【特集】ウクライナ危機の本質と背景

早期停戦なければ第3次世界大戦も 、ウクライナ危機を「通過点」にするな

岡田充

ロシア軍のウクライナ侵攻(2月24日)から、1カ月以上が過ぎた。ロシア軍は首都キーウ(キエフ)の電撃的攻略に失敗、停戦協議も難航し膠着状態に陥っている。

この危機の世界秩序に与える影響について、私は「ポスト冷戦時代から始まった『多極化』が侵攻によって可視化された」(注1)と見ている。問題は、事態がウクライナ戦争にとどまらず、欧州全域に拡大し、化学兵器や核兵器の使用を伴う「第3次世界大戦」に発展する危険が出てきたこと。早期の停戦で合意しないと、ウクライナ危機は「通過点に過ぎなかった」という悔いを残すだろう。情勢が膠着状態に入る中、国際政治の秩序や枠組み変化について様々な議論が出ている。

米国際政治学者のイアン・ブレマーは、これを米ロ間の「第2次冷戦の幕開け」(注2)と解釈する一方、「リベラルな国際秩序の破壊」(細谷雄一慶応大教授、注3)と、バイデン政権の主張に沿う主張をする識者もいる。

バイデンは、米中対立のみならずウクライナ侵攻でも「民主vs専制」の二元論の立場から、同盟国との関係強化による対ロ孤立政策を採用し、厳しい経済制裁によってロシアを世界経済から引き離す「新冷戦政策」をとっている。

usa x russia

 

・「ダブルスタンダード」と「翼賛政治」

しかし細谷のように、ポスト冷戦後の世界を米主導の「リベラル国際秩序」が貫徹したと見なすなら、「大量破壊兵器を開発・保有」という作り話を捏造しイラクに軍事侵攻した犯罪をどうみたらいいのだろう、「民主世界」による「テロリスト」への攻撃は、「リベラル」の名によって正当化されるとでも言うのだろうか。

イラク攻撃当時、小泉純一郎政権は米政府の主張を検証抜きに全面支援し、メディアと世論もそれを側面から支えた。イラク戦争では2003~11年までに、米軍攻撃によって民間人を中心に50万人もの犠牲者が出ている。

ウクライナ戦争でメディアは連日、爆撃から逃げ惑う女性や子供の姿を放映し続ける。「悲しければ、悲しいほど、大衆洗脳と戦争動員プロパガンダ効果がある」(米映画監督マイケル・ムーア、注4)という指摘がある。イラク戦争の時、メディアは民間人の側に立って「反戦」の論陣を張っただろうか。これこそ「ダブスタ」(ダブルスタンダード、二重基準)である。

日本の国会は、戦争の一方の当事者であるウクライナのゼレンスキー大統領に国会演説を許した。500人を超す超党派議員が詰めかけ「祖国と国民を~中略~守り抜いていこうとする姿に感銘を受けた」(岸田文雄首相)、「祖国の独立を守り抜くという強い決意が伝わってきた」(志位和夫・共産党委員長)と、政権トップから共産党まで「祖国を守る戦争の正統性」を讃えるのは、なんともグロテスクだった。われわれは「翼賛政治」の真っ只中にいる。

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岡田充 岡田充

共同通信客員論説委員。1972年共同通信社入社、香港、モスクワ、台北各支局長、編集委員などを経て、拓殖大客員教授、桜美林大非常勤講師などを歴任。専門は東アジア国際政治。著書に「中国と台湾 対立と共存の両岸関係」「尖閣諸島問題 領土ナショナリズムの魔力」「米中冷戦の落とし穴」など。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」http://www.21ccs.jp/ryougan_okada/index.html を連載中。

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