第6回 低空で水平に広がる円形原子雲―「黒い雨」雨域に放射能が運ばれたメカニズムー(下)
核・原発問題(頭部の渦の原因は浮力勾配と空気の粘性抵抗)
空気には粘性がある(速度の違う集団の間に摩擦力が生じる)ので図8Aに示すように周囲に大きな渦を作りながら上昇するところとなる。
高温気塊の中心高温部分はきのこ雲の頂点に有る。高温気塊からは常に周囲に向かって気体粒子が流れ出す。中心部の温度が高く,周囲に行くに従って温度が低下するので、それぞれから吹き出す気流の速度がだんだんに減少する。
大気には粘性があるので、高温気塊を頂点とするドウナツ的対称性を持つ回転気流(渦:トロイド)が形成される。渦は熱と放射能物質が伴う。
(頭部の急速上昇が中心軸の成因)
高温気塊は上昇するので、渦の下端は高温気塊の底部に向かい、高温気体及び放射性微粒子を動いた後の位置(気塊底部)に移動させ尾を引くことになる。頭部(高温気塊)の後流はきのこ雲の軸となる。
きのこ雲の軸は爆心地地表が高温となったための上昇気流と合体して、全体として大きな熱流;中心軸を形成する(流体連続の法則)。こうして形成される中心軸は高温であり放射能に満ちている。
(空気温度の高度依存性の逆転と原子雲の浮力喪失)
(① 逆転層)
対流圏では大気温度は高さが増すにつれて低くなる。ところが、地表近くの地表風層とその上の空気層の境界が、上空層の気温が高い場合には逆転層と呼ばれる境界面を形成する。逆転層は広島でも長崎でも存在したことが確認されている。
ここで、高温気塊そのものは十分に温度が高いために逆転層に影響されずに上昇し続けるが、後流となるきのこ雲の軸の外側低温部分が上昇することができなくなる(浮力を失う)のである。
上昇できなくなった部分は下方から次々と押し寄せる上昇気流により水平に同心円的に押し出される。これが低空に広がる円形水平原子雲である。広島原子雲では地表風層の風向きは南東であり、上空層の風向きは西風であることが写真により確認されている。これは当時の気象記録と一致する。
(② 圏界面)
高さがさらに上昇し頭部が対流圏と成層圏の境界面すなわち圏界面に到達すれば、周囲の気体の温度が高さに依存せず一定に保たれ(界面層)、あるいは高度と共に上昇する(成層圏)ようになる。
そうなると注目する頭部気塊の外側部分が初めに周囲の気体との間に温度差はなくなり、浮力が消滅する。
高温気塊最高温部はさらに上昇し頭部温度と外気温が一致したところで頭打ちとなり水平のレベルを形成する。広島原子雲はこの状態で撮影されている。
この様子を図8Bに示す。図8Bを図1と比較していただきたい。理論的な推察が現実を良く説明する。
・まとめ
原子雲の写真と動画を現場証拠としてつぶさに観察することから、原子雲の構造および生成について知見を得た。
「黒い雨に関する専門家会議」等の主張する「原爆の爆発によって作り出された衝撃波が地上で反射して原子雲を作った」という説が誤謬であることを明らかにした。爆発後およそ3秒で反射波は原子雲頭部を横にずらした。
原子雲の生成原理は、高温気塊(元火球)の浮力に根源を持ち、爆心地表の高温、大気の粘性、逆転層、圏界面などが関与する。
原子雲の構造は、頭部(高温気塊)、中心軸、低空に広がる水平な円形原子雲からなる。これらは上記原子雲の生成原理で科学的に良く理解できる。
水平に広がる円形原子雲は逆転層に展開する。風下だけで無く全方向に放射能を運ぶメカニズムである。広島長崎には砂漠モデルの適用は誤りであることを明確にした。水平原子雲の上下できのこ軸の太さが異なり、風向きに左右される。放射能を含むので雲が厚くなくとも雨を降らす。
黒い雨の「黒」は火球で生成された放射性微粒子群と火災による「すす」である。
黒い雨の降雨域の広さや移動/時間経緯や雨の強さなどが基本的に水平に広がる円形原子雲の動向により説明可能である。水平原子雲と関連した降雨は局地的気象や火災による雲と相互作用して複雑な展開を為した。
黒い雨領域は放射能領域であった。当該区域にいるだけで放射線被曝を必然的に被った。特に植物は放射性物質を濃縮する光合成を行うので内部被曝被害は深刻であった。
・追記
著者は物性物理学を主たる分野とする一般科学者と自己認識する。放射線分野に関しては「市民研究者」であり、たたかう人々が現場で必要としている課題を確認して、資料を集め科学化しようと試みている者である。
今回は、小さな火球内にあった放射性物質がどのようにして風下以外の遠い場所まで運ばれたかというメカニズムを探ることが、重大課題であった。
科学の基礎となる現場の客観的事実は、投下直後に撮影された写真と動画に残されていた。観察した事実を物理法則に則り考察し現象を説明する科学的識見を得た。驚くべき事に、原子雲の生成/発展と構造に関して、ほとんどあらゆる面で現存する定説を覆すべきものであった。
被曝の科学については、国際原子力ロビーが支配するICRP等が似而非科学であり、ICRP体系は「彼らの方法を追随させるための『政治体系』」であると断じていた(「放射線被曝の隠蔽と科学」緑風出版2021)が、原子雲の自然科学的理解そのものがこれほどまでに非科学に満ちているとは今回改めて思い知った。米国の核戦略に追随する日本の深刻な棄民の実態にさらに憤りを感ずるところとなった。
この小論は最年少の広島胎内被爆者であった沖本八重美の遺志を継ぐものであり、全ての原爆被災者に捧げるものである。沖本八重美は生涯を核兵器廃絶と一人一人が大切にされる社会目指して奮闘した我が連れ合いであった。
我が古希祝いに際して八重美が残した寄せ書き「かつまくん、内部被曝の告発、どこまでも。地球の未来が掛かっているよ。八重美の言うことも聞いてがんばれ~」。その言葉が今も新鮮に響く。
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1943年出生、長野県松本育ち。祖国復帰運動に感銘を受け「教育研究の基盤整備で協力できるかもしれない」と琉球大学に職を求めた(1974年)。専門は物性物理学。連れ合いの沖本八重美は広島原爆の「胎内被爆者」であり、「一人一人が大切にされる社会」を目指して生涯奮闘したが、「NO MORE被爆者」が原点。沖本の生き様に共鳴し2003年以来「原爆症認定集団訴訟」支援等の放射線被曝分野の調査研究に当る。著書に「放射線被曝の隠蔽と科学」(緑風出版、2021)等。