【連載】データの隠ぺい、映像に魂を奪われた法廷の人々(梶山天)

第3回 被害女児、事件当日の1日

梶山天

私と本田元教授は、ことあるごとに有希ちゃんが眠る墓や遺体発見現場に足を運び、手を合わせてきた。今だからこそ捜査機関の隠ぺいの証拠をつかんだからこうして書くことができるが、裏付けをとるのは、正直簡単ではなかった。気分的に苦しいときもあった。そんな時、有希ちゃんが身をもって放つサインを少しでも励みにしよう、と墓石に貼り付けられた彼女の笑顔の写真を見続けてきた。

この今市事件に興味を持った映画界で活躍する男性の要望で、本田教授と一緒に19年9月に一泊二日の日程で有希ちゃんの墓参りと遺棄現場などを案内した時のことだ。初日はその男性と日光市の東武鉄道下今市駅で落ち合った。男性はまず、花屋によって墓前にいける花を用意した。有希ちゃんが大好きだったヒマワリの花7本。墓地に到着するや、男性は有希ちゃんの墓掃除を始めた。

ジュースの空き缶などが長い間、置きっぱなしにされていたようだ。黄色の花びらが鮮やかなヒマワリを丁寧にたむけた。その時気づいたのが新たな戒名が3人分増えていたことだ。その中には、勝又被告の一審裁判が始まる前の年の5月に病死した有希ちゃんの母親のほかに祖母のものがあった。時の流れを感じた。有希ちゃんが同級生3人と分かれた木和田島三差路にも寄った。ついでに有希ちゃんたち一家が暮らしていた家を見に行くと、表札が変わり、何もなかったかのように別の人々が暮らしていた。有希ちゃんの遺族の引っ越しは早かったようだ。

連載「データの隠ぺい、映像に魂を奪われた法廷の人々」(毎週月曜、金曜日掲載)

https://isfweb.org/series/【連載】今市事件/

(梶山天)

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梶山天 梶山天

独立言論フォーラム(ISF)副編集長(国内問題担当)。1956年、長崎県五島市生まれ。1978年朝日新聞社入社。西部本社報道センター次長、鹿児島総局長、東京本社特別報道部長代理などを経て2021年に退職。鹿児島総局長時代の「鹿児島県警による03年県議選公職選挙法違反『でっちあげ事件』をめぐるスクープと一連のキャンペーン」で鹿児島総局が2007年11月に石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞などを受賞。著書に『「違法」捜査 志布志事件「でっちあげ」の真実』(角川学芸出版)などがある。

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