改めて検証するウクライナ問題の本質:XV NATOの秘密作戦Stay-behind の影(その3)
国際前政権高官らが暴露した「民主革命」の正体
結果として欧米のウクライナ支援における「西側の宣伝工作」の上で、「スヴォボダ」の存在がさしたる支障を及ぼした形跡が乏しいが、故意に欧米主流メディアが目こぼししたためだろう。
結成された「スヴォボダ」には加わらなかったパルビィ元議長は、「我らがウクライナ―国民自衛ブロック」(後の『我らがウクライナ』。2012年解散)という右派政党から出馬して07年に国会議員となり、12年には極端な反ロシアの姿勢で知られるユリア・ティモシェンコ元首相が創立した右派政党の「祖国」に鞍替えして再選されている。
パルビィ元議長はクーデター時に国会議員だったが、「スヴォボダ」の党員や「右派セクター」を率いて暴力的な騒動の現場の「司令官」として存在を際立たたせる一方で、その背後の闇が極めて深い。おそらく実態を解明するための限られた手段となっているのは、ヤヌコビッチ元大統領が亡命するまで国家権力の中枢にいながら、同じく亡命を余儀なくされた前政権の高官らの証言だろう。
その中でも最も注目されるのは、クーデター当時に諜報機関・ウクライナ保安庁(SBU)の元長官で、反ヤヌコビッチ政権派の動きを監視する立場にあったアレキサンドル・ヤキメンコ氏だ。13年にヤヌコビッチ元大統領によってSBUトップに抜擢されたヤキメンコ元SBU長官は、クーデター後の14年3月13日、ロシアの国営テレビ局のロシア1に出演し、極めて注目すべき証言をしている(注8)。
ヤキメンコ元SBU長官はパルビィ元議長を米国の「レベルの高い傭兵」と呼び、パルビィ元議長や反政府運動の幹部について「指導者である米国から言われたことをすべて実行した部隊だった。実際、彼らは毎日大使館で生活していた。大使館にいない日はなかった」と指摘。さらに、「すべての指令は、米国大使館からか、あるいは(キエフの)EU代表部」から発せられていたと暴露した。
加えて興味深いのは、パルビィ元議長らクーデター派の資金源について触れている以下の箇所だ。
「マイダンでの抗議行動が始まってから、我々諜報機関はウクライナの各大使館、つまり欧米の大使館に届き始めた外交郵便が大幅に増えたのを確認した。通常の郵便物の配達を何十倍も上回った。……そのような配達の後、マイダンで外国通貨、つまり新しいタイプの印刷されたばかりの米ドル紙幣が現れた。そしてマイダン近くの両替所で、この外貨の出現が始まった」。
ヤキメンコ元SBU長官は番組で司会者から「(欧米は)現金を密輸したのか」と質問され、「そうだ」と回答しているが、この証言は欧米が政府・メディア一体となって「民主革命」だの「尊厳の革命」だのと美化されているクーデターの本質を示している。
陰でクーデターを操っていた米国
また、ヤヌコビッチ元大統領の下で首相を務めたニコライ・アザロフ氏も、亡命後に「ウクライナで起きたクーデターの脚本は、キエフの反対派が書いたのではなく、米国大使館にあった」と証言。「重要な操り人形師はマイダンにはいなかった」と述べ、クーデター直後に自分の後任になった「祖国」のアルセニー・ヤツェニュクについても「毎日米国大使館に指示をもらいに行っていた」と米国の関与の深さを指摘している。さらに欧米諸国がヤヌコビッチ打倒に動いたのは、「NATOに加盟しない」と明言したからだという(注9)。
当然ながらこうした証言について、欧米主要メディアがまともに取り上げた形跡は乏しい。のみならずヤキメンコ元SBU長官については、「在ウクライナ米国大使館はこの告発を滑稽なものとして却下し、(ウクライナの)現政府の別の高官は事実無根の『冷笑的』プロパガンダと呼んだ。EU代表部は『ノーコメント』だった」(注10)。
しかしながら、自国の責任でクーデターにおける銃撃犯人を一人も処罰できていないような国が、「プロパガンダ」呼ばわりしても説得力は乏しいだろう。
米国にしても、「事実上すべてのニュースメディアは、(クーデターにおける)ネオナチの役割を過小評価する努力に協力し、この不都合な事実への言及を『ロシアのプロパガンダ』として退けている」(注11)有様では、いくら「滑稽」などと揶揄しようともその発言に真実味は薄い。
80年代のイラン・コントラゲート事件を暴くなど米国の調査ジャーナリストの代表格であったロバート・パリー(2018年死去)は、パルビィ元議長について「有名なネオナチ」と指摘しつつ、「米国の報道機関は、パルビィ元議長がネオナチである事実をそらしている。
なぜならネオナチが『民主革命』においてほとんどあるいはまったく役割を果たさなかったという米国政府の作り話は、パルビィ元議長の存在と矛盾するからだ」(注12)と述べている。
そのパリー氏は2014年の時点でウクライナ報道に関し、「40年以上ジャーナリズムに携わってきて、米国の主要メディアがこれほど徹底的に偏向し、誤った理解を招くパーフォーマンスを演じたことはなかった」(注13)と嘆いていた。
その後8年経っても、その「偏向」ぶりはさらに悪質化して留まるところを知らない。だがいくら冷笑しようが、ヤヌコビッチ政権時代の元高官らの銃撃事件に関する証言は、「民主革命」という米国の「プロパガンダ」を根底から崩す内容がまだ示されているのだ。
(この項続く)
(注1)January 22, 2022「The hidden origin of the escalating Ukraine-Russia conflict」
(URL: https://canadiandimension.com/articles/view/the-hidden-origin-of-the-escalating-ukraine-russia-conflict).
(注2)May 29 ,2014 「Who was Maidan snipers’ mastermind?」(URL:https://orientalreview.org/2014/05/29/who-was-maidan-snipers-mastermind/).
(注3)2013「Ultraright Party Politics in Post-Soviet Ukraine and the Puzzle of the Electoral Marginalism of Ukrainian Ultranationalists in 1994-2009」(URL:https://www.academia.edu/5261476/Ultraright_Party_Politics_in_Post-Soviet_Ukraine_and_the_Puzzle_of_the_Electoral_Marginalism_of_Ukrainian_Ultranationalists_in_1994-2009)
(注4)April 17, 2016「Meet Andriy Parubiy, the Neo-Nazi Leader Turned Speaker of Ukraine’s Parliament」(URL:https://www.globalresearch.ca/meet-andriy-parubiy-the-former-neo-nazi-leader-turned-speaker-of-ukraines-parliament/5520502)
(注5)9.mars.2014「Ukraine et Euromaïdan (3) – Svoboda : une « Liberté » toute relative…」(URL:https://www.les-crises.fr/ukraine-oaodvd-3/)
(注6)(注4)と同。
(注7)March 6 ,2014「The fascist danger in Ukraine」(URL:https://www.wsws.org/en/articles/2014/03/06/pers-m06.html)
(注8)March 13 ,2014「SBU-CHEF ALEXANDER YAKIMENKO: SNIPER GEHÖRTEN ZU PARUBIY, US-BOTSCHAFT GAB DIE BEFEHLE」(URL:https://nocheinparteibuch.wordpress.com/2014/03/13/sbu-chef-alexander-yakimenko-sniper-gehorten-zu-parubiy-us-botschaft-gab-die-befehle/)
(注9)February 23,2015「Former Ukrainian PM: US Embassy Had Ukraine Coup Script」(URL: http://www.irdiplomacy.ir/en/news/1944623/former-ukrainian-pm-us-embassy-had-ukraine-coup-script)
(注10)March 13, 2014「Yakimenko accuses EuroMaidan leaders of hiring snipers; allegations denounced」(URL:https://www.kyivpost.com/article/content/ukraine-politics/yakimenko-blames-maidan-organizers-for-hiring-snipers-us-for-financing-revoultion-in-ukraine-339179.html)
(注11)May 7, 2014「HOW THE MEDIA SEES NO NAZIS IN UKRAINE EVEN AS THEY BURN DOZENS TO DEATH」(URL:https://www.stopwar.org.uk/article/how-the-media-sees-no-nazis-in-ukraine-even-as-they-burn-dozens-to-death/)
(注12)April 19,2014「Ukraine, Through the US Looking Glass」(URL:https://truthout.org/articles/ukraine-through-the-us-looking-glass/)
(注13)(注12)と同。
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1953年7月生まれ。中央大学大学院法学研究科修士課程修了。政党機紙記者を経て、パリでジャーナリスト活動。帰国後、経済誌の副編集長等を歴任。著書に『統一協会の犯罪』(八月書館)、『ミッテランとロカール』(社会新報ブックレット)、『9・11の謎』(金曜日)、『オバマの危険』(同)など。共著に『見えざる日本の支配者フリーメーソン』(徳間書店)、『終わらない占領』(法律文化社)、『日本会議と神社本庁』(同)など多数。