早期停戦なければ第3次世界大戦も 、ウクライナ危機を「通過点」にするな
国際・国連緊急特別会合決議が示す「多極化」
ゼレンスキーは「ウクライナ民族主義」を高揚させ、成人男子の出国を禁止し国民に戦いを義務付けている。ロシア軍の侵攻は、国際法が定める「主権・領土の保全」の侵害であり、国連憲章にも違反するのは明らかだ。しかし「国際紛争を解決する手段としての戦争」の永久放棄をうたう憲法を守らねばならないリーダーから「祖国を守る戦争」を讃える言葉を聞くと、「ゾワッ」とする。私自身は「祖国」「民族」を名分に戦う気など全くない。たとえ「国賊」のレッテルを貼られても。
「多極化世界」の分析は、前出の拙稿をお読みいただきたい。一点だけ強調したいのは、多極化の具体的表れとしてウクライナ侵攻非難の国連緊急特別会合決議(3月2日)の投票結果である。中国だけでなくインド、南アフリカなど新興国を中心に35か国が「棄権」したことを取り上げた。
この投票については、イラク戦争を支持した京都大の中西寛教授も「反対と棄権の40は絶対的少数とまではいえず、中国だけでなく西側との関係が悪くないインド、ベトナム、イラクも入っている。賛成国でも例えばトルコやイスラエルは対ロ制裁に完全には参加しておらず、賛成国が反ロシアで完全に結束しているわけではない」と分析する。(注5)
多極化世界とは単純化すれば、「世界秩序を決めるリーダーがいない『無極化』でもある」。バイデンがロシア侵攻を牽制しても止められなかったように、米国がグローバルリーダーの時代は去った。米ソ冷戦時代は、双方が核管理体制を構築して核戦争の危険性は薄れた。しかし多極化世界は、それぞれの極が「自国第一」から出発するため、多極間の協調は築きにくい。
・戦線拡大の危険性
ウクライナ危機は、2国間戦争にとどまらず、欧州全域に戦線が拡大する危険がある。バイデン政権は、ポーランド配備のミグ戦闘機をウクライナに供与する計画を周辺諸国と共に進めた。計画はキャンセルされたのはせめてもの救いだった。実行されていれば、ロシアはNATO加盟国のポーランドを攻撃し、欧州全域に戦線が拡大する恐れすらあった。そうなれば化学兵器、核兵器の使用を含む、「第3次世界大戦」が現実のものになる。そんな恐怖感が頭をよぎり身震いした。
ゼレンスキーは米欧各国での議会演説で、軍事支援とともに「飛行禁止区域」の設定を求めている。「飛行禁止区域」を設定すれば、ロシアがウクライナ周辺のNATO加盟国に戦線を拡大する口実を与えるだけである。
先の中西教授は、「バイデン米大統領はプーチン政権打倒を示唆する発言を繰り返している。ロシアが生物・化学兵器を使用して北大西洋条約機構(NATO)が直接的な軍事介入を決意したり、ウクライナへの軍事支援を理由にロシアがNATOを直接攻撃したりする可能性はある。既に戦争の弾みがついている状況下では核抑止すら絶対でなく、抑止が破られた場合の選択まで準備しておくことが必要」と、核戦争の勃発に警告を発する。早期に停戦合意できなければ、戦線拡大の危険はそれだけ増す。日本政府も「ウクライナ民族主義」ばかりに寄り添って戦線拡大に協力すべきではない。
・「米国依存」でいいのか
本稿では当初、接近する中国とロシアの関係について展望するつもりだったが、われわれが直面する危機の深刻さを優先した。中ロ関係は稿を改めたい。引用ばかりで恐縮だが、先の中西教授は現状を「世界大戦や革命と内戦といった20世紀前半の事例との比較を検討すべき」と見る。そしてプーチン政権については「政変ないし革命でプーチン氏が排除されなければロシアが軍事的敗北を受け入れる可能性は低い」としながらも、プーチンに代わってロシアを統治する政治勢力は見当たらないとみる。
返す刀で、バイデンを筆頭とする欧米日にも次のようにクギを刺す。「正義への衝動と世界的破滅の恐怖の間で、自由主義世界が国際秩序構築に十分な洞察力と自制心を備えているか」――。 一極支配の幻覚に寄りかかってきたツケが回ってきたのだ。
最後に、イアン・ブレマーの言葉で締めくくりたい。「米国はG7 の中で最も政治的に分断され、機能不全に陥っている。米国に依存していると、ロシアに直面しているNATOの同盟国にとっても、中国に直面しているアジアの同盟国にとっても、より多くの不確実性を生み出す」。
これは、岸田政権への警鐘だ。
(注1) 岡田「見えなかった多極化を可視化~ウクライナ危機と世界秩序」、『海峡両岸論』第136号(2022年3月12日URL:http://21ccs.jp/ryougan_okada/ryougan_138.html )
(注2) イアン・ブレマー「<考論>ロシアと「新冷戦」、米に依存は不確実」(朝日新聞デジタル3月9日付 URL:https://www.asahi.com/articles/photo/AS20220309000344.html)
(注3) 細谷雄一「動揺するリベラル国際秩序」、『外交』Vol 72 Mar/Apr2022
(注4) マイケル・ムーア「戦争に巻き込もうとする背後勢力に抵抗を!」、(『長周新聞』 2022年3月25日付URL: https://www.chosyu-journal.jp/kyoikubunka/23069)
(注5) 中西寛「大戦・内戦リスク排除できず ウクライナ危機と世界」(『日本経済新聞』電子版2022年3月31日付 URL: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD280L60Y2A320C2000000/)
共同通信客員論説委員。1972年共同通信社入社、香港、モスクワ、台北各支局長、編集委員などを経て、拓殖大客員教授、桜美林大非常勤講師などを歴任。専門は東アジア国際政治。著書に「中国と台湾 対立と共存の両岸関係」「尖閣諸島問題 領土ナショナリズムの魔力」「米中冷戦の落とし穴」など。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」http://www.21ccs.jp/ryougan_okada/index.html を連載中。