安倍暗殺事件のマスコミ報道の犯罪 「供述」垂れ流しと「精神鑑定」の政治的意図
メディア批評&事件検証・統一協会を4日間仮名にしたメディア
キシャクラブメディアは、奈良県警が「特定の団体」と表現した団体が統一協会だとすでに判明し、出版社系のメディアなどは報じていたのに、同会の田中富広会長が7月12日に記者会見するまで仮名にした。参院選が終わるまでという談合があったのだろう。
日本の報道界は、事件事故報道で、権力監視や歴史の記録のために関係者の実名報道は欠かせないと強く主張している。私が一般市民の被疑者・被告人の匿名報道主義(公人の職務上の嫌疑では顕名)を導入すべきだと提唱したのに対し、メディア幹部は「新聞記者だけが実名を知っていて、市民が知らないのは危険」「実名を報道しないと、無関係の人が疑われる」と反論した。
ならばこの大事件で、「特定の宗教団体」はなぜ、仮名だったのか。安倍氏が尊敬する祖父・岸信介元首相(東条英機内閣商工相・元A級戦犯被疑者)、自民党とこの宗教団体の関係が社会的議論になると困るからではないか。
中村格警察庁長官は、安倍氏に近い警察官僚だ。警視庁刑事部長だった2015年、ジャーナリストの伊藤詩織氏が性暴行被害を訴えた事件で、安倍氏に近い山口敬之TBSワシントン支局長(当時)の逮捕状執行を直前にストップさせた。今回も中村氏らがメディアに圧力をかけたと私は疑っている。
近畿在住のジャーナリストによると、男性の弁護人は3人で、うち2人は奈良弁護士会の刑事弁護委員会に所属する国選弁護人、もう1人は私選弁護人という。3人はメディアの取材に応じていないといい、賢明な判断だと思う。
日本国憲法は第31条~40条で刑事手続きを規定し、すべての人に無罪を推定される権利を保障し、公正な捜査と裁判を受ける権利などの基本的人権を認めている。それが「法の支配」「自由で開かれた国」なのだ。
山上氏の伯父である山上東一郎元弁護士(大阪弁護士会、報道では仮名)は7月15日、報道各社の囲み取材に応じ、山上氏の母親が統一協会に傾倒し、総額約1億円のうち計5000万円を入会直後の短期間に献金するなどして一家の生活が困窮したと語った。献金を巡る証拠書類を捜査当局に提出、母親の任意聴取にも同席していると明らかにした。安倍家三代、自民党議員と統一協会・勝共連合との密接な関係にどこまで迫れるか、被疑者が公正な裁判を受けることの保証が、今後重要だ。
統一協会と安倍氏・自民党の関係は深い。官邸・自民党・公安警察は、今あらゆる手段を使って事件をどう処理(隠蔽)するかを考えているはずだ。統一協会は日本の3権、支配層に深く喰い込んでいる。
安倍氏の事件や死亡に関するメディア報道が、選挙結果に影響したのは間違いない。事件は日本の極右・靖国派・統一協会の顔だった政治家が銃撃されたもので、「政治テロ」ではない。安倍氏や祖父・岸信介氏、自民党と統一協会・勝共連合との深いつながりを報道してこなかった報道各社の責任はあまりに重い。
高市早苗自民党政調会長は「安倍氏の憲法改正、国を守るという遺志を引き継ぐ」とNHKの取材に表明した。米議会勤務とウソをついている高市氏が安倍氏の後継でネオファシスト化を狙っている。最も危険な政治家だ。
・鑑定留置は裁判先延ばしの政治判断
奈良地検が山上氏の事件当時の精神状態を調べるため、鑑定留置を奈良地裁に請求し、認められた。期間は11月29日まで。
朝日新聞は7月26日、〈容疑者の身柄を病院などに移し、専門医が成育歴や精神疾患の有無などを調べるための手続き。山上容疑者の勾留はいったん停止される。〉〈(統一協会と)つながりのあると思い込んだ安倍氏を狙ったと供述。一方で、事件前に書いた手紙では「(安倍氏は)本来の敵ではない」ともつづっていた〉と書いた。
朝日新聞はここでも「思い込んだ」と強調した。
報道各社は、すでに山上氏の「供述」情報を垂れ流してきた。しかし裁判所は、男性の精神状態・責任能力があるかどうかを専門家に聞くというのだ。これで、男性の起訴は年末になる。安倍氏と統一協会の関係が取り沙汰されるのを先延ばしするための政治的作戦だとしか思えない。メディアの中に鑑定留置を批判する姿勢は全くない。
野田正彰・元関西学院大学教授(精神医学)は7月24日、山上氏の鑑定についてこう述べた。
「山上さん本人の言い分はきちんとしており、論理的だ。本人の意思があり、思考もよどみない。精神鑑定はすべきでない。今回の鑑定の決定は、精神鑑定は政治的な世論が動いたらするものという、精神鑑定の社会的意味をいい加減にする行為に当たる。世間は精神鑑定について、犯罪をしたのに罪にならない方法だと誤って見ており、こういうでたらめな鑑定へのプロセスが進行するのは問題だ。本人が明確な意図を持っているのに鑑定するのは、彼を貶めることになる」。
そして、こう続けた。
「鑑定になった場合、鑑定医は彼の生い立ちから、家族の一人一人がどんなふうに破綻していったか、父と兄の自殺、家族の崩壊にどう耐えてきたか、母との関係はどうだったかなどに共感し、感情移入して、彼の言い分をきちんと聞くべきだ。しかし、それができる精神科医がいるとは想像できない。米国で開発されたマニュアルで診断するレベルの低い人が大学教授になって鑑定している。
起訴前鑑定で4カ月は長すぎる。2週間で十分。ほとぼりを覚ますとともに、彼は正常ではないという誤った印象を植え付ける検察の意図があるのではないか。政治的な精神鑑定だ」。
さらに野田氏は、山上氏の身の安全を心配した。
「獄中にシャツを入れるなど首を吊らせることも容易にできる。日本では、非人間的な房内での処遇の問題もある。脱獄・自殺の恐れがあるとして保護房などに拘禁することも可能だ。彼が死なないように祈る。ジャーナリズムは監視しなければならない。
マスコミ各社は1970年代から、統一協会に激しい抗議を受けて大変な目に遭ってきたことを忘れたような顔をしている。私は大学で新入生に、統一協会の勧誘の手口を教えて警戒するよう指導していた。悪質な新興宗教のお金の集め方のオリジンは統一協会であり、膨大な人が被害に遭ってきたことを知っているのに、マスコミは書かない。取材チームを出して番組をつくるべきだ。密室の鑑定で、山上さんが薬漬けにされる危険もある」。
テレビや週刊誌では、統一協会の批判は見られるが、自民党との関係こそが重要だ。政治と宗教を問題にするなら、公明党の支持団体である創価学会と自民党の関係も見直すべきだ。
安倍氏が「私人」と閣議決定した昭恵氏が7月21日、安倍氏が会長を務めていた清和会の総会に出席し、「清和会の会長として、やりたいことがたくさん。それをぜひ引き継いでほしい」と呼びかけたという。
また、昭恵氏は安倍氏の死去に伴い行なわれる衆院山口4区の補欠選挙に自らが立候補する考えはないことを伝え「後継を決めるなかでいろいろとお世話になると思う」と述べたという。
安倍政治、壊憲に抗う政権反対4党は山口4区で安倍政治継続に反対する統一候補を擁立するべきだ。
安倍氏の首相在職は通算3188日、連続2822日でいずれも憲政史上最長だった。安倍氏から「こんな人たち」(2017年7月)と呼ばれた私たちは、安倍氏が蒔いた歴史歪曲・戦前回帰・縁故主義・金権政治の種を踏みつぶさなければならない。日本が近隣諸国と共生し、普通の主権国家になるよう民主化を進めたい。
(月刊「紙の爆弾」2022年9月号より)
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1948年、香川県高松市に生まれる。1972年、慶應義塾大学経済学部を卒業、共同通信社入社。1984年『犯罪報道の犯罪』を出版。89~92年、ジャカルタ支局長、スハルト政権を批判したため国外追放された。94年退社し、同年から同志社大学大学院メディア学専攻博士課程教授。2014年3月に定年退職。「人権と報道・連絡会」代表世話人。主著として、『犯罪報道の犯罪』(学陽書房、講談社文庫)、『客観報道』(筑摩書房)、『出国命令』(日本評論社)、『天皇の記者たち』、『戦争報道の犯罪』、『記者クラブ解体新書』、『冤罪とジャーナリズムの危機 浅野健一ゼミin西宮』、『安倍政権・言論弾圧の犯罪』がある。