【特集】ウクライナ危機の本質と背景

米国の核の瀬戸際政策が、破局をもたらす

アンドレ・デイモン(Andre Damon)ジョゼフ・キショール(Joseph Kishore)

今年10月で、キューバのミサイル危機から60年を迎える。当時は、世界が最も核戦争に近づいた瞬間だった。

当時の危機の最終局面は1962年10月22日に、ジョン・F・ケネディ大統領が核搭載可能なミサイルを、当時のソビエト連邦からフロリダのキーウェストまで100マイルしか離れていないキューバにそれ以上持ち込むのを阻止するため、米海軍が「隔離」(quarantine)を実行するとテレビ演説で述べた時であった。

キューバに対する海上封鎖は同年11月まで続いていたが、危機は米ソ間で10月28日に締結した合意によって終息した。キューバからソ連がミサイルを引き上げる代わりに、米国はトルコに配置したミサイルを撤去する密約を交わした。

この6日間で、世界は核戦争で文明が衰亡する危殆に瀕していたのだ。

この危機は、いくつかの面で現在の米国-北大西洋条約機構(NATO)の対立関係と関連している。

第一に、米国はウクライナのNATOへの加盟とロシア国境への多大な軍事的圧力に関するロシアの懸念を否定していたにもかかわらず、西半球でのソ連の軍事プレゼンスに関して核戦争の危険を冒すに値すると見なしていた点は、何度も繰り返し強調されねばならない。

第二に、ケネディ大統領は「隔離」を開始しながら、危機の絶頂期にあって交渉による解決を通じて危機から抜け出ようとした米国の支配階級の一派を代表していた。ケネディ大統領はキューバへの爆撃と侵攻、ソ連との戦争を求めた軍や政治家に抵抗し、そのことが結局1年後の彼の暗殺につながった。

抑制が外れた核戦争への衝動

ケネディ大統領は危機が終息した後、次のように語っている。

「もしこの惑星が核戦争で荒廃し、米国人やロシア人、ヨーロッパ人の3億人が60分間の核の応酬で一掃され、荒廃の中で生き残った人々が火や猛毒、混乱と大惨事に耐えられたとして、彼らの誰かが『どうしてこうなったんだ』と他の人に尋ねたら、『ああ!こうなるんだと知ってさえいれば』と答えるのを望まない」と。

これは、日本人の非戦闘員に原子爆弾が投下されるまでに至った第二次世界大戦の終結から、わずか17年後に語られたのだ。

現在の危機的な状況において最も衝撃的なのは、1962年10月の破滅的な事件以降、ほぼ間違いなく核戦争に引きずり込むことになるロシアとの紛争のさらなるエスカレーションに反対する声が、米国やNATOに加盟する欧州諸国のどの政治家からもあがらなかった点に他ならない。

ロシアのプーチン政権は、ウクライナ戦争で米軍と欧州の同盟軍による大規模な介入に追い詰められ、脅しで対抗している。ハリコフでの大敗後、プーチン大統領とメドベージェフ安全保障会議副議長は、もしNATOがこれ以上戦争に介入したら核兵器を使用すると脅している。

この脅しは、帝国主義包囲網に対するロシアのオリガルヒの絶望的な反応と関連して、極めてリアルなのだ。ロシアは世界中に発射可能で、2時間で全米の主要都市を更地にできる大陸間弾道ミサイルや潜水艦発射型ミサイルを数百発保有している。

欧米諸国の一般的な声明は、それでも後退はあり得ないというもの。プーチン大統領の「核兵器についての発言は我々のウクライナの側に立つという決定と決意、団結を揺るがしはしない」とEUのジョゼップ・ボレル外務・安全保障政策上級代表は語った。

ドイツのクリスチーヌ・ランブレヒト国防相は、「プーチン大統領のウクライナでの成功は、ウクライナを支援し続けるという我々の決意を後押しするだけ」と述べ、オランダのマーク・ルッテ首相もプーチン大統領の「核兵器のレトリックは、寒々とさせる」と言う。

ロシアと調停するよりも核戦争のほうが望ましい

9月28日付の『ワシントン・ポスト』も、ホワイトハウスに対しウクライナの戦争をエスカレートし続けるよう促したが、それは今週、バイデン大統領とブリンケン国務長官が国連で明言したことだ。

「プーチン大統領は自暴自棄に陥っている」と、同紙の社説は書く。そして「ウクライナと西側は、ロシアに圧力をかけ続けねばならない」と、プーチン大統領の「核使用の脅し」を引き合いに出しながら、社説は次のように結ぶ。「プーチン大統領がこの脅しを実行する場合への備えを怠る以上に危ういのは、脅しに怯えるということである」。

米国にとって、核戦争のまさに現実的な危険に「怯えはしない」とか、あるいは誰かが言うように「自分たちの行動を(ロシアから)抑制されないようにする」とは、いったい何を意味するのだろうか。

それは米国の支配階級が、結果がどうなろうとも戦争のエスカレーションを継続するという意味だ。彼らはロシアと調停した場合と比較し、それよりは文明の消滅につながりかねない戦争のエスカレーション、つまり核戦争のほうがより望ましいと決定したのだ。

このことは、多くの上層・中間階級を含めて、米国の支配階級が捉われている無謀さと、戦争への狂乱の信じがたいようなレベルを物語っている。

今や国家行政組織の内部において、核戦争になった場合に何をするべきかという活発な議論が展開されている。9月20日に開かれた核戦略をめぐる上院軍事委員会の特別公聴会では、副大統領の住居をワシントンから動かすべきかどうかが議論された。

アンガス・キング上院議員は、「政府の指導者を分散させなくていいのか」と質問し、理由として「もし大統領や副大統領、政府指導者がいなくなったら、我々は首を切り落とされる。核兵器発射の決定を下す者がいなくなり、(核の)第二次攻撃ができなくなるからだ」と述べた。

米国は核の先制攻撃を排除しない

ともかく、彼らによれば戦争は続けなければならない。このブログですでに述べたように、「米国の支配階級の対応は、奈落の淵まで歩み寄りながら『勝利に向かって前進せよ』なのだ」。

一体この社会的・政治的病理現象は、何なのであろうか。まず第一に、地政学的利益がある。米国やNATO諸国は、ロシアの政権打倒を実現し、かつ帝国主義による直接的な搾取をやりやすくするためにロシアの広大な国土を分割する戦争に引きずり込むのを狙い、ウクライナでの戦争を挑発した。

それは、ソビエト連邦解体後の30年にわたる果てのない戦争策動の集大成であり、米国はそこで経済的衰退を軍事力によって相殺しようとしてきた。

そこでは米国は、ロシアの完全な降伏を伴わないどのような交渉による解決にも反対してきた。ウクライナ北部におけるロシアの敗北の結果、米国の支配階級は血の匂いを嗅ぎ分けている。米国はロシアとの戦争をエスカレートさせながらも、中国に対してより好戦的な脅威を与え、別の破局的な戦争の基盤を準備しつつあるが、そこでは台湾が利用されている。

第二に、米国やすべての主要資本主義諸国内部で危機が存在する。世界で2000万人、米国だけで100万人が死亡した新型コロナウィルスのパンデミックの影響は、経済危機の高まりや物価の上昇、金融市場での売り浴びせ、そして支配階級にとっては最も危険な階級闘争の激化と結びついている。絶望的になった支配階級が、戦争によって国内の危機的状況に何らかの打開策を図ったのは、これが最初ではない。

メディアはロシアが核兵器を使用する可能性をめぐって論議しているが、戦争で核兵器を唯一使用した国は米国自身であるという歴史的事実が存在するのを、ここで強調せねばならない。

もし米国の支配階級が、核攻撃を招くことになる戦争のエスカレーションにも「抑制」されないのであれば、先制核攻撃の準備を「抑制」するものなどありはしないだろう。米国の軍事ドクトリンは、核の先制攻撃を排除してはいないのだ。

(翻訳:成澤宗男)

原題「Washington’s nuclear brinkmanship threatens catastrophe」(URL:https://www.wsws.org/en/articles/2022/09/24/pyka-s24.html

※この翻訳は、米国のインターネットサイトWorld Socialist Web Site(WSWS)の記事を使用した。このサイトは、「新左翼」の潮流に属する「社会主義平等党」が運営している。だが、特に国際問題を始めとした鋭い論評は、オルターナティブメディアとして広く世界中の読者を集めている。

 

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