【連載】前田哲男の国際評論

第1回 南西諸島ミサイル基地化の諸相と背景

前田哲男

菅義偉内閣が「12式能力向上型」開発を閣議決定(20年12月)した文書には、「自衛隊員の安全を確保しつつ、我が国への攻撃を効果的に阻止する」とあった。「自衛隊員の安全」に配慮はしても、そこに住む、奄美市・宮古市・石垣市などの南西諸島住民(15万人以上)の「いのちと暮らし」には、何の関心もはらわれていない。敵基地攻撃用のミサイル基地が完成すれば、そして中国向けであることが明白である以上、そこが中国からの先制ないし報復攻撃の標的となることを覚悟しておかなければならないのに、「安全確保」は自衛隊員にしか向けられない。「新・捨石論」の復活である。

Japan ground self defense force

 

危険な兆候はほかにもある。21年1月7日におこなわれた日米「2+2共同発表」の一節に、「閣僚はまた、日本の南西諸島を含めた地域における自衛隊の態勢強化の取組を含め、日米の施設の共同使用を増加させることにコミットした」とある。つまり、南西諸島基地が日米共同使用となる方向が示唆されているのだ。これに、共同通信のスクープ記事――「南西諸島に攻撃拠点 米軍、台湾有事で展開 住民巻き添えの可能性 日米共同作戦の計画原案」(沖縄タイムス21年12月24日付)――という見出しをかさねると、ねらいは鮮明この上もない。

「2+2共同発表」は冒頭、以下の文章ではじまる。「(日米の)国力のあらゆる手段、領域、あらゆる状況の事態を横断して、未だかつてなく統合された形で対応するため、戦略を完全に統合させ……」。ついで「中国の脅威」が説かれる。「中国による現在進行中の取組は、地域及び世界に対する政治的、経済的、軍事及び技術的な課題を提起するものであるとの懸念を表明し……地域における安定を損なう行動を抑止し、必要であれば対処するために協力することを決意した」とつづく。ここから読みとれるのは、完全に一体化した「米軍・自衛隊の作戦構想」が南西諸島に結実しつつある構図、それが目撃されているのである。

American and Japanese flags waving at opposite directions over blue sky. Horizontal composition with copy space.

 

21年12月13日付沖縄タイムスは「中国の太平洋進出抑止へ 琉球弧、進む要塞化 南西シフト 隊員9430人配置」という見出しのもと、つぎのように報じている。「自衛隊が与那国島から奄美大島までの琉球弧の島々に展開する「南西シフト」は、中国が太平洋に進出することを日米で防ぐ「第1列島線」と位置付けられている。沖縄本島の陸海空の自衛隊と米軍の基地だけでなく、離島にはミサイル部隊を展開。鹿児島県種子島沖の馬毛島では米軍も使用する新たな基地を計画し、与那国では電子戦部隊の展開を想定するなど琉球弧全体の要塞化が進む」。その直後に「2+2共同発表」がおこなわれ、また「自由で開かれたインド太平洋」のかけごえのもと、自衛隊・米軍による「レゾリュート・ドラゴン21」――「機動展開前進基地作戦(EABO)を踏まえた連携演習――が実施された。

事はこのように進行しているのである。「亡霊復活」というべきか、それとも「新・捨石論」とすべきか、22年度防衛予算案と2+2共同発表に盛られた「南西諸島ミサイル基地化」は、このような近未来を提示する。どう対抗するか、それが私たちにつきつけられた課題だと受けとめなくてはならない。

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前田哲男 前田哲男

1938年福岡県生まれ。長崎放送記者を経て71年よりフリージャーナリスト。著書に『棄民の群島 ミクロネシア被爆民の記録』(79 年時事通信社)、『戦略爆撃の思想 ゲルニカ―重慶―広島への軌跡』(88年 年朝日新聞社)など。近著『敵基地攻撃論批判』(2020年 立憲フォーラム)、『進行する自衛隊配備強化と市民監視』(21年 平和フォーラム)など

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