【連載】福島第一原発事故とは何であったのか(小出裕章)

[講演]小出裕章:3.11福島原発事故から11年、脱炭素・原発再稼働・小型原発を問う

小出裕章

小型炉なら安全か

最近になって言い出したのは「小型炉なら安全だ、小さな原発を沢山造ればいい」です。本当に呆れます。国と電力会社は、嘘をついて、それがばれると次の嘘をつくという形で、今日まできた。しかし、それらは全部嘘でした、少なくとも間違いでした。

Vector illustration of nuclear power plant factory icon with sun and urban city skyscrapers skyline on green turquoise background.

 

小型炉は、構想は昔からありました。例えば「4S炉」(Super – Safe, Small & Simpleの頭文字をとったナトリウム冷却高速炉)を東芝が中心となって、1990年代、人口の少ない極地で造ろうとしたが、1基も出来なかった。

東芝はいつまでも原子力に固執したために膨大な負債を抱え、原子力から撤退、そればかりか倒産寸前になっています。ほかに小型モジュール炉などといわれ、小さな原子炉を沢山造ろうとしたが結局どれひとつ出来ていない。

そもそも原発はスケールメリットを求めて大型化してきたのです。その歴史を[図9]に示します。日本の9電力会社のうち、関西電力を除くすべての電力会社は一方的に大型化の道をたどってきましたた。

唯一関西電力だけが、1985年に小型の原発を造っているように見えますが、これは、高浜原発で90万キロ㍗級の原発を4基造り、大飯原発で120万キロ㍗級の原発を4基造る計画が重なり、大飯1、2号機が動いた後に、高浜3、4号機が動くことになったからです。

結局、日本の原子力開発は一貫して大型化の道をたどってきました。それでも原発の発電単価は水力、火力に比べて高くなってしまっていました。いまさら、どこのメーカーが小型炉を造り、それを電力会社がどこに設置するのでしょう? 小型炉の構想など無知な政治家の頭の中にしかありません。

原発がなくても困らない

原子力が2010年度に発電した電気は、福島事故が起きるまでの1年間で、全部の電力の約3割を賄っていた。電力会社は「原子力発電はすでに電力の3割を発電している。これを止めてしまったら停電する」と脅してきた。しかし2010年度の火力発電所の設備利用率(稼働率)は5割にも満たなかった。

つまり火力発電所を半分以上停めて原子力を猛烈に動かしていた。原子力を止めても火力発電所の稼働率は70%にしかならない([図10])。それほど火力発電所はあり余っていた状態だった。

福島事故が起きて、危険性は事実として示されたわけですから、原子力を止めて、他の電力、再生可能電力に移行しようと、国がちゃんと手当するのが当然と思うが、まったくやらない。ずっと原子力にしがみつこうとしていた。

2014年度原子力発電所は1基も動いていなかった。その時火力発電所は57%動かした。2010年度47%しか動かさなかった火力発電所を、ちょっと動かしただけで、電力は賄えた([図11])。

今でも原子力なんか使わなくても困らない。それなのに「原子力を止めたら困る」と電力会社や国が脅しをかけている。事実としては困らない。そしてもっと大切なことは、原子力がなくてもちゃんとやれるように、国が政策的にやるべきだったのです。

大量生産・大量消費の見直しを

[図12]は、夜の人工衛星から地球を見た時の写真です。日本は不夜城のごとくきらきらと浮かび上がっている。なぜこんなに明るくしておかなくてはいけないのか。そんなことのために電気が必要なのか? 明るくすることが「幸せ」なのか?

Earth with city lights and communication lines view from space at night.
World map texture credits to NASA.
https://visibleearth.nasa.gov/view.php?id=55167

 

私たちは100年間以上エネルギーがあれば幸せで豊かに生きられるとずっと信じてきて、原子力に手を染め、挙句の果てに福島の事故を起こした。それでもなお電気が欲しいと言い続けるのでしょうか? よく考えるべきです。

今、日本中、世界中が二酸化炭素による地球温暖化が一番危機だ、なんとか防がなくてはと、多くの人たちがそのことばかりに目を向けさせられている。

でも原子力もとても悪い。原子力は核分裂する場合には二酸化炭素は出さないが、かわりに「死の灰」がつくられる。でも原発もじつは二酸化炭素を膨大に出している。原子力の燃料のウランを鉱山で採掘する際も沢山の機械を動かすし、それを原子力発電所で燃えるようにするためには濃縮とか、さまざまに加工する際にも二酸化炭素を出している。

原発そのものもコンクリートと鋼鉄の塊で、それを造る際にも膨大な二酸化炭素を出している。運転するときも、ましてや福島の事故の後始末をするにも100年ではきかない、長い間にどれだけの二酸化炭素を放出するかわからない。

核のゴミを10万年、100万年お守りするにも、どれだけのエネルギーがかかり二酸化炭素を出すか、想像するだけでも馬鹿馬鹿しいことになってしまう。もし地球の温暖化は二酸化炭素が引き起こしているとして、二酸化炭素を減らさなければいけないというなら、原子力だけはやっていけない。

おまけに、実はそれも間違えています。確かにこの地球はさまざまな危機に直面している。大気汚染、森林破壊、砂漠化、環境ホルモン、マイクロプラスティック、放射能汚染、さらには貧困、戦争などの猛烈な危険が山ほどある。それらはいずれも人間の際限ない欲望の下、大量生産、大量消費をしてきた結果です。

確かに地球温暖化も脅威の一つかもしれない。そしてその原因の一つに二酸化炭素があるかもしれない。でもそれだけのことで、地球上のほとんどの脅威は二酸化炭素とはまったく関係ない。なのにほとんどの人たちは二酸化炭素だけが大変だと思わされ、「脱炭素社会」「低炭素社会」などという標語が日本中、世界中にいきわたってしまうという状態になっている。

本当に必要なことは、低炭素社会を作ろうなどとは違って、エネルギーを無限に使おうとしてきた私たちの大量生産、大量消費の生活様式そのものをやめようということだと思います。今多くの人たちが二酸化炭素だけに目を奪われていくこと、そのことこそ最大の脅威だと思います。

High voltage pylons in the evening sun
Concept for electricity generation, rising electricity prices, environmental issues, climate change

 

もっと事実をきちんとみて、私たち人間も、地球で生きられるようになにをすべきかと考えて欲しいと思いますし、原子力に間違えて夢をかけて生きてきた私としては、なんとしても原子力に引導を渡したいと思っています。みなさんもしっかり考えていただきたいと思います。ありがとうございました。

[2022年6月26日、河合塾上本町校(大阪市)にて]

(雑誌「季節」2022年秋号より)

 

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小出裕章 小出裕章

1949年生まれで、京都大学原子炉実験所助教を2015年に定年退職。その後、信州松本市に移住。主著書は、『原発のウソ』(扶桑社新書)、『原発はいらない』『この国は原発事故から何を学んだのか』『原発ゼロ』(いずれも幻冬舎ルネッサンス新書)、『騙されたあなたにも責任がある』『脱原発の真実』(幻冬舎)、『原発と戦争を推し進める愚かな国、日本』(毎日新聞出版)、『原発事故は終わっていない』(毎日新聞出版)など多数。

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