【連載】前田哲男の国際評論

第1回 南西諸島ミサイル基地化の諸相と背景

前田哲男

【連載を始めるにあたって】
同郷(北九州市小倉)の友人でもある木村 朗さんにたのまれて、本インターネットメディア「ISF(独立言論フォーラム)」にコラムをつづることとなった。Webに連載するのははじめての経験だ。「独立した言論=インディペンデント・ジャーナリスト」、この肩書は1970年代以来名刺の裏に記している、わが職業上の英文自称でもある。同名とあっては奮い立たずにいられない。「現場へ」と「現場から」が身上でありながら移動もままならないコロナ時代のうっぷんを、この記事に託したい思いも強い。

幕開きに何をとりあげるか思案したが、沖縄から発信されるメディアでもあり(同時に時事性、緊急性からも)、第1回は、2022年度防衛予算の看板政策となった感のある「自衛隊の南西諸島シフト」について書くことにした。奄美大島~宮古島~石垣島をつらねる「ミサイル基地の鎖」、そして種子島の離島・馬(ま)毛(げ)島(しま)に建設される「自衛隊馬毛島基地」が意図するもの、についてである。事の重大さにもかかわらず、新聞紙面にあまり取りあげられない苛立ちも、すこし関係している。

Israel’s “Iron Dome” Enemy missile interception system

 

まず「南西諸島」とは、からはじめよう。この名称、鹿児島県の薩南(さつなん)諸島(大隅諸島、奄美諸島)から琉球諸島(沖縄本島と先島諸島)を総称する呼び名だ。総延長1200㌔におよび、日本列島の本州に相当する長さをもつ。かつて「戦艦大和」が沈んだ(1945年4月)のは徳之島西方沖、また、島尾敏雄ひきいる「震洋特攻艇」の待機基地も、南西諸島の一角「加計(かけ)呂(ろ)麻(ま)島」にあった(同年8月)。その時期、「本土決戦の捨て石」とされ、特攻機登場の若者多数が死んだ場所でもある。それら島々の散在する南西諸島に、いま「対中防衛線=ミサイル基地」が築かれようとしているのである。

2022年度防衛予算に計上された主要経費からそれはうかがえる。防衛省は来年度予算を「防衛力強化加速パッケージ」と称しているが、「加速」の力点が「南西シフト」に置かれているのはまちがいない。「石垣駐屯地開設費」110億円、「宮古島駐屯地」、「奄美駐屯地」の火薬庫・倉庫建設に169億円が投じられる。さらに、種子島の離島・馬毛島を島ぐるみ買収、そこに3自衛隊共有の「自衛隊馬毛島基地」建設費3183億円も計上された。「全島基地」、「共有基地」、ともに自衛隊初の基地づくりである。台湾海峡に接する与那国島に「電子戦部隊」新設経費55億円も盛られている。

すでに奄美大島の2カ所と石垣島には駐屯地が開隊していて、そこに「12式地対艦誘導弾」(射程100㌔以上)が配備されている。その「12式」の射程を900㌔以上に延伸させる「12式能力向上型」が開発途上にあり、25年には(宮古島も含め)4駐屯地に配備完了という。射程900㌔以上といえば、もはや「短距離ミサイル」とはいえず「中距離ミサイル」と呼ばなければならない。南西諸島基地にそれらが置かれれば、台湾海峡全域はむろんのこと、厦門(あもい)、上海など中国沿岸都市も攻撃可能対象エリアとなる。「敵基地攻撃論」の実行という以外に表現のしようはない。

すでにあきらかなように、「南西シフト」とは、陸上自衛隊の戦略重心転換――「対ソ」=北海道作戦から「対中」=南西諸島作戦へ、戦車戦からミサイル戦へを意味しているのであり、かつ「着上陸作戦から先制攻撃」に、すなわち「敵基地攻撃能力」と分かちがたくリンクしている内実がみてとれる。同時に、「敵基地攻撃論」という机上の問題ではなく、予算・作戦計画に裏づけられた「配備段階」として進行しつつある実情を直視しなければならない。このような基地建設を含む予算案が上程されているのに、衆議院の審議ではほとんど論戦もなく可決されてしまった(22年2月22日)。野党のふがいなさに「ブルータスよ、お前もか」とつぶやくしかない。

China and Japan over the Diaoyu Islands (Senkaku Islands) conflict

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前田哲男 前田哲男

1938年福岡県生まれ。長崎放送記者を経て71年よりフリージャーナリスト。著書に『棄民の群島 ミクロネシア被爆民の記録』(79 年時事通信社)、『戦略爆撃の思想 ゲルニカ―重慶―広島への軌跡』(88年 年朝日新聞社)など。近著『敵基地攻撃論批判』(2020年 立憲フォーラム)、『進行する自衛隊配備強化と市民監視』(21年 平和フォーラム)など

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