【特集】統一教会と国葬問題

防衛省が極秘調査していた、「安倍暗殺」に残された謎を追う

片岡亮

選挙に勝つために、統一教会(現・世界平和統一家庭連合)とウィンウィンの関係を築いた自民党の政治家たち。中でも安倍派(清和会)とのズブズブぶりは、安倍支持者にも衝撃的だったようだ。

その安倍晋三元首相の射殺事件を当初、政権幹部たちは口を揃えて「民主主義への挑戦だ」と人気取りに利用した。しかし、安倍氏こそが健全な選挙を破壊し、民主主義を冒涜する人物だったことが改めて露呈したのである。

逮捕された山上徹也容疑者は、「母親が統一教会に洗脳され巨額の寄付をし、家庭がめちゃくちゃにされた」ことで、教会を賛美した安倍元首相に怒りの矛先が向いたという。

有識者と呼ばれる人々は「山上容疑者のやった行為は許されないものだが」と前向上を置くのが定番だ。しかし、「普通のやりかたでは、“悪”が正しく裁かれない」という、容疑者が抱いた日本社会への絶望にこそ、目を向けるべきだと思う。

A news headline that says “madness” in Japanese

 

・2発の銃声の“間”の違和感

さて、世間の注目が統一教会問題に集中する一方で、安倍元首相の暗殺事件そのものには、いまだ解明しきれない“謎”が残されている。事件は7月8日11時31分、奈良市の近鉄大和西大寺駅前で起きた。

参議院議員選挙のため応援演説していた安倍氏は、背後から近寄ってきた奈良市在住の山上容疑者に、自作の銃で背後から2発、撃たれた。山上容疑者は警察官によって現行犯逮捕されたものの、安倍氏は失血により死亡した。

奇妙なのは、これだけの惨事にもかかわらず、事件に関する公式情報がやたらと少なかったことだ。歴代最長政権を築き、国葬まで行われる元首相が、誰とも知れない人物によって、まさに“道端”で殺害された。

その死について追えば追うほど、「不名誉」のイメージを強調せざるをえない。そう考えたのか、当初から警察もマスコミも明らかに配慮が見え、犯人が供述した統一教会についても実名をしばらくの間、伏せていたほどだった。

また、その後に明らかになった「致命傷となった銃弾1発が見つかっていない」という事実も、実は早くから漏れ聞こえていたものだった。しかし、一部議員らがそのことを明かすまで報道で触れられることはなかった。

「銃撃事件では、物理的に犯人の行動と弾丸の軌道などを一致させ、殺害を立証する必要があります。しかし、奈良県警が通常の手順をとらず、何を聞いても『捜査中』として事実を明かさなかった」とは、関西で活動する事件記者。

事件の全貌解明へのカギとして注目されているのが、安倍氏が撃たれて地面に倒れ込むまでの一部始終が映った現場の動画だった。

実は、事件直後、この動画は防衛省関係者を通じて非公式に軍事の専門家などに送られ、分析が依頼されていたという。その理由は、事件直後、山上容疑者が2002年から05年まで海上自衛隊に属していたのが判明したことだった。

「防衛省が深刻な反応を見せたのは、就業時に得た軍事的な情報や見識を利用した犯行であれば、自衛隊の信頼に関わるからです。さらに、万一にも現役自衛官が協力していたなんてことになれば大問題になる。それで、すぐに元同僚がリストアップされ、事件翌日には極秘裏に聞き取り調査が始まっていました」。

こう話すのは、軍事ジャーナリストの事務所に在籍していたこともあるフリーライターのS氏だ。

「防衛省では、とにかく事件に自衛隊が関係していないか、気にしていました。自作の銃に手掛かりがあるかもしれないと、ひそかに分析を急いで、部外者にまで相談していたんです」。

事件後には、いくつかの映像がネット上に流れている。防衛省が分析対象に選んだのは、現場にいた自民党スタッフがたまたま撮っていた映像で、警察が証拠として採用したものだという。11秒間の動画は、スマートフォンを横向きにして撮影されたとみられる。

「あくまで非公式ですが、私も意見を求められました。映像はトリミングされているものの、後でネットで出回ったものよりもずっと鮮明で、スロー再生になっていました」(S氏)。

ユーチューブ等で世間に出回った動画でも不可解と指摘されているのが、銃撃された瞬間の、安倍氏のワイシャツの襟の動きだ。最初の発砲後、2度目の発砲の直前に、右襟だけ不自然になびいているのだ。

「襟はすぐに元の位置に戻っているので1発目の爆風によるものではないようです。音のタイミングその他の物理的な考察でも、発表された様子と符合しないと多くの専門家が言っています。襟が翻ってから2発目の銃声までの時間は0.07秒。銃声と同時に、安倍さんの背後ののぼり旗が揺れているので、映像と音声がズレているわけでもありません。1発目と2発目の間には小さな『ピュッ』という音も入っていて、これは安倍さんの首あたりに向けて、2発目より前に別の銃弾が飛んでいた可能性があるということです」(同前)。

こうした意見は防衛省にも送られたようだ。しかし、8月になると「この件はこれ以上の分析はしないことになったので、ほかではなるべく憶測でモノを言わないでほしい」と口頭で釘を刺されたという。

「表向き、われわれ協力者と防衛省は無関係なので、極秘情報を漏らしたりしなければ、何をしゃべろうがいいはず。いつもと違って神経質な感じでした」(S氏)。

防衛省から届いた動画は流出しないよう「視聴回数の制限がかけられていて、すでに再生できなくなっている」というから念入りだった。

・〝第三者狙撃説〞の可能性

この不自然な点には世間でも異論が噴出した。

しかし、非常に残念なのは、そうしたネットユーザーたちの“検証”が、先のS氏と比べ、あまりにお粗末だったことだ。

タレントのさかきゆい氏は8月16日、現場近くのビル屋上に白いテントを確認、それが3時間後に撤収されていたと指摘した。周辺に人影があり「黒人に見える」と書き、あたかもスナイパーがいたような可能性を匂わせた。

これに、少なくない人々が盛り上がりを見せた。政治家でも吉田康一郎・中野区議(東京)は「警察も、事件に関連があるのか無いのか捜査し、結果を公表頂きたい」とツイートしている。

しかし、結論から言えば、要人暗殺のスナイパーが、わざわざ目立つ白色のテントを張り、狙撃後3時間も放置するなどとは考えられない。SNSの注目を集めるものでしかなく、前出のS氏もこう切って捨てた。

「プロのスナイパーがもし本当に安倍さんを狙うとしたら、まったく別の場所を選ぶでしょう。衛星画像の出る屋上なんて、絵になる撮影場所を必要とするアクション映画だけです。目で見えるところに注目してしまうのは、いかにもネットらしい」。

実際、この説は即座に「悪質なデマ」と完全否定された。話題となった商業ビルを管理する不動産会社に問い合わせが殺到したことで、当時の“白テント”は「排煙ダクトの清掃作業などに使うもの」と説明。

事件時の清掃作業は以前から計画されていたもので、定期的に行なわれていた。作業には同社の社員も立ち会っており、不審者やスナイパー小屋の話を否定している。

ただし、残された謎をきちんと追えば、第三者がどこかから狙撃した可能性自体は否定できないものだ。

前出のS氏が言う。

「スナイパー小屋ではなくとも、もっと巧妙に狙撃犯が動いた可能性はゼロではない。音と映像から推察した弾丸の速度、向きなどを計算し、現場に出向いて調べて具体的に立てた別の仮説はありました。防衛省の方から止められているので、詳細は明かせません」。

聞けば、その仮説については、防衛省のほか警視庁公安部にも情報が届けられたという。それでも、別のスナイパーがいたのであれば、山上容疑者の犯行と連携した理由が不明で、実際には「可能性は限りなく低い」とS氏。

「この仮説を追うには、スナイパーまで使えるような連中が、安倍さんを殺した動機は何だったかという疑問まで考えねばならなくなります。思いつくのは台中問題しかありませんが…」。

台湾のネットメディア「風伝媒」は5月、安倍氏が李登輝元総統の3回忌にあたる7月30日に合わせて訪台すると報じていた。

これに激怒したのが中国で、外務省の副報道局長が記者会見で、「日本は中国人民に台湾問題で歴史的な罪を負っており、言動を慎むべきだ」と猛反発している。日本側が訪台を発表していないにもかかわらず、だ。

台湾のフリーランス記者、ホン・チャイトン氏が、こう明かす。

「安倍さんの訪台理由は表向きで、その裏では、台湾有事の際の重要な極秘会談が予定されていたとも聞いています。それを中国が知っていた可能性があります。だからといって、中国政府が安倍さんを暗殺したと考えているわけではありません。それでも、日本の対中強硬姿勢の先頭に立っていた安倍さんだけに、亡くなったことが結果的に中国を利するのは事実です」。

 

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片岡亮 片岡亮

米商社マン、スポーツ紙記者を経てジャーナリストに。K‐1に出た元格闘家でもあり、マレーシアにも活動拠点を持つ。野良猫の保護活動も行う。

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