第1回 ウクライナ戦争報道の犯罪
メディア批評&事件検証
ウクライナ各地で出会った子どもたち、医療関係者、ジャーナリスト、通訳(ロシア出身の人もいた)らのことが心配だ。小若氏らは22年3月2日、安全基金のFacebook上に「ウクライナ通信」グループを設けた。私たちと繋がりのある学校の校長やメディア関係者から生々しい報告が動画付きで届いている。
どんな戦争でも同じだが、最も苦しむのは子ども、女性、弱者たちだ。この戦争の開始を止めることはできなかったのか、停戦・和平実現をするにはどうしたらいいか、ずっと考えてきた。
ロシアとウクライナは停戦交渉を重ね、同年3月29日にはトルコの仲介で4回目の対面交渉が行われた。いま、最も重要なのは、双方が共に停戦と和平を実現するよう後押しすることだ。ところが、日本の報道各社は事実上、戦争に参戦し、「ウクライナ軍が善戦」しているなどと一方的な報道を展開している。
ロシア専門家を自称する大学教授、防衛省防衛研究所研究員、軍事ジャーナリストらが、「この戦争はテロリスト、プーチンが起こした戦争で、ロシアの戦争ではない」と解説する。革新・リベラル系の反戦活動家も「ロシア軍の撤退」しか言わない。異常な感情移入だ。
私はロシアだけが本当に悪いのか、ウクライナのゼレンスキー政権はロシアの侵攻を止めるための外交努力をしたのか、ウクライナのバックにいる米国率いる北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大などの挑発に問題はないのかと考えた。ウクライナ内のネオコン、ネオ・ナチ系の私兵による東部のロシア系住民への虐殺の問題もある。
ロシアの侵攻で戦争が始まったわけで、ロシアが最も非難されるのは当然だが、応戦したウクライナも戦争当事者になったことも事実だ。「侵略したロシアが100%悪い」というのは間違っている。ウクライナに対しても「戦争を止めろ」、NATOには「武器援助を止めろ」と言わなければならない。
ゼレンスキー大統領が、国家総動員令を出して、18歳以上の男性の国外避難を禁じ、国民に武器を与え、火炎瓶の作り方まで教えて「徹底抗戦」を強いているのは、国民をロシア軍に立ち向かわせることで、ロシア軍の民間攻撃の口実を与えている。親ロ系など11政党の活動を停止したのも問題だ。
私の見解は、朝鮮新報の「時事エッセー・沈黙の声」の第21回(22年3月14日号)の「ロシア“悪玉”一色報道 米国の覇権主義を不問に」と題した記事で書いた。この記事は私のブログにアップしている。
http://blog.livedoor.jp/asano_kenichi/archives/28861423.html
私が「ロシアが悪でウクライナは善」という単純な二元論に疑問を持ったのは、ネットにあった米オリバー・ストーン監督のドキュメンタリー映画「ウクライナ・オン・ファイヤー」(2016年)を見たからだ。最近、この動画が削除されている。不都合な事実があるからだろう。
この映画を見ると、2014年の親ロ・ヤヌコービッチ政権(民主的に選ばれた)を倒したクーデターが米国ネオコンの支援を受けたネオ・ナチなどによって実行されたこと、その後の8年間の親米政権がロシア語を公用語から排除し、ロシア語を使う東部の市民を差別・弾圧してきたことが分かる。
クーデターでは、現在米国務次官のビクトリア•ヌーランド氏らが暗躍し、米国の情報機関などがテコ入れしたテレビ局が3局も新設されており、バイデン大統領の次男がウクライナ企業の役員を務めていることも暴かれている。
1948年、香川県高松市に生まれる。1972年、慶應義塾大学経済学部を卒業、共同通信社入社。1984年『犯罪報道の犯罪』を出版。89~92年、ジャカルタ支局長、スハルト政権を批判したため国外追放された。94年退社し、同年から同志社大学大学院メディア学専攻博士課程教授。2014年3月に定年退職。「人権と報道・連絡会」代表世話人。主著として、『犯罪報道の犯罪』(学陽書房、講談社文庫)、『客観報道』(筑摩書房)、『出国命令』(日本評論社)、『天皇の記者たち』、『戦争報道の犯罪』、『記者クラブ解体新書』、『冤罪とジャーナリズムの危機 浅野健一ゼミin西宮』、『安倍政権・言論弾圧の犯罪』がある。