メールマガジン第51号:「台湾有事」の脅威を煽る政府・メディア
ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会メルマガ琉球・沖縄通信●「台湾有事」の日米共同作戦計画の策定
周知のように、2021年12月26日、「共同通信」によって「台湾有事」の日米共同作戦計画が策定されつつあることが報じられた。この報道は、翌2022年1月7日の日米安全保障協議委員会(2+2)において、「同盟の役割・任務・能力の進化および緊急事態に関する共同計画作業についての確固とした進展を歓迎」という文書で、計画が策定されつつあることが裏付けられた。
この「台湾有事」の日米共同作戦計画は、報道によれば、有事の初動段階で米海兵隊が、琉球列島全域に臨時の攻撃用軍事拠点を設置する(「遠征前方基地作戦」[EABO])、拠点の候補は、陸自がミサイル部隊を配備する奄美大島や宮古島、配備予定の石垣島を含む約40カ所であるとされている。そしてまた、米海兵隊は、高機動ロケット砲システム「HIMARS」をこれらの拠点に配置し、自衛隊に輸送や弾薬の提供、燃料補給など後方支援を担わせるとし、空母が展開できるよう中国艦艇の排除も自衛隊の任務としている。
ところで、米国のインド太平洋軍は、韓国を始めとして様々な作戦計画を策定していると言われている。この中の米韓共同作戦が「作戦計画5030」、米軍の台湾有事「作戦計画5077」(2004年)であるとされている(朝鮮半島有事に関する日米間の概念計画「作戦計画5055」も、存在が確認されている)。
●しかし、米国は「台湾有事」で参戦するのか?
このように、日米の「台湾有事」の日米共同作戦計画が策定されつつあるが、果たして「台湾有事」は、現実的に生じるのか? 米国(米軍)は、「台湾有事」に参戦するのか? 大きな疑問が生じてくるのである。この理由は、言うまでもないがウクライナ戦争における米国の政策や立ち位置からである。
この問題を解くために、ウクライナ戦争における米国の役割を再度見てみよう。
端的に、ロシアのウクライナ侵攻という事態の歴史的・現在的経過を見てみれば、ロシアは、米国――NATO東方拡大路線(東方への覇権拡大)、EDI、ウクライナへの軍事援助を含む軍事拡大政策などに、「相当に追い込まれてウクライナ侵攻」という事態に至ったことが明確になっている。
これを中国・台湾関係に当てはめれば、米国の事実上の「一つの中国」の「曖昧戦略」の見直しによる「米台軍事同盟」態勢づくり(訪台外交の頻繁化、膨大な軍事援助)は、中国の「平和統一」をつき崩し、「中国が台湾へ武力侵攻せざるを得ない」事態に追い込みつつあることが見てとれるのである。
これに加えて、「AUKUS」「Quad」などの対中包囲網づくり――ここ1~2年、急ピッチで進む、日米の英仏豪印独を巻き込んだ「航行の自由作戦」――アジア太平洋への各国海軍艦隊の集結・動員は、まさしく米国の対中戦争態勢づくりと言えよう。
筆者の独断的予測を提起すれば、ウクライナ戦争の事態から明らかなのは、米国は「台湾有事」の時期さえ設定できるということだ。「脅威が顕在化する2027年」、あるいは、台湾への武器援助が完結する「2027年」と(台湾の中国への対抗的軍事力増強の完成)。
結論は、米国は「台湾有事」事態に向けて、対中戦争戦略―新冷戦を仕掛けており、日本を中心とし、台湾・韓国を含むアジア太平洋の西側諸国の総動員態勢づくりに入りつつあるということだ。
しかし、ここであえて問いたい。米国は台湾有事で、はたして参戦するのか?
問題は、ウクライナ戦争への米国の対応だ。米国と台湾の関係は、ウクライナと米国間同様、軍事同盟関係にはない。しかも、中国は核保有国(約320発)であり、一旦戦争が始まれば、米国が現在想定している「島嶼戦争」「海洋限定戦争」に留まることは出来ない。米中の直接衝突は、長期的には核戦争へ発展する可能性が生じるということだ。
こうしてみると、アフガン・イラク戦争の長期の泥沼戦争を終えたばかりの米国の世論は、「台湾有事介入」反対、「対中戦争」反対に動く可能性は大きいと言わねばならない。ウクライナと同様、軍事同盟関係さえないのだから、国際法的にも介入は難しいと言うべきだろう。
となると、「台湾有事」事態において、琉球列島に配置された自衛隊が(特にミサイル部隊)、その戦争の最前線を担い、米軍が自衛隊の「後方支援」を行う、という関係が成り立つ。もともと、自衛隊のA2/AD戦略、「島嶼戦争」論は、海峡封鎖作戦を軸とした海洋限定戦争であり、「沖縄本島を戦場にしない」作戦である。もちろん、この海洋限定戦争が、不可避的に「アジア太平洋戦争」へ拡大していくのは明らかだ。
このような状況をみれば、米国のアジア太平洋戦略に組み込まれ、「台湾有事」事態へと使嗾されつつある日本政府の愚かな「安保防衛政策」を厳しく批判しなければならない。この対中戦争=「台湾有事」事態で、最初に犠牲になるのは、先島―沖縄を始めとする島々の人々なのだ。
(以上の詳細は、拙著『ミサイル攻撃基地と化す琉球列島―日米共同作戦下の南西シフト』参照)
小西誠(軍事ジャーナリスト・ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会オブザーバー)
(「ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会 メールマガジン第51号」より転載)
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