【特集】統一教会と国葬問題

権力者たちのバトルロイヤル:第40回 誰が『安倍晋三』を殺したのか

西本頑司

・“凶弾”に見舞われた二人

権力者たちのバトルロイヤルから安倍晋三が“退場”した。7月8日、奈良市内での選挙応援演説中に2発の凶弾に倒れて死亡したのである。

逮捕された山上徹也容疑者は「現実世界で統一教会(現・世界平和統一家庭連合)に最も影響力のある政治家」と供述。それ以降、自民党政治家と統一教会の癒着をメディアが盛んに報じたこともあり、この暗殺も「自業自得ではないか」という空気が漂うようになった。

 

これまでも、有力政治家が政治的に“殺される”ことはあった。議院内閣制の日本では、スキャンダルで十分、倒閣できる。また“謀殺”にせよ、親子2代でCIAによって排除されたといわれる中川一郎(1983年)、中川昭一(2009年)のように突然死や自殺に見せかけるのが普通なのだ。

“Izmir, Turkey – June 12, 2012: Close up to CIA(Central Intelligence Agency) website through a magnifying glass on the laptop. The CIA is an independent agency responsible for providing national security intelligence to senior US policymakers.”

 

今回の事件では、選挙応援という確実にテレビカメラが回っているところで背後から射殺された結果、文字通りの「世紀のスクープ映像」が残った。この衝撃映像は、今後も世界中で繰り返し流され続けるだろう。

 

安倍晋三という政治家は「射殺された日本の元首相」のイメージで塗り固められ、それ以外の印象は残らなくなる。大物政治家の「死に様」としては最悪といっていい。逆恨みによる凶行にしては、あまりに出来すぎているのだ。ここに何らかの“意図”があるのではないか。

誰が安倍晋三を“殺した”のか。その疑問に答えるかのように、暗殺から約1カ月後、アメリカからトップニュースが届く。

8月12日、ドナルド・トランプ前大統領に対する「国家機密漏洩」疑惑捜査である。FBI(米連邦捜査局)による自宅への家宅捜査以降、欧米メディアは核兵器情報を含む重要機密をトランプが「外国」に漏洩した疑惑を盛んに報じている。その外国とは、いうまでもなく「ロシア」である。

The back of an FBI agent

 

2月24日のロシアによるウクライナ侵攻以後、アメリカのジョー・バイデン政権はウクライナ全面支援を打ち出し、8月現在、400億ドル(約6兆円)の軍事支援を行なっている。

米メディアも「悪のロシア」キャンペーンを大々的に展開し、米国民の多くが「反ロシア」感情を高めている。そこにトランプ前政権が核兵器情報を含む最重要レベルの国家機密をロシア=プーチンに売り飛ばしていたとなれば、トランプは米国民が最も嫌う「卑劣な裏切り者」のレッテルが貼られる。

Bright red rubber stamp says “Top Secret” in very blotty letters.

 

2年後の大統領選で再登板を狙うトランプにとっては「致命傷」になりかねず、今回の強制捜査はトランプの政治生命を断とうとする“凶弾”であったことが理解できよう。

図らずも凶弾に見舞われた安倍元首相とトランプ前大統領は、現職時代、ファーストネームで呼び合う仲にあった。実は安倍晋三の政治キャリアにおいて最大の特徴は、西側先進国で唯一、トランプと個人的な友好関係を築いていたところにある。

有名な経営者であったとはいえ、政治キャリアのないトランプが曲がりなりにも米大統領をこなせた背景には、安倍の手厚いサポートがあったことはあまり知られていない。

2012年末の第2次安倍政権発足以降、党内に盤石な体制を築いた安倍は、その余裕もあってか、トランプの国際政策に助言し、国際会議では常にトランプに寄り添い、あれこれと手助けしてきた。

実際、2018年から始まったトランプ・金正恩による米朝首脳会談なども安倍が水面下で動き、会談内容までアドバイスしていたのは国際インテリジェンスの世界では有名な話だ。そのため安倍はトランプ政権の「首席補佐官」の異名があったほどなのだ。

North Korea and USA flags over blue sky background (3D rendered illustration)

 

それだけではない。安倍とトランプには、もう一人、ファーストネームで呼び合う大統領がいた。そう、ウラジーミル・プーチン露大統領である。こうして点と点は、親ロシアという線で結びついていくのだ。

Saint Petersburg, Russia- November 20, 2015: Cups with the image of Vladimir Putin are put for sale for the tourists in Saint Petersburg, Russia.

 

・中間選挙とウクライナ戦争

現在の日米両政府は、ともに戦後最悪の反ロ路線をとっている。岸田文雄政権もウクライナ全面支援を明言、対ロシアの経済制裁のみならず自衛隊の備品まで無償提供した。

問題は、11月のアメリカ中間選挙だ。現在、米経済はインフレの加速によってリセッション(景気後退)の局面を迎えている。米政界では「リセッションを起こした政権はレームダック(死に体)となる」といわれ、中間選挙では民主党の大敗が予想されている。

Men trying to reach the shopping cart that rises up on the arrow. (Used clipping mask)

 

もともと共和党は、国内の政治課題を優先する政党である以上、バイデン政権によるウクライナ戦争の積極的な介入を認めない可能性が出てくる。米国民にせよ、自分たちの生活を犠牲にしてまでウクライナの支援にこだわるとは思えず、「遠いヨーロッパの戦争」ではなく、景気対策を優先するよう政策の転換を求めるのではないか。

中間選挙以降、アメリカがウクライナ戦争から手を引いていけば、日本政府やEU諸国も同調しよう。ロシアとの休戦や停戦の動きが強まっていけば、プーチンと個人的な繋がりを持つトランプと安倍が再登場しても不思議ではなかった。つまり、バイデン政権が中間選挙の敗北を見据えて両者の排除に動いた疑惑が浮かんでくるのだ。

Deadwood, South Dakota, USA – July 7, 2022: A political t-shirt for sale hangs outside a gift shop on Historic Main Street in downtown Deadwood.

 

2017年に誕生したトランプ政権は、その発足時から米メディアによって猛烈なバッシングを受けてきた。米メディアには新政権の100日間は「密月期間」として見守るという不文律がある。

それを破ったのは、大統領選でロシアの支援を受けていたという「ロシアゲート」が発覚し、トランプ自らも親ロ路線に舵を切ったためであろう。

トランプの親ロ路線は、アメリカファーストを掲げ、国内の製造業復活を基本政策に据えていた以上、現実の脅威は中国の経済力となる。中国に圧力を掛けて封じ込めを狙うならば、当然、ロシアとは融和してアメリカ側に引き込む必要があった、と推察できよう。

それが、どうしてここまでの反発を招くのか。いったい、自分はどこの「虎の尾」を踏んだのか。その疑問からトランプの口から出たフレーズが、「クリミナル・ディープステート」であった。トランプは、戦後の歴代米政権に強硬な反ロ政策を採らせてきた「見えない闇の政府」が存在することを明らかにしてしまったのだ。

 

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西本頑司 西本頑司

1968年、広島県出身。フリージャーナリスト。

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