【連載】福島第一原発事故とは何であったのか(小出裕章)

[講演]小出裕章:3.11福島原発事故から11年、脱炭素・原発再稼働・小型原発を問う

小出裕章

6月26日、学校法人「河合塾」上本町校(大阪市)で、小出裕章さん(元京都大学原子炉実験所助教)の講演「3.11福島原発事故から11年、脱炭素・原発再稼働・小型原発を問う」が行われた。

福島の原発事故時まだ幼かった塾生たちのために、前半は福島第一原発の過酷事故の実態、現在も敷地内・敷地外で続く苦闘、会場の参加者全員が亡くなる100年後にも事故は収束できないことなどが話された。

その後、この間、国内だけでなく、世界的に話題となっている「脱炭素化」の問題、なぜ地球温暖化の原因が二酸化炭素の増加のせいにされるか、その背景などについて話された。以下は、その後半部分を要約したものである(構成=尾崎美代子、神坂直樹)。

・地球温暖化の原因は二酸化炭素の増加か?

今日では日本中、世界中の人たちが「脱炭素化」という言葉に踊らされています。地球が温暖化している、その原因は二酸化炭素だ、だから二酸化炭素を出さないようにしよう、「脱炭素社会」を目指そうと。会場のみなさんもそう思っているかもしれない。でもそれは本当なのかという話をします。

News headline that says “decarbonized” in Japanese

 

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第五次評価報告書があります。1つは、1880年位から約160年間、一貫して地球の温度が上がって大変だと報告し([図1])、もう1つは、1958年から約50年間で、地球の大気中の二酸化炭素の量がハワイのマウナロアと南極で取ったデータではどんどん増加していると報告している([図2])。

これらのデータを前に、原子力を推進する人たちは「温暖化の原因は二酸化炭素だ、原子力は二酸化炭素を出さないから原子力を使おう」と主張している。しかし、みなさん、考えてください。

二酸化炭素が温暖化の原因だから悪いといわれるが、では原発が出す「死の灰」はいいのですか? 化石燃料を燃やせば二酸化炭素が出ます。一方、原子力の原料のウランを燃やしたら、それ自体では二酸化炭素は出さないが、「死の灰」が出ます。

でも、二酸化炭素は地球のために猛烈に必要なものです。二酸化炭素がなければ植物は生きられない。植物は「光合成」という反応で、二酸化炭素を摂り入れてやっと生きている。植物が生きられなければ、動物も生きられない。二酸化炭素がなければ、地球上の生命は生きられない。それほど大切なものです。

一方、核分裂生成物である「死の灰」が放出する放射線は、どんなに微量でも生命体に有害であることがわかっています。生命にとって必須な物質である二酸化炭素が悪く、生命にとって必ず危険を伴う死の灰は良いという主張は、初めから間違いだと思っていただかなければなりません。

Atom bomb mushroom cloud made of grey ash

 

気温の上昇が原因で、二酸化炭素濃度増加は結果

もう一歩踏み込んで考えると、二酸化炭素が増えていること、地球が温暖化していることの二つは事実だが、一体どちらが原因でどちらが結果なのかは、別に証明しなくてはいけない。

[図3]のグラフですが、気温が上昇すると、二酸化炭素が少し遅れて増えていることがわかります。理由も簡単に説明できます。コーラやビールを温めたらブクブク泡が出てきます。あれが二酸化炭素です。つまり温めると二酸化炭素が液体から出てくる。地球上にある二酸化炭素のほとんどは海にある。地球が温かくなれば、海から大気中に二酸化炭素が出てくるのは当たり前のことです。

因果関係をいうならば、二酸化炭素が増えて地球が温暖化するのではなく、地球が温暖化したから二酸化炭素が増えていった、そういう因果関係の方が正しいということが、これらのデータから裏付けられます。

A lake in the shape of a rising graph in the middle of untouched nature symbolizing the growing interest in ecology and nature conservation. 3d rendering.

 

[図4]は原子力推進側、あるいは二酸化炭素が問題だという人たちが作ったデータですが、ずっと昔から温度が上がってきたことを示している。

一方、二酸化炭素の方がどうかというと、確かに昔から増えてきてはいるが、劇的に増えたのは1946年からです。戦争が終わり、これからエネルギーを沢山使う社会に入ろうとした時期で、化石燃料を沢山燃やし、二酸化炭素が大気中に出てきたということです。

もっと遡ってどうかというと、地球の温度を推測するデータは沢山あり、推定には誤差もありますが、地球はずっと昔から寒冷化してきたが、1800年代初めから急激に温暖化してきたということを[図5]は示しています。二酸化炭素が温暖化の原因だというより、もっとはるか以前から地球の温暖化は始まっているんだということです。

地球の大気温度が高いとき、二酸化炭素濃度は上昇

もっとたくさんのデータがあります。昔は地球が氷河期になって、今は温暖期です。地球には暖かい時と冷たい時があった。過去4回氷河期と温暖期をくりかえしてきたが、温かくなれば二酸化炭素が増え、冷たくなれば二酸化炭素が減るということは、[図6]からわかります。

そして氷河期と温暖期の間は気温の変化が10℃にも及んでいる。今、IPCCほか世界中の人たちが問題にしているのは、100年で0.数℃という温度の変化です。冗談ではない。地球は10℃という温度変化をたびたび繰り返してきた星なのに、なぜ今、o.数℃の温度が大変なのか、ちゃんと考えなくてはいけないと私は思います。

Thermometer in front of the warmed earth

 

[図7]のデータは、6億年前から現在にいたる歴史の表です。現在は新生代、その前は中生代、その前は古生代といっていた。今地球上の二酸化炭素濃度は約400ppmになろうとしているところですが、過去に地球上の二酸化炭素濃度がどれくらいあったかというと、古生代では7000ppm、だった。それでも生物はちゃんと生きていた。

もちろん絶滅した生物や、逆に新しく出てきた生物はあるが、猛烈な濃度の二酸化炭素があっても地球は生命が宿れる星だったのです。温度もそうです。地球の平均気温は12℃くらいだろうと言われてますが、22℃というときもある。

氷河期と温暖期の差で10℃くらいあり、新生代、中生代のとき、あるいはもっと前には地球の温度がもっと高いときがあった。それでも生物は生きてきた。なぜ、いま、温度が0.数℃上がったからといって大変だとなるのか、もう一度考えてみるべきです。

温暖化と「異常気象」は無関係

そして温暖化が大変だという人たちは、なんでもかんでも温暖化のせいにしてしまう。最近増えている大型台風も温暖化のせいだと、マスコミも宣伝し、多くの人もそう思い込まされている。しかし、果たしてそうだろうか。

[図8]は、最近の台風のデータです。台風が日本に上陸したときの気圧が書いてあるが、最近巨大化した台風は気圧が1000、970、960ヘクトパスカルになってきているという。しかし過去にも900ヘクトパスカル台の台風は沢山来ていた。

温暖化が問題になるずっと前から地球には巨大台風が来ていたのであって「温暖化したから台風が大型化し大変だ」と言うのはまったくちがうと思います。これほど、地球温暖化と二酸化炭素の問題では嘘が多いと私は思います。

Super Typhoon Yutu, strongest storm on Earth in 2018. Satellite view. Elements of this image furnished by NASA.

 

原子力は何のため必要か

ましてや原子力を推進してきた人たちは数限りなく嘘をついてきました。「原子力は未来の無限のエネルギー」と言い、私も最初それを信じました。しかしそれはまったく嘘だった。原子力の燃料ウランは化石燃料よりはるかに少なく、すぐになくなってしまう。原子力は安いともいわれてきた。

Dumping of radioactive waste barrels. 3D rendered illustration.

 

でも、それも嘘でした。電力会社の経営データを使って計算すれば、もともと原発は一番高価でした。おまけに福島の事故が起こったため、その事故処理のために70~80兆円かかるだろうといわれている。それも、日本の法令を反故にして、人々を被ばくさせ続ける状態にさせておいて、そのうえで70~80兆円かかると言っています。

おまけに原発から生み出した「死の灰」の処理、これから10万~100万年お守りをしなければいけない費用を考えたら、話にならないほど高いんです。安全だというのも福島の原発事故が起きて嘘とわかった。そして、今は「原発は地球温暖化防止に役立つ」と言われているが、これも嘘とわかりました。

 

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小出裕章 小出裕章

1949年生まれで、京都大学原子炉実験所助教を2015年に定年退職。その後、信州松本市に移住。主著書は、『原発のウソ』(扶桑社新書)、『原発はいらない』『この国は原発事故から何を学んだのか』『原発ゼロ』(いずれも幻冬舎ルネッサンス新書)、『騙されたあなたにも責任がある』『脱原発の真実』(幻冬舎)、『原発と戦争を推し進める愚かな国、日本』(毎日新聞出版)、『原発事故は終わっていない』(毎日新聞出版)など多数。

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