【連載】人権破壊メカニズム“知られざる核戦争”(矢ヶ﨑克馬)

第6回 低空で水平に広がる円形原子雲―「黒い雨」雨域に放射能が運ばれたメカニズムー(下)

矢ヶ﨑克馬

・第3章 衝撃波が原子雲を育てたのではない:原子雲の生成発展は内在原因による

(衝撃波;高圧空気壁の急速移動)

急激な核分裂連鎖反応により出現した超高温は分子や原子の速度をものすごく大きなものにする(熱力学的速度)。火球は今まで空気の詰まっていた空間に出現するので、その場に有った空気を周辺(火球の表面)に排除する。

排除の仕方が急激であり強力であったので、排除された空気は火球の表面に卵の殻のような高圧壁を作り火球とともに高速で膨張する。この高圧壁はそこに静止していた空気の慣性により火球が膨張するのを妨げる抵抗力となり、やがて火球の膨張を停止させる。

火球の停止と同時に、高圧壁は火球を離れ高圧衝撃波(ショックフロント)となって周囲に広がり地上を襲い反射する。ショックフロントは高温の放射能気体と接して圧力壁を形成していくので必然的に放射能を含む。この様子を図4に示す。

図4 衝撃波と爆風

 

この衝撃波が押し寄せ、到達した空間では急激に圧力が高まり外側への強風が吹き、過ぎ去るときは急激に圧力が下がり逆向きの風が吹く。被爆者には急激な高圧が加えられた直後高圧が急激に抜き去られるので、眼が飛びだしたり、内臓が飛びだしたりする悲惨な被害をもたらした。

衝撃波が離れ去ったあとも、火球は崩れずに形を保ち続けて、温度を下げながら高温気塊となる。核物質・核分裂生成物は原爆筐体などと共に火球内に存在した。放射性物質は高温気塊内に保たれつつ、上昇運動と共に高温気塊の下部の中心軸へ拡散する。水平原子雲に移行する。

(衝撃波は原子雲形成原因か?)

図5は黒い雨に関する専門家会議に出てくる原子雲の生成原理図である。図5Aは衝撃波が地表に衝突して反射波となり、その反射波が原子雲の真ん中に集中して原子雲の内部を通過して原子雲を押し上げるという図であり、図5B はこの内部を通過する反射波を「トロイドの中心を通る上向通風」と呼び、渦の原因だとしている。

図5A 原子雲の形成原理:黒い雨に関する専門家会議報告書資料編(pp.108-109)、原典:Glasstone & Dolan: The Effect of Nuclear Weapons(1977)。

 

図5B

 

果たして図5にあるような事情が事実として存在したのだろうか? 衝撃波の効果に関する動画記録を確認することで回答が得られる。

(原子雲の3秒後の横ずれは衝撃波の反射波でしか理解出来ない)

図6は、米軍機から撮影された広島原爆の投下時点から数秒間の動画の1コマである(「はじめに」の(事実4))。図6Aは原爆がさく裂した直後、図6Bは約3秒後の写真である。

図6Aの原子雲は真っすぐ繋がっている。

図6A 広島原爆炸裂直後の原子雲

 

ところがほぼ3秒後の図6Bでは明らかに頭部が切断され図の右側にずれている。

図6B 広島原爆炸裂約3秒後

 

約3秒後には衝撃波の反射波が原子雲頭部に到達するのであるが、その反射の原子雲に対する作用がこの動画に記録されているのである。約3秒後という時間で図のように頭部をずらす物理的原因は衝撃波の反射波しかないのである。

(「黒い雨に関する専門家会議」らの決定的誤謬)

黒い雨に関する専門家会議」の見解は図5で紹介した。放射線影響研究所(放影研)の要覧の「[1] 原子爆弾による物理的破壊」の項には「・・・(衝撃波が)今度は外側から内側へ逆風が吹き込み、爆心地で上昇気流となってキノコ雲の幹を形成した」と記述される。これが誤謬であることは図6で明快に証明できる。

(わずかな反射面段差(水面か地表か)が反射波の方向をずらす)

衝撃波が地面で反射される際に、地面のわずかな段差(地面と水面の差など)で爆心地ど真ん中の反射波の進行方向がわずかにずれることでこの現象は説明可能である。反射波は原子雲内部を通過するような針状化はせずに、軸の太さに比してはるかに広域の波面を持ち頭部の位置をずらしてしているのである。内部を通過する上向通風などの仮説は全く当てはまらないのである。

(原子雲成長は内在の原因によるー水平原子雲の形成と頭部の大きな渦)

原子雲の成長とその大きな渦は気塊が、①高温であることと、②この高温気塊に温度勾配があること、③空気には粘性抵抗があることの結果として生じる自己運動と理解するのが弁証法的唯物論の帰結である(第3章)。

それに爆心地が地表温度4000℃ほどにも高温化された熱現象と結びついて、一端は横にずれた(図6B)が、ほどなく再び一直線に繋がれるようになったと推察できる(流体連続性)。なお、この高温による現象事実確認で水平原子雲が逆転層に生成することが科学的に矛盾無く説明できたのである。

・第4章 原子雲の形成メカニズム

(1)爆発直後の現象-火球の上昇と原子雲中心軸の形成―

(上昇の原理は浮力)

火球が冷えて高温気塊となり浮力で上昇した。

気塊構成分子等の速度が大きいことであり、運動エネルギーは温度と比例する。温度が高い気塊は気体構成分子等の運動エネルギーが大きく、速度が大きい。衝突しあう反発力が大きいので分子間隔が長くなり、気塊の密度は低くなる。ゆえに周囲の温度より高い温度を持つ気塊は上昇力(浮力)を持つのである。

(気塊内の温度勾配)

高温気塊は低温の通常空気と触れるので、真ん中ほど温度が高い状態となる。

高温気塊内(および中心軸)の温度分布の様子を図7に示す。

図7 温度と気体分子等が持つ速度、温度は矢印の長いほど高温である。

 

高温気塊およびきのこ雲中心軸は中心ほど温度が高く、気体密度が低く、浮力が大きい。温度の高い中心部分が一番急激に上昇し、その周囲の気塊がそれに続いて上昇する。

 

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矢ヶ﨑克馬 矢ヶ﨑克馬

1943年出生、長野県松本育ち。祖国復帰運動に感銘を受け「教育研究の基盤整備で協力できるかもしれない」と琉球大学に職を求めた(1974年)。専門は物性物理学。連れ合いの沖本八重美は広島原爆の「胎内被爆者」であり、「一人一人が大切にされる社会」を目指して生涯奮闘したが、「NO MORE被爆者」が原点。沖本の生き様に共鳴し2003年以来「原爆症認定集団訴訟」支援等の放射線被曝分野の調査研究に当る。著書に「放射線被曝の隠蔽と科学」(緑風出版、2021)等。

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