【連載】データの隠ぺい、映像に魂を奪われた法廷の人々(梶山天)

第3回 被害女児、事件当日の1日

梶山天

ISF独立言論フォーラム副編集長の梶山天は、今市事件が起きた2005年12月1日のあの日、被害者である栃木県日光(旧今市)市立大沢小学校1年の吉田有希ちゃん(当時7歳)に何が起きたのか、足取りを追いかけてみた。

有希ちゃんは、3姉妹の次女で、両親と祖母の6人暮らしだった。その日も母は登校する娘たちの朝食の準備に忙しかった。有希ちゃんには好物の甘さ控えめの卵焼きを作った。朝食を食べ終え、学校へ行く有希ちゃんと2年生の姉を母はいつものように玄関の外で姿が見えなくなるまで見送った。

有希ちゃんは前日の11月30日は理由は分からなかったが、学校を休んでいた。翌日、午前中に自分のクラスの教室ではなく、「学習室」と呼ばれる場所で休んだ日にあった算数のテストを受けていたという。そう話すのは、事件後すぐに地元で発足した児童の登下校の見守り活動を続けている地域ボランティア「大沢ひまわり隊」の初代からのメンバーである金田咲子さんだ。

金田さんは1962年から2000年まで小学校教諭を務め、事件当時は毎週木曜日には、大沢小の学習支援のボランティアとして児童たちの面倒を見に来ていたのだ。1日はちょうどその木曜日だった。金田さんは教諭を定年退職後、民生委員を務めた関係で、有希ちゃんの祖母とも親しかったから有希ちゃんとは顔見知りだった。実は有希ちゃんがテストを受けた学習室に金田さんもいたのだ。自分が受け持つ児童にテストをさせていた。「有希ちゃんはおとなしくて余り表情をださない子でしたね。前日は風邪ひいたか、なんかで、お休みしてたんじゃなかったかな。学習室でのテストの時は、有希ちゃんの肩をちょこんと叩いて『がんばってね』と声かけたんです。でもそれが有希ちゃんとの最後になるなんて………」と目を伏せた。

木曜日は1年生は4時間目までで授業が終わる。クラスメートとともにお昼の給食も食べた。下校は午後2時15分ごろ。同級生3人と一緒に自宅まで約1㌔ある市内の木和田島三差路で午後2時半過ぎに分かれた。茨城県警の実況見分調書からは、有希ちゃんが1人での下校になったそれから翌朝にその三差路から約60㌔離れた茨城県常陸大宮市三美のヒノキ林にメジロなどを捕りにきた茨城県水戸市の魚行商の橋本文夫さん(当時56歳)ら男性ら3人がマネキン人形のようなものがあるのが見え、近づいて遺体を発見するまでの足取りはいまだに謎のままだ。おかしなことに最高裁まで審理が進み、一人の男性が無期懲役の判決で刑務所にいるというのに、「ここで殺した」という殺害現場はいまだに闇の中だから不思議だ。

有希ちゃんの下校時には、普段途中まで祖母が迎えに行くが、この日に限って訪問客の予定が入り、自宅にいたという。母は午前中はパートの仕事のために外出しており、午後3時過ぎに帰宅後に祖母から有希ちゃんがまだ帰っていないとの報告を受けて午後5時15分ごろから小学校などに連絡。学校側は既に帰宅しているということで、心当たりのある周囲を探したけれども見つからなかった。地元の消防団とともに周囲を探してもらってもなお発見に至らず、警察にも依頼して本格的に捜査体制をとることになった。

有希ちゃんの遺体は母親が2日午後9時半に娘であることを確認した。捜査本部によると、父は当時、シロアリ駆除の仕事で八丈島に出張中だった。娘が行方不明になったと聞いた父は出張先の八丈島から帰路についたフェリーの船上で遺体発見の報告を受け、その場で泣き崩れたという。

1日昼前に有希ちゃんと会っていた金田さんにその日午後7時すぎに当時、今市市の教育長だった夫から有希ちゃんの無行方不明の連絡を受けて吉田家に駆けつけた。この日は関係者たちが周辺の山狩りも行ったが見つからず、翌2日は午前7時半から地元では消防署、消防団、県警捜査班など約200人体制で大がかりな捜索を行った。

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梶山天 梶山天

独立言論フォーラム(ISF)副編集長(国内問題担当)。1956年、長崎県五島市生まれ。1978年朝日新聞社入社。西部本社報道センター次長、鹿児島総局長、東京本社特別報道部長代理などを経て2021年に退職。鹿児島総局長時代の「鹿児島県警による03年県議選公職選挙法違反『でっちあげ事件』をめぐるスクープと一連のキャンペーン」で鹿児島総局が2007年11月に石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞などを受賞。著書に『「違法」捜査 志布志事件「でっちあげ」の真実』(角川学芸出版)などがある。

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