損した事件、それが森友国有地不正払い下げ事件である」「財務省は偽りの値引き事由により、国有地をただ同然で払い下げ、その事実を指摘されると資料改ざんを行い、虚偽説明を押し通し、責任回避に終始した」「加えて、不正をただすべき会計検査院、検察までが、その職責を放棄した対応に終始した」と的確に指摘している。
また週刊文春(7月14日号)は、森友学園の小学校校舎建設図面に、昭恵夫人を名誉校長とする「名誉校長室」の設置箇所がはっきりと描かれている事実を、巻頭グラビアで紹介した。さらに安倍氏が森友学園の講演を引き受けながら、総裁選出馬によって参加できなくなったことを示す本人署名入りの挨拶状も掲載されている。これらは安倍氏の「森友学園側が昭恵夫人を本人の了解をとらずに名誉校長とした」という国会での発言が虚偽だったことがわかる一級資料といえる。
期せずして、これまで安倍夫妻が関与していた重大書証が明らかになっていたのである。
そしてもう一つ。安倍氏が残した最大の負の遺産は、森友事件の一切の責任を籠池夫妻に負わせ、その意のままに別件逮捕して300日間も未決勾留した国策刑事弾圧である。「紙の爆弾」7月号で報告したように、2人は大阪高裁の西田眞基裁判長に実刑判決(泰典氏が懲役5年、諄子氏懲役2年6月)を下されるも、上告審を闘っている。
高裁判決の最大のおかしさは「一人署名」にある。裁判所法18条で、判決は3人の裁判官の合意が必須であると定められているが、西田裁判長は他の2人の裁判官の代理で署名・押印している。
代理署名について、一人は「退官のため」、もう一人は「差し支えがあって」と判決書に書かれていた。一人署名は、過去の判例からいってもあり得ない。権力は司法における約束事さえ、ヒラメ裁判長に破らせたのだ。
安倍氏による政治の私物化の結果、国会での追及に行政府が居直り虚偽答弁を繰り返し、会計検査院や検察も不正をチェックできず、検察に至っては、告発された官僚たちを全員立件せず、一切の責任を籠池夫妻に転嫁した。大阪高裁も検察の筋書きに沿って、国策弾圧に加担する判決を下した。
安倍元首相の下、立憲国家としての仕組みがあらゆるところで無視され、独裁国家に塗り替えられた。その要素一つ一つが負の遺産である。真実を明らかにし、問題を克服することが、安倍氏の死後も私たちの課題であることは変わらない。
・暗殺は解決にならない
安倍暗殺の一報は、世界に大きな衝撃をもって伝わった。平和で民主的で、米国と違い銃規制が行き届き、ロシアと違い政敵が暗殺されることなどないはずの日本でなぜ?と。
しかし、日本で市民活動家やジャーナリストとして活動してきた人々の、核心を突く批判や真相に迫る調査は、様々な妨害を受け、場合によっては命をも奪われてきた。批判の急先鋒に立つ人が立場を追われ、メディアは後退を余儀なくされてきた。多くの国民には、そうした事実は伏せられている。
今回の暗殺事件によって、安倍氏自身がモリカケ桜の正当化のためににらみを利かすことはできなくなった。しかし一方で、事件によって、日本の政党の党首クラスはいつでも暗殺対象となりうる、という状況が作られ、政治を委縮させる可能性が生まれた。暗殺国家を許さないために、国会に今回の事件の真相究明を行なう審議会を立ち上げるべきだ。
しかし、岸田首相が真っ先にとりかかったのが、安倍首相の国葬だった。いつから岸田氏は安倍信奉者になったのか。岸田首相誕生には、安倍・菅と続いた政治の私物化を断ち切ってくれるという国民の期待感があったはずだ。
少なくとも言えることとして、今回の事件によって得をしたのは岸田政権である。その事実を覆い隠すのが国葬といえる。これを山上容疑者の怨恨犯罪として済まし、真の背後関係に蓋をしては、殺された本人も浮かばれない。
そして、この真相究明に加え、安倍氏の負の遺産とどう向き合うのかも問われている。そのための課題は以下の4点にまとめられるだろう。
①麻生元財務大臣、石井元国交大臣をはじめとする虚偽答弁への責任追及。
②会計検査院報告書、財務省改ざん報告書の出鱈目への責任追及。
③赤木裁判への情報公開。
④籠池刑事裁判の公訴棄却。
本来的には、国会に「森友事件真相究明第三者委員会」を作ることが必要だが、小川敏夫氏の著作をベースにすれば野党が独自に専門家と連携して、真相究明を行なうことも可能である。
また森友事件の真の検証にあたっては、安倍独裁政権の片棒を担いできた検察の悪行の結果、籠池夫妻が大阪高裁による実刑判決で瀬戸際に立たされていることに目を向けたい。
森友事件は籠池夫妻が昭恵夫人のつてを頼って、国有地の払い下げを求めたことがきっかけとなっている。しかし不正な手立てで安売りを求めたのではなく、事業者(藤原工業)の「地下に埋設ごみがあるから工事を進められない」という嘘によって、籠池夫妻は値引きが当然だと思っていたにすぎない。
違法な値引きが問題となった時に、安倍氏がその事実を話さず、自身は森友学園と関係がないと国会で発言したのを見て、籠池理事長の安倍氏への信頼が崩れた。そして籠池氏は反旗を振り上げ、安倍氏からの100万円の寄付を明らかにした。
批判に耳を傾けないどころか、批判者の口をふさいだ安倍氏は、歴代首相の中で最も独裁者に近い人物だった。その負の遺産を克服するためにまず必要なのは、国葬を中止して本稿で述べた課題を実行し、籠池夫妻の冤罪事件に検察は公訴を棄却することである。
(月刊「紙の爆弾」2022年9月号より)
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環境ジャーナリスト。NPOごみ問題5市連絡会幹事。環境行政改革フォーラム、廃棄物資源循環学会会員。著書『引き裂かれた絆』(鹿砦社)など。