【連載】平成・令和政治史(吉田健一)

第3回 非自民連立政権(細川内閣・羽田内閣)

吉田健一

(4)羽田政権―少数与党で超短期政権に終わる―

1994年4月25日、細川内閣の退陣によって首班指名選挙が行われました。この首班指名では細川内閣を構成していた与党の7党1会派(社会党、新生党、公明党、日本新党、民社党、新党さきがけ、社民連、民主改革連合)と自民党を離党した自由党(柿沢弘治)、改革の会、新党みらい(鹿野道彦)が新生党党首の羽田を指名しました。

羽田孜

 

この政権は細川政権を主導してきた新生党代表幹事小沢、公明党の市川雄一書記長、民社党の米沢隆書記長(この三人は通称、ワン・ワン・ライスと呼ばれる)の主導によって成立しました。そして、これに反発する新党さきがけ(武村)は首班指名の直後に閣外協力を表明します(第3極を志向していた新党みらいも閣外協力を表明)。

さらに首班指名直後に大きな問題が起きました。新生党、日本新党、民社党、自由党、改革の会の5党が衆議院会派の「改新」の結成を発表したのです。これは社会党の影響力を排除することを試みた小沢によって進められたものでした。

民社党の大内委員長が社会党の村山委員長の許可を得ておいたと後に語っていましたが、これは、大内が村山に相談に行ったというだけで、村山から「改新」の結成の許可を得たというわけではなかったのです。猛反発をした社会党は、首班指名選挙の翌日の4月26日に連立政権離脱を表明しました。この混乱によって、組閣が完了したのは28日の午後でした。

羽田政権の使命は平成6年度予算案を通すことでした。6月23日に参議院で平成6年度予算は可決されました。この後、25日に衆議院本会議が予定されていましが、そこでは自民党が提出していた内閣不信任案が上程されることになっていました。

この内閣不信任案は自民党と社会党の多数で可決される見込みとなったことから、羽田は衆議院本会議の直前に内閣総辞職を表明しました。羽田内閣は予算管理内閣として終焉しました。

おわりに

1993年総選挙の結果、38年間続いた55年体制は崩壊しました。そして、この時には自民党、社会党を中心とする55年体制の主役であった勢力が「守旧派」、そして、自民党を離党した小沢(羽田)、武村と細川という図式でした。この図式はある程度は分かり易いものでした。最初に選挙制度改革(つまりは小選挙区制導入)を言い出したのが小沢、羽田らの勢力だったからです。

しかし、細川政権の誕生後には、もう一つの対立軸ができていました。それは小沢に対する距離感からの対立です。そもそも細川政権成立前から武村は自民党との連携も視野に入れていましたし、小沢と武村は最初から不仲でした。

というよりも、93年の総選挙を迎えた段階で当選3回にしかすぎなかった武村(安倍派)と自民党田中派の中枢にいて自民党幹事長を経験していた小沢は対等な関係ではありませんでした。小沢と武村の対立は必然であったのでしょう。

さらに話がややこしいのは、社会党の問題です。社会党は55年体制の一方の雄でしたが、すでに賞味期限が切れていました。細川政権には参加しましたが、55年体制の時代に組織は疲弊しており「改革派」というのは無理がありました。

社会党内にも確かに「改革派」はおり、さらには新党運動もありましたが、小沢は徹底的に社会党を細川連立政権内部で排除します。海部から宮澤の自民党政権時代の「改革派」対「守旧派」という対立軸が「小沢派」と「反小沢派」となったのが細川政権時代であり、羽田政権はまさにこの「反小沢派」が細川政権から抜けた政権となったのでした。

【参考文献】

後藤謙次『ドキュメント 平成政治史1:崩壊する55年体制』岩波書店、2014年。

平野貞夫『平成政治20年史』幻冬舎新書、2008年。

吉田健一『「政治改革」の研究:選挙制度改革による呪縛』法律文化社、2018年。

 

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吉田健一 吉田健一

1973 年京都市生まれ。2000 年立命館大学大学院政策科学研究科修士課程修了。修士(政策科学)。2004 年財団法人(現・公益財団法人)松下政経塾卒塾(第22 期生)。その後、衆議院議員秘書、シンクタンク研究員等を経て、2008 年鹿児島大学講師に就任。現在鹿児島大学学術研究院総合科学域共同学系准教授。専門は政治学。著作に『「政治改革」の研究』(法律文化社、2018 年)、『立憲民主党を問う』(花伝社、2021 年)。

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