第1回 ウクライナ戦争報道の犯罪
メディア批評&事件検証また、国連などで紛争を調停してきた東京外国語大学の伊勢崎賢治教授(平和構築学)の論評からも学んだ。伊勢崎氏は毎日新聞(電子版、22年3月5日)の「『プーチン悪玉論』で済ませていいのか」と題した記事で、次のように述べている。
「米国がアフガニスタン、イラクに侵攻した時も、国連憲章が認めた集団的自衛権の行使として正当化した。ロシアはウクライナからの独立を主張する『ドネツク人民共和国』『ルガンスク人民共和国』の要請に応じ、ウクライナの攻撃からこれらの政権を守るために武力を行使した、と言っている。今の国際法では、侵略ではなく、集団的自衛権の行使だ、という理屈は成り立ち得る」
伊勢崎氏は、「ソ連崩壊後、西側諸国に対する強硬派も多かったので、ゴルバチョフ大統領が潰されないように当時のブッシュ米大統領、サッチャー英首相、コール西独首相らが気遣った。当時、東西ドイツの統一をソ連が認めるかわりに、NATO はポーランドも含めて加盟国にしない、東方に1インチたりとも拡大しないと約束した。この口頭での約束を示す非公式な会議内容(日本流に言うと“密約”になるのだろうが)が米ジョージワシントン大学のアーカイブに記録として残されている」と指摘する。
伊勢崎氏は私の取材に、この記録はブッシュ、ベイカーらに随行していたホワイトハウス高官、国務省担当者が残したメモだと明らかにした。伊勢崎氏は開戦以前からこの事実を指摘し、同年3月17日のBSフジの番組でも語っている。
https://thetokyopost.jp/politics/917/
https://www.fnn.jp/articles/-/333431
1948年、香川県高松市に生まれる。1972年、慶應義塾大学経済学部を卒業、共同通信社入社。1984年『犯罪報道の犯罪』を出版。89~92年、ジャカルタ支局長、スハルト政権を批判したため国外追放された。94年退社し、同年から同志社大学大学院メディア学専攻博士課程教授。2014年3月に定年退職。「人権と報道・連絡会」代表世話人。主著として、『犯罪報道の犯罪』(学陽書房、講談社文庫)、『客観報道』(筑摩書房)、『出国命令』(日本評論社)、『天皇の記者たち』、『戦争報道の犯罪』、『記者クラブ解体新書』、『冤罪とジャーナリズムの危機 浅野健一ゼミin西宮』、『安倍政権・言論弾圧の犯罪』がある。