【連載】改めて検証するウクライナ問題の本質(成澤宗男)

改めて検証するウクライナ問題の本質:XIV NATOの秘密作戦Stay-behindの影(その2)   

成澤宗男

米国ボストンカレッジの准教授で、外交を専門とするリンジー・オルークは2018年に出版した著書『Covert Regime Change: America’s Secret Cold War』において、米国が1947年から1989年までの間に世界で秘密工作による政権打倒を64回、公然たる武力によるそれを6回試みたと記している。

こうした米国の特異な対外政策が、冷戦終結以降も継続されたのは言うまでもない。米国はイラクやイラン、アフガニスタン、ベネズエラ、ハイチ、ソマリア、リビア、シリア等でも公然・非公然の政権転覆、クーデターの試みに手を染めた。そして「カラー革命」と称し、欧州では2003年のジョージアにおける「バラ革命」、ウクライナの04年の「オレンジ革命」が米国の「成功例」として記憶されている。

英『ガーディアン』紙の名物記者だった故イアン・トレイナーは、それらについて「米国政府が資金を拠出し、米国のコンサルタント会社や世論調査員、外交官、米国の二大政党、米国のNGO(非政府組織)を動員して組織」されたと報じた(注1)。

そしてこの「カラー革命」は、もともと2000年に最後の「ユーゴスラビア連邦」の大統領選挙でスロボダン・ミロシェビッチが「不正選挙」への抗議行動によって追放された「ブルドーザー革命」が端緒であり、「ベオグラードの米国大使であったリチャード・マイルズが重要な役割を果たした。

03年にマイルズはトビリシの米国大使として、ジョージア(の「バラ革命」)でこのトリックを繰り返した」(注2)と指摘している。この「オレンジ革命」から10年後の14年2月、欧米が「民主革命」などと呼ぶウクライナで起きたクーデターは、米国の一連の政権打倒工作の延長だったのは間違いない。

そもそもウクライナという米国の対ロシアの戦略的要衝での政変に、米国が関与していなかったらよほど不自然だろうが、そこでは前稿で述べたようにより血なま臭く、より厚い機密のベールで被われたNATOの極秘作戦であるStay-behindの影が認められる。

ヌーランドの暗躍

カナダの弁護士で、戦争犯罪など国際刑事司法に通じているクリストファー・ブラックは、このクーデターで決定的転機となった何者かによる無差別銃撃事件(前稿参照)について触れ、「ヤヌコビッチ政権の転覆をもたらしたキエフでの警察と(反政府派の)市民の大虐殺はデモの激化を招き、NATOの支配者の命令による狙撃手の仕業だった」(注3)と主張している。

ただこの銃撃事件は、米国とNATOがどこまで「首謀」したかを実証するのは容易ではない。おそらく諜報機関の最高度の機密に属するだろうが、現時点で言えるのは、実行犯はクーデターの主軸となったネオナチであるのはほぼ間違いなく、こうした勢力と米諜報機関の関係から、クーデターがNATOのStay-behind、あるいはイタリアでのその作戦名である「Gladio」の形態を伴った偽装作戦の一環であった可能性が高いという点だ。

米国外交に大きな影響力を有している極右ネオコンの中心人物として名高いロバート・ケーガンの妻で、14年当時のオバマ政権の国務次官補(現国務次官)としてクーデターの影で暗躍した人物として知られるヴィクトリア・ヌーランドは、同年4月21日に放送されたCNNの番組に登場して「(独立した)1991年以降、米国はウクライナに約50億ドルを投資してきた。その資金は、ウクライナの人々が自分たちを代表する強力で民主的な政府を持つという願望を支援するために費やされてきた」と述べている。

その一方で、キエフ市内の抗議行動の中心的場所となったキエフ市内の広場の名称から抗議行動そのものを示す用語となった「マイダン」については、「資金を投入していない」という一見奇妙な発言を残している。理由は、「それが自然発生的な運動」であったからという。(注4)

ならば、「約50億ドル」もの投入先は「自然発生的な運動」とは無縁で、外部からの資金力でウクライナ人の「願望」を左右するのが可能であったということか。しかも、「(マイダンでの)ほとんどのデモ参加者は平均200~300グリブナ(約15~25ユーロに相当)の支払いを受けている」(注5)という現場の証言は広く知られた事実であり、「約50億ドル」と無関係であったはずがない。

3人の野党指導者

だがヌーランドのこの発言は、国務省が管轄して親米派の育成やSNSを多用した「ソフト」な政権転覆運動に投入される悪名高い「全米民主主義基金」(NED)のような、「米国政府が資金を拠出」する工作とは別の次元で、「マイダン」での2月20日の無差別銃撃が組織されたのではないのかという疑いを生じさせる。

それを示唆しているのが、盗聴記録が何者かによってYOUTUBEで暴露され、「Fuck the EU!」というおよそ国務省の高官らしからぬヌーランドの下品な口ぶりが世界中の失笑を買った04年1月28日の通話記録だ。

ヌーランドの会話相手は当時の駐ウクライナ大使であり、ヌーランドと同様にユダヤ系で、強い反ロシア感情を共有するジェフリー・パイアット。二人は主にヤヌコビッチ後の政権構想を話し合っているが、そこでは当時「ビッグ3」と呼ばれた野党指導者の名前が登場する。

まず、ウクライナのネオナチを代表する一人で、「ロシア野郎とユダヤ、マフィア」からの「祖国解放」を唱える極右政党「スヴォボダ」(自由党)党首のオレフ・チャフニボク。超タカ派の米上院議員で、「マイデン」での騒動の最中にキエフを「激励」のため訪れたジョン・マケイン(18年8月死去)と会見している。

次にプロボクサー出身で、右派政党「ウクライナ民主改革連合」(UDAR)を率いていたヴィタリ・クリチコ。現キエフ市長でもある。

最後に、ヌーランドが電話で首相候補に推しており、実際にクーデター直後にそうなったアルセニー・ヤツェニュク。ウクライナ国立銀行副総裁も歴任したエリートで、当時、汚職の容疑で投獄されていた元首相ユーリア・ティモシェンコが総裁の右派政党「祖国」を率いていた。

この時期、米国大使館と頻繁に連絡を取り合っていたとされる。

なお3人については、ウクライナの反ファシズム・反NATOを掲げる左派「進歩社会主義党」(今年6月23日に活動禁止処分)の党首であるナタリア・ヴィトレンコら29人の政党・市民団体・宗教団体が14年1月25日、国連事務総長やEUの欧州委員会委員長、米国大統領に提出した公開書簡の中で、戦前のナチスドイツに協力した「ウクライナ民族主義者組織」(OUN)や、ユダヤ人、ポーランド人を多数虐殺したことで知られる「ウクライナ蜂起軍」(UPA)といった極右ナショナリストの「イデオロギーと実践を継続しているのを隠そうとはしていない」(注6)と強く批判されている。

破壊された事態収拾の「合意」

なおこの公開書簡は、「ウクライナの暴動を支援することで、ウクライナのネオナチとネオファシストを直接保護し、扇動し、煽っているのを理解すべきです」と忠告し、「国連、EU、米国は、ヒトラーのナチスとその子分が有罪判決を受けたニュルンベルク国際軍事裁判の憲章と判決を認めなくなったのでしょうか」と問いかけている。だがこうした正当で重要な指摘を、公開書簡の受取人が真摯に傾聴した形跡は皆無だ。

無論、この3人と並んで満面の笑みを浮かべている写真が出回っているヌーランドにとっても、自身がユダヤ人であろうが、彼らの「イデオロギーと実践」がどうであろうとも、反ロシアの姿勢がすべてに優先しているのは疑いない。

ヌーランドが会見していた、反ヤヌコビッチ勢力。左がチャフニボク、中央がクリチコ。右が、ヤツェニュク。

 

だが、チャフニボク、クリチコ、ヤツェニュクの3人の野党指導者が、銃撃事件に関与していた可能性はごく薄い。

なぜなら、フランスのローラン・ファビウスを始めとする当時の欧州3カ国外相らのあっせんで21日になり、政権と野党の間で、①2014年12月までの早期大統領選挙実施、②野党、欧州評議会の共同監視の下で行われる暴力に関する調査、③「新しい選挙法」と新しい中央選挙委員会の設立――等を内容とする事態収拾のための「ウクライナにおける政治危機の解決に関する合意」がまとまり、これに「ビッグ3」は署名していたからだ。

この「合意」は、事件現場で抗議行動を仕切っていたネオナチや極右過激派によって否定され、結果的に大統領のヴィクトル・ヤヌコビッチの亡命劇を生む。そして20日の銃撃事件こそ、こうした「合意」による事態の収拾といった策を初めから拒否し、暴力と憎悪がすべてを支配するような「革命状況」を生み出す効果が目論まれていたのは疑いない。

「合意」に乗った野党の「ビッグ3」は、明らかにそのような熱狂が渦巻く現場とは一線を画する次元で動いていたと考えられる。では、実際に現場で何が起きていたのか。

「(政権と野党の『合意』成立後の)2014年2月21日夜、マイダンで開かれた犠牲者を追悼する感情的な集会で、当時無名だったパラシュクはマイクを握り、合意の協定とそれに署名した議会野党を激しく非難した。パラシュクはヤヌコビッチに対し、翌日の午前10時までに辞任しなければ、武装した部下がやってきて大統領官邸を襲撃すると告げた。この演説に群衆は喝さいした」(注7)。

 

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成澤宗男 成澤宗男

1953年7月生まれ。中央大学大学院法学研究科修士課程修了。政党機紙記者を経て、パリでジャーナリスト活動。帰国後、経済誌の副編集長等を歴任。著書に『統一協会の犯罪』(八月書館)、『ミッテランとロカール』(社会新報ブックレット)、『9・11の謎』(金曜日)、『オバマの危険』(同)など。共著に『見えざる日本の支配者フリーメーソン』(徳間書店)、『終わらない占領』(法律文化社)、『日本会議と神社本庁』(同)など多数。

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