【特集】ウクライナ危機の本質と背景

スウェーデンの新聞が報じた米国の「ドイツ・EU弱体化のためのウクライナ戦争」謀略……

佐藤雅彦

スウェーデン紙が暴露したランド研究所極秘報告書(全文)

 

【1頁(表紙)】

調査報告書

2022年1月25日 極秘〔Confidential〕

配布対象:アメリカ合衆国大統領首席補佐官〔WHCS〕、国家安全保障問題担当・大統領補佐官〔ANSA〕、国務省、中央情報局〔CIA〕、国家安全保障局〔NSA〕、民主党全国委員会〔DNC〕

報告書要旨

ランド研究所〔RAND CORPORATION〕

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【2頁(ランド研究所の簡単な紹介や、著作権などの記載――和訳省略)】

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【3~6頁(報告書の本文)】

ドイツを弱体化させることで、合衆国を増強させる

合衆国経済の現状から判(わか)るのは、国外からの金銭的・物質的な支援なしには国家として機能して行くのは無理だということである。連邦準備制度は近年、定期的に量的緩和政策を繰り返してきたが、それに加えて2020~21年の新型コロナウイルス感染爆発によってロックダウン〔=社会封鎖〕が行なわれたことで対外債務が急増し、ドル供給量が増加した。

経済情勢の悪化が続いていることで、22年11月に予定されている中間選挙で民主党の国会議員が数を減らし、議会とりわけ上院での勢力を失う可能性が極めて高い。こうした状況では大統領が弾劾される可能性も排除できないが、それだけはどんな犠牲を払っても回避せねばならない。

諸々(もろもろ)の資源(リソーシズ)を米国経済とりわけ銀行制度に(外部から)緊急に流入させる必要がある。米国が重大な軍事的・政治的犠牲を払うことなく、そうした諸資源を供出させることが出来るのは、EU〔欧州連合〕とNATO〔北大西洋条約機構〕に拘束されている欧州諸国だけである。

これを邪魔立てする重大な障壁は、ドイツが国家独立の勢いを強めていることだ。ドイツの国家主権はいまだに制限を受けているが、この国は何十年もの間、そうした制限を取り払って完全なる独立国家になることを目指し、一貫して努力してきた。

ドイツの完全独立に向けての歩みは遅々(ちち)としており、用心深いものであるが、着実に前進し続けている。このまま行けば今後数十年のうちにドイツはこの究極の目標を達成できるであろう。

しかし合衆国内の社会的・経済的問題が更に悪化すれば〔ドイツの完全独立に向けた〕動きは目覚(めざ)ましい勢いがつく恐れがある。

ドイツの経済的独立を後押しし続けている要因がもう一つあるが、それは「ブレグジット」〔=英国のEU脱退〕である。英国がEU体制から撤退したことで、我々は〔欧州諸国の〕“政府横断的(クロス・ガヴァンメンタル)”な決定に向けた政府間交渉に影響を及ぼす重大な機会を、失ってしまった。

このような動向に対して否定的な反応を繰り出すことを、我々は躊躇(ためら)ってきたが、そのような態度こそが全般的にこうした〔合衆国の窮状(きゅうじょう)突破に向けての〕変化が遅々として進まぬ状況を招いてきた。我々が欧州への関与から完全に身を退(ひ)くことになれば、ドイツとフランスに、両国が互いに十分に満足できるような政治的合意を作り出す絶好の機会を与えてしまうことになる。

そうなればイタリアその他の「古いヨーロッパ」の国々――すなわち旧《欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)》〔=第二次世界大戦終結から間もない1952年にフランス・西ドイツ・イタリア・ベルギー・オランダ・ルクセンブルクの6ヵ国によって設立され、EEC(欧州経済共同体)や延(ひ)いてはEUの母体となった欧州内の国家連合体〕に参加していた国々――は、状況次第ではこの“独仏協調体制”に参加することも起こりうる。

英国はもはやEUを脱退したので、独仏“二国同盟(デュオ)”の圧力に単独で抗することは不可能である。この独仏“二国同盟”というシナリオがもし実現することになれば、欧州は経済だけでなく政治に関しても合衆国を脅(おびや)かす競争相手になってしまうであろう。

これに加えて合衆国が当面のあいだ国内問題に掛(かか)りきりになれば「古いヨーロッパ」は、合衆国による誘導を受けている東欧の国々からの影響を、一層効果的に抑え込むことが出来るようになるだろう。

ドイツおよびEUの、経済の脆弱性

もしもドイツが、何らかの操作によって創り出された“経済危機”に襲われることになれば、欧州から米国への“資源”の流入が増大することが期待できる。EUの経済発展の基調を支えているのは偏(ひとえ)にドイツ経済なのであって、これに代わり得るものは無きに等しい。ドイツこそが、EUに参加している“貧しい国々”に振り当てられているEUの支出の、最大の担い手なのである。

現行のドイツ経済は原理的に二つの“柱”に支えられることで成立している。それはロシア産の安価なエネルギー資源を入手でき、尚かつ、フランスが原子力発電所を運転しているおかげでそこから安価な電力を入手できるからに他ならない。この2つのうち格段の重要性を有しているのは前者である。

ロシアからドイツへのエネルギー資源の供給を止めることができれば、ドイツ経済を破綻に導くような徹底的な危機(システマティック・クライシス)を十分に創り出すことが可能であるし、この危機は間接的にではあるがEU全体を破綻に追い込むであろう。

更にまた、フランスのエネルギー部門(セクター)もすぐに深刻な危機に直面することになる。ロシアが自(みづか)ら統制している核燃料のフランスへの供給を停止することは、十分に予想できる。それに加えて〔フランスの核燃料の原料供給国である〕サハラ砂漠南縁(サヘル)アフリカ諸国で政情不安が起きれば、フランスのエネルギー部門はオーストラリアとカナダに核燃料を頼らざるを得なくなる。

すでに合衆国は、英国およびオーストラリアと共にAUKUS〔=豪英米三国軍事同盟〕を立ち上げているので、これを利用してフランスに圧力を掛けることができる。但しこの案件は当報告が扱う範囲を超えている。

操作で「危機」を創り出す

ドイツは“EUの一員”という制約に縛られているので、自国が危機に陥っても〔EU諸国に諮(はか)らずに〕独断でその危機を対処鎮圧できる力を有していない。我々が的確な策動(アクション)を進めてきたおかげで〔ドイツなどの〕鉄鋼・化学業界に雇われた院外活動家(ロビイスト)たちが如何(いか)に反対しようが、《ノルド・ストリーム2》パイプラインの供用を停止に追い込むことは、すでに可能になっている。

但し〔ロシアからのエネルギー資源の供給が止まって〕国民の生活水準が劇的に悪化することになれば、〔ドイツなりEUなりの〕政治指導者たちは従来の〔米国に大きく依存しているNATOを土台とした〕外交政策を見直して〔欧州人民の、欧州人民による、欧州人民のための〕「欧州主権」を確立して国際戦略上の「欧州の自主独立」の理念に立ち返る可能性があることも、否定はできない。

ドイツが、ロシアからのエネルギー資源供給を自(みづか)ら拒まざるを得なくなる状況を、実現させるために実施可能な唯一の方法は、ドイツとロシアの双方を、ウクライナを舞台にした軍事紛争に巻き込むことである。この〔ウクライナの〕国で我々が更なる策動(アクション)を行なえば、ロシアは必然的に軍事的反応を返して来るであろう。

ドンバス地方で旗揚げはしたが国際的には十分な“国家承認”をまだ得ていない複数の「共和国」に対してウクライナが大規模な軍事的圧力を掛けている現状に対して、ロシアが無視し続けることが出来ないのは明らかである。そしてひとたびロシアが軍事的反応を返して来たなら、ロシアを公然と「侵略者」呼ばわりして、あらかじめ用意しておいた対ロシア制裁策を全面的に発動することが、可能となる。

これに対抗してプーチン大統領もまた、限定的な制裁策を発動して来るかも知れないが、それは主に欧州に対するロシアのエネルギー資源供給を制限する、というものになるだろう。かくしてEU諸国は、ロシアが制裁で被(こうむ)る損害に匹敵する損害を、被る結果となり、一部の国々――とりわけドイツ――は格段に大きな損害を被ることになる。

ドイツがこの罠(トラップ)に陥(はま)るための必要条件がすでに存在しているが、それは即ち、欧州で《緑の党》という政治組織とそのイデオロギーが指導的役割を果たしていることだ。ドイツの《緑の党》は、熱狂的とまでは言えないとしても強烈に独善的な運動体であり、その結果、“経済の論理”を実に安易に無視するのである。

この点に関して言えば、ドイツの《緑の党》の“経済音痴”は、欧州の他の国々の《緑の党》よりも些(いささ)か度を超している。ドイツの《緑の党》の指導者たちの――まずもって〔22年1月現在の共同党首である〕アンナレーナ・ベアボックとロベルト・ハーベックであるが――個人的な性格とプロ意識の欠落を見れば、彼らが時機を失することなく自らの過(あやま)ちを認めることは殆(ほとん)ど望みようがない、と考えてよい。

だからマスコミが「プーチンによる侵略戦争」という印象を手早く世間に広めることが出来れば、《緑の党》は対ロシア制裁を後押しする熱烈かつ強硬な支持者に――すなわち《戦争の党》へと――一変するであろう。そうなれば何の妨害も受けずに対ロシア制裁体制を導入することが可能となる。

〔《緑の党》の〕現在の指導者はプロ意識が欠落しているから〔対ロシア制裁の一環としてロシアからのエネルギー資源の輸入を停止するなどの〕思い切った政策を実施して、その結果、誰の目にも明らかな“悪影響”に見舞われたとしても、後になって自らの失敗を認めることはないであろう。

ドイツで《緑の党》と連立内閣を組んでいる他の政党〔《社会民主党(SPD)》と《自由民主党(FDP)》〕は、黙ってこれに従わざるを得ないだろう――少なくとも〔《緑の党》と離反することで内閣が分裂解体し〕政治危機を起こしてしまう、という政治家たちの恐怖心を圧倒してしまうごどに〔対ロシア制裁がドイツにもたらす〕経済危機が深刻化するまでは……。

連立政権のパートナーである《社会民主党》と《自由民主党》が、《緑の党》の方針に公然と異議を唱えて、“《緑の党》抜きの新政権”が誕生するという状況がたとえ訪れたとしても、その新政権がロシアとの外交関係を速(すみ)やかに修復して“正常化”できる可能性は明らかに乏(とぼ)しい。

ドイツは、ウクライナ軍への大量の兵器や軍事装備品の供与に連座し、その結果、ロシアは必然的にドイツに対して強烈な不信感を抱くであろうから、両国の“関係正常化”に向けた交渉はかなり長引くことになるはずだ。

もしもロシアがウクライナを「侵略」して「戦争犯罪」を犯したことが立証されれば、ドイツは、EU内でどんなに指導的な立場にあるとしても、他のEU参加諸国がウクライナ支援と対ロシア制裁の一層の強化に靡(なび)く動きを、抑(おさ)え止(とど)めることは出来なくなる。

そうした状況になればドイツとロシアの協調関係には大きな罅(ひび)が入ることは確実で、ドイツ経済を牽引(けんいん)してきた産業界の国際競争力は確実に大打撃を受けることになる。

予想される結果

ロシアからのエネルギー資源の供給量が減れば――これは現在の供給量の半分にまで減るのが理想的であるが――ドイツの産業界には壊滅的な影響が及ぶであろう。

産業分野に充(あ)てられるはずだったロシア産の天然ガスを、一般住居や公共施設の暖房に割り充てねばならないとなれば〔新型コロナ感染症の汎流行(パンデミック)ですでに深刻化している〕各種の産業資材の欠乏状態はますます悪化するはずだ。ロックダウンで民間企業が休業状態に追い込まれれば、製造業には不可欠な製造部品(コンポーネンツ)や交換部品(スペアパーツ)は供給不足を来(きた)すし、物流チェーンは破綻してしまう。

これは全産業に破綻の連鎖を拡げる“ドミノ効果”を生み出すことになろう。化学産業・金属産業・機械産業の工場は完全に操業停止に追い込まれる可能性が高い。更にまた、交換部品の供給が止まることで〔機械の修理が出来なくなるので〕“省エネ対策”が出来なくなる。現代企業は常に物流が循環していないと成り立たないが、その物流が止まってしまうわけで、これは産業の崩壊を意味する。

ドイツ経済の累積的な損害がどれほどになるかは、概算で予想するしかない。たとえロシアからのエネルギー資源の供給制限が2022年だけで終わったとしても、その影響は数年間は続くであろうし、それによる損害の総額は2000億~3000億ユーロに達する可能性が高い。

これはドイツ経済を荒廃させるだけでなくEU圏内の経済全体を必然的に崩壊に追い込むであろう。経済成長率が落ちるどころの話ではなく、不況が長引き国内総生産(GDP)が凋落(ちょうらく)に向かう。材料生産だけを見ても、今後5~6年間は年率3~4%の割合で生産量が落ちて行くであろう。こうして生産活動が凋落すれば必然的に金融市場は恐慌状態(パニック)に陥り〔ドイツやEU圏内の〕金融市場そのものが崩壊する可能性も高い。

EU通貨「ユーロ」は必然的に米国「ドル」よりも購買力が落ちるであろうし、この対ドル「ユーロ安」状態は恐らく今後、回復できぬまま続いていくであろう。急激な「ユーロ安」で、「ユーロ」は世界的に投げ売りされることになる。

「ユーロ」は“有毒な通貨(トキシック・カレンシー)”に成り果てて、世界の全ての国が、外貨準備高に占める「ユーロ」の割合を大急ぎで減らして行くであろう。こうして「ユーロ」が駆逐された国際金融市場の“穴”を埋めることになるのは、まずもって米国「ドル」と中国「人民元」ということになる。

経済不況が長引けば、必然的に国民の生活水準が急激に悪化するし、失業者が増える(ドイツ国内だけでも20~㊵万人の失業者が発生する)。その結果、熟練労働者や高学歴の若者たちの国外流出が起きる。だが今日(こんにち)では、こうした移民の向かう先はまさに米国を措(お)いて他にない。他のEU諸国からも、ドイツほど大量ではないにせよ移民が流れ込む可能性があるが、この移民の流入も極めて意義深い。

ここで検討してきたシナリオは、こうして〔合衆国の〕国家規模での財政状態を、間接的にも、そして殆(ほとん)ど直接的にも、強化するのに役立つはずである。短期的には、すでに朧気(おぼろげ)ながら現われている経済不況を、好況へと転換させるであろうし、目先の経済的利害に汲々(きゅうきゅう)としているアメリカ国民の関心を逸(そ)らすことでアメリカ社会を一つに纏(まと)めることもできよう。そしてこれは結局〔バイデン政権と民主党にとって試練となる〕来たるべき選挙での〔敗北の〕危険性(リスク)を減らすことにつながる。

中期的(今後4~5年間)には〔ドイツからの〕資本逃避(キャピタル・フライト)と、国際的な物流網の再編と、〔ドイツおよびEU諸国の〕主要産業の国際競争力の低下のおかげで、合衆国は累積的な利益を得ることになり、その総額は7~9兆ドルに達すると予測できる。

遺憾(いかん)ながら、この実現可能なシナリオによって、中期的には中国にも“漁夫の利”が転がり込むことになる。しかし欧州は政治面で合衆国に深く依存しているので、中国に接近する国が欧州内に出現しても、我々はその企てを個別撃破で阻止できるのである。

なお、参考のために、上掲の、スウェーデン紙が暴露した“ランド研究所の極秘報告書(全文)”の文面(写真)を以下に掲げておく。これは、冒頭で紹介したスウェーデンの新聞記事にリンクされている、同紙サイト内(https://nyadagbladet.se/wp-content/uploads/2022/09/rand-corporation-ukraina-energikris.pdf)で公開されている「報告書」紙面の写真である。

(月刊「紙の爆弾」2022年11月号より)

 

ISF主催トーク茶話会:望月衣塑子さんを囲んでのトーク茶話会のご案内

※ウクライナ問題関連の注目サイトのご紹介です。

https://isfweb.org/recommended/page-4879/

※ご支援のお願いのチラシ作成しました。ダウンロードはこちらまで。

https://isfweb.org/2790-2/

「独立言論フォーラム(ISF)ご支援のお願い」の動画を作成しました!

1 2
佐藤雅彦 佐藤雅彦

筑波大学で喧嘩を学び、新聞記者や雑誌編集者を経て翻訳・ジャーナリズムに携わる。著書『もうひとつの憲法読本―新たな自由民権のために』等多数。

ご支援ください。

ISFは市民による独立メディアです。広告に頼らずにすべて市民からの寄付金によって運営されています。皆さまからのご支援をよろしくお願いします!

Most Popular

Recommend

Recommend Movie

columnist

執筆者

一覧へ