【連載】インタヴュー:時代を紡ぐ人々(前田朗)

第7回 また叱られた!日本政府(その2)―日の丸君が代強制問題で国際勧告を勝ち取った渡辺厚子さんに聞く―

前田朗

・日の丸君が代強制問題の勧告

――11月4日、ジュネーヴのパレ・ウィルソン(国連人権高等弁務官事務所)で開催された国際自由権委員会が、日本政府の国際人権規約の履行状況を審査した結果、勧告(11月3日付)を出しました。多数の勧告が出ましたが、その一つに日の丸君が代強制問題があります。

会場のパレ・ウィルソン、国連人権高等弁務官事務所のビル。

 

渡辺――そうなんです。「日の丸・君が代」強制は18条に違反する、という勧告を得ました。パラグラフの38、39に入りました。

「38. 委員会は、締約国における思想及び良心の自由の制限についての報告に懸念をもって留意する。学校の式典において、国旗に向かって起立し、国歌を斉唱することに従わない教員の消極的で非破壊的な行為の結果として、最長で6ヵ月の職務停止処分を受けた者がいることを懸念する。委員会は、さらに、式典の間、児童・生徒らに起立を強いる力が加えられているとの申立てを懸念する(第18条)。

39. 締約国は、思想及び良心の自由の効果的な行使を保障し、また、規約第18条により許容される、限定的に解釈される制限事由を超えて当該自由を制限することのあるいかなる行動も控えるべきである。締約国は、自国の法令及び実務を規約第18条に適合させるべきである」。

――国際自由権委員会は、市民的政治的権利に関する国際規約に基づいて設置されました。規約を批准した国が委員会に報告書を提出し、委員会が規約の履行状況を審査します。日本報告書の審査は7回目ですが、日の丸君が代強制問題の勧告は初めてですか。

渡辺――はい。初めてです。これまで2014年第6回審査で、委員からの質問項目には入ったのですが、勧告には入りませんでした。それだけに今回の勧告はとても嬉しいです。

Lots of people all holding blocks spelling out Rights

 

――渡辺さんは、NGOの一員として、委員会に情報提供しました。

渡辺――はい。第7回審査に向けては、国連に障害児の権利を訴える会として2017年質問項目に向けたレポートからずっと出してきました。
2020年に「日の丸君が代」ILO/ユネスコ勧告実施市民会議が結成されてからは、2021年6月に、本審査に向けたレポート、2022年9月には追加レポートを出しました。

2021年レポートでは、LOI(Letter of Intent:基本合意書)以降の重要な情報としてセアート(CEART)勧告が出たことを強調しました。全面的にセアート勧告の筋に沿った内容で訴えました。教員への強制の状況と市民的不服従、子どもへの強制の状況、とりわけ物理的な力を行使して立たせている点を訴えました。注釈が本文の2倍もある長編になりました。

2022年追加レポートでは、起立をしないということは、現場になんら混乱をもたらすものではなく、良心的不服従として捉えてもらいたい、と再度強調しました。良心的不服従という言葉を初めて使いました。日本は勧告を守るべき条約法条約の締結国であるのに、日本政府は勧告を無視していると強調しました。

――委員会の審査は、10月13日・14日にジュネーヴで行われました。今回私は現地に行けなかったので、オンラインで審査の様子を一部だけ見ました。

渡辺――10月10日の公式ブリーフィングで「日の丸君が代」ILO/ユネスコ勧告実施市民会議として、5番目に寺中誠さんが発言しました。その際、処分は続いていること、停職6ヶ月もの処分を受けた教員がいること、起立しないということは、良心的不服従として絶対保障して欲しいことなどの原案を提起しました。再任用拒否問題なども含め、素晴らしい発言をしてくれました。

――10月14日審査の2日目に、スペインのゴメス委員が、東京都の「日の丸・君が代」強制問題について発言しました。

渡辺――はい。おおよそ次のような発言です。

“東京都教育委員会は、2003年以降毎年国旗掲揚の際起立斉唱するよう通達している。起立せず、歌わなかった484名の教職員に対し処罰が科されている。場合によっては6ヶ月教職が停止されている。これは規約18条の1で認めている思想・良心の自由とどのような整合性があるのか。日本政府の報告パラグラフ216から219に基づいて理解したのは、東京都の校長が教員に対して国旗や国歌についての教育を命令しているので教員は従う必要がある、ということだ。教育を行うことと、起立斉唱を求めること、これは違う問題ではないか。条約で求める思想良心の自由との整合性を伺いたい。”

審査会場で質問をしてもらえた! と期待に胸が膨らみました。

――その結果、勧告につながったのですね。

渡辺――そうなんです。ゴメス委員の質問に文科省の役人は全く答えられず、LOI回答ですでに出している回答を繰り返すだけでした。

委員としては「こりゃどうしようもない」と思ったのではないでしょうか。キッパリと、東京都の通達は18条に違反している、と勧告を出してくれました。

2008年初めて訴えて以来、自由権委員会で欲しかった勧告が得られて大変喜んでいます。東京都の処分行政は、国際自由権規約という条約から見ても人権侵害だ、と国際的に明らかにされたことはとても良かったと思います。セアートについで、素晴らしい勧告が勝ち取れてみんな大変喜び力を得ています。

――日の丸君が代問題以外にも、委員会は多数の勧告を出しました。総論では、国際人権規約第一選択議定書の批准問題、独立した国内人権機関の設置、包括的な差別禁止法の制定、ヘイト・クライムとヘイト・スピーチを犯罪にすることなどです。

渡辺――はい。いかに日本の社会に人権侵害がまかり通っているかということの如実な現れだと思います。

どれも欠かせない重要な勧告ですが、私は、精神病院・施設収用における人権侵害について関心があります。収容主義の下、精神病院や施設での暴行などあってはならないことが闇の中で行われていることに大変心が痛みます。声をあげにくい者であることをいいことに強者支配者の権力の横行がまかり通る。「相模原やまゆり園事件」で世界を驚愕させた優生思想はその一端がぽっかり垣間見えたものです。

Definition of word eugenics in dictionary

 

――他にも、再婚禁止規定における男女平等を是正すること、女性に対する暴力の被害届け出、捜査、訴追、被害者救済も勧告されました。日本軍「慰安婦」問題の解決(捜査、訴追、責任者処罰)も繰り返し勧告されました。

刑事法分野では、死刑廃止を検討すること、刑事施設における人権侵害を予防すること、沖縄における抗議デモにおけるデモ参加者の逮捕事案の問題もあります。

渡辺――勧告が実施されるよう願ってやみません。勧告を実施するため、みんなで取り組んでいきたいと思います。

おかしいことにはおかしいと声をあげる。勝ち取った力でさらにより良い社会を目指す。諦めずに、誰もが同じ価値を持つ人間として共生していける社会を築いていきたいです。

 

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前田朗 前田朗

(一社)独立言論フォーラム・理事。東京造形大学名誉教授、日本民主法律家協会理事、救援連絡センター運営委員。著書『メディアと市民』『旅する平和学』(以上彩流社)『軍隊のない国家』(日本評論社)非国民シリーズ『非国民がやってきた!』『国民を殺す国家』『パロディのパロディ――井上ひさし再入門』(以上耕文社)『ヘイト・スピーチ法研究要綱』『憲法9条再入門』(以上三一書房)『500冊の死刑』(インパクト出版会)等。

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