【連載】無声記者のメディア批評(浅野健一)

鈴木エイト講演:統一教会と自民党の癒着が見過ごされてきた理由

浅野健一

2022年7月8日の山上徹也氏による安倍晋三元首相(以下、役職は当時)暗殺事件で、自民党と宗教法人「世界平和統一家庭連合」(旧・世界基督教統一神霊協会。以下、統一教会)の半世紀に及ぶ癒着の事実が、国会での追及と報道各社の調査報道で明らかになっている。

菅義偉前首相を引きずり降ろし、2021年10月の総選挙の顔として就任した岸田文雄首相(総裁)は、2022年7月の参院選でも圧勝し、国政選挙のない「黄金の3年」を迎えるはずだった。

ところが、岸田政権は市民の6割が反対(賛成の約2倍)するなかで、安倍氏を「国に殉じた偉大な政治家」と奉る「国葬儀」(9月27日)を強行。同時に自民党国会議員の約半数が統一教会と関係していたことが判明した。

支持率低下は食料品や光熱費などの物価高騰、急激な円安も原因だろうが、自民党の国会・地方議員が反共右翼セクトの統一教会を選挙と壊憲運動の実働部隊として活用してきた事実が有権者の怒りを集めた。岸田氏は10月24日、辞任ドミノを恐れて留任させていた山際大志郎経済再生相を更迭した。

「国葬儀」の2日前の9月25日、統一協会問題を20年間取材してきた鈴木エイト氏(やや日刊カルト新聞主筆)が東京・神田三崎町のスペースたんぽぽで講演した。

 

「浅野健一が選ぶ講師による『人権とメディア』連続講座」の再開第3回の緊急講座だ。テーマは「なぜメディアは統一教会と自民党の癒着を報じてこなかったのか」で、「紙の爆弾」中川志大編集長が司会を務めた。

翌日発売の鈴木氏の初の単著『自民党の統一協会汚染追跡3000日』(小学館)は、安倍氏が首相に返り咲いた後、菅義偉官房長官が参謀となり、統一協会を2013年の参院選で選挙運動に活用したことで、自民党との癒着が生まれたと指摘している。以下、鈴木氏の講演内容を紹介する(要約)。

 

・カルト問題とは人権侵害の問題

僕は20年くらいこの問題に取り組んでいますが、カルト問題というのはイコール人権侵害の問題です。その中で信者が人権侵害を受けて、その被害者がさらに加害者となって人を誘い込んでいく。そういう構造の中で、あらゆる人権侵害が起こっています。

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私はずっと読書が好きで、図書館で本をあさるなかで浅野さんの本に出会い、ここまで徹底的に人権問題に取り組んでいる先輩がいると知りました。そういう方から今回呼んでいただいたというのは、僕としてもありがたく、光栄なことだと思っています。

今回、安倍晋三さんの事件があって、急に僕が注目されていますが、僕はジャーナリストとして実績があるわけではありません。今回初めて単著を出しましたが、こういう企画はこれまで出版社に持ち込んでも、なかなか通らなかったものです。

政治と宗教の関係だけではなく、カルト二世の問題も、ずっと取り組んできたことで、そういうことも雑誌等で記事を書きながら、出版物として出したいというのがありました。

フリーのルポライター・米本和弘さんが、『カルトの子―心を盗まれた家族』(文藝春秋、2000年)を出して以降、二世問題を論じるような書籍はまったく出ていませんでした。

 

カルト問題、統一教会の問題は、騒ぎになったのは20、30年前のことで、政治とカルトの関係というのも、別にたいしたことはないのではと思われてきた。統一教会についても、「あの団体は今?」のようにしかとり上げられてきませんでした。

最初に街頭で統一教会の会員勧誘の現場に居合わせたのは2002年。それから会員をやめさせる活動をしていました。その中から、勧誘をする信者がどういうメンタリティでいるのか。正体を隠し「手相の勉強をしている」とか、「青少年の意識調査のアンケート」だとか、嘘をついて勧誘していました。

そういう信者たちは、正体を隠しつつも、目の前の人を騙して金銭を巻き上げてやろうという悪質な思いでやっているわけではなく、目の前の人を幸せにしたい、という気持ちで勧誘している。そういう、カルト特有の問題に段々と気がついていきました。

ただの詐欺ではない。善意でだましている。現場で使われている人たちは人権侵害の被害者だ。そういう構造に興味を抱いて、信者たちと交流をもって取材してきました。

Noisy victim

 

そして2009年には「やや日刊カルト新聞」というウェブメディアを、ライター仲間の藤倉善郎さんが立ち上げ、僕も参加し、カルト問題を色々と報じてきました。

・信者を利用しポイ捨てする政治家たち

2007年の東京・足立区議選で、足立教会の全面的なバックアップを受けてトップ当選した、全く無名の女性候補者がいました。脱会した信者からその情報を聞いて、2期目が始まった頃に取材を始めました。彼女は統一教会の地区教会のイベントにも積極的に参加していて、明らかに統一教会だとわかったうえで支援を受けていました。

統一教会の支援を受けていた長谷川たかこ足立区議(国民民主党)

 

ところが僕が取材を始めた瞬間に、彼女は、全くそんなことを知らなかった、統一教会だとわかっていたら頼んでいないと、完全に信者たちをポイ捨てするような回答をしました。

当然、統一教会側も、囲っている候補者を政治家にすれば自分たちの利益になるというよこしまな思いはある。しかし、末端の現場で政治家を支えている青年信者たちの思いは、真摯だった。そういう信者を裏切るような形でポイ捨てする政治家に、これはカルトよりひどいのではないかと感じた。それで政治家の問題も追及するようになりました。2011年のことです。

その後、2013年7月、第二次安倍政権発足後の最初の選挙である参院選で、首相官邸、具体的には菅義偉官房長官と安倍晋三総理大臣が統一教会の組織票の差配をしたり、特定の候補者を統一教会の地区教会に派遣したりしている、という情報を得ました。政権の中枢、首相官邸と統一教会の裏取引疑惑を追い駆けたことが、今回の本のきっかけにもなっています。

政治家が統一教会のイベントに出ていたり、選挙の支援を受けていたり、その見返りとして、祝電を送ったりしているという事実が、取材のなかでどんどん出てきました。菅官房長官が、統一教会のイベントに特定の候補者を派遣していたという証言などを手に入れて、それをもとにいろんなメディアにあたりましたが、全く反応がありません。

その中で唯一、僕と同じ問題意識をもって反応してくれたのが、当時「週刊朝日」の副編集長で、後の編集長・森下香枝さんでした。「週刊文春」などで活躍された森下さんとタッグを組んで5~6本、統一教会と安倍政権についての記事を書いています。

2015年の秋、SEALDsが国会議事堂の裏で毎日集会を開いていて、メディアの注目を集めていました。すると翌年1月、安倍政権を支持する大学生グループが突然活動するようになりました。背景を調べると、全員が統一教会の二世信者で、「国際勝共連合大学生遊説隊UNITE」と名乗っていましたが、「勝共連合とは全く別の組織で、保守系の大学生が国を憂いて自主的に始めた活動」と言っていました。

彼らのデモ行進をテレビ東京が報じると、直後に自民党の平井卓也ネットメディア局長(安倍・菅内閣で入閣、初代デジタル大臣)が「学生がシールズというイメージは間違いです」と自分のフェイスブックに投稿。これは何か変だと感じ、統一教会二世の活動は、政権の意向を受けているのではないかと関係性を追っていくと、ちょうどその時期、2016年の参院選で、宮島喜文さんという、統一教会からの組織票を得て当選した議員(今年の参院選は出馬辞退)がいることがわかりました。

さらに同年6月に首相官邸に、統一教会の会長と総会長夫人が招待された、という情報を掴みました。

・安倍元首相の見立ては正しかった

 

今言われている二世問題は、親との関係、教団との関係に葛藤するものですが、それとは別に、教団に従順で、教団や政治家に使われているという「二世問題」もあります。

「週刊朝日」や「週刊ダイヤモンド」「週刊東洋経済」、宗教専門誌の「フォーラム21」、ウェブの「ハーバービジネスオンライン」などで、統一教会と自民党との関係を追ってきました。野党でも統一教会と関係をもっている人はおり、関係の濃淡があります。とくに濃密な関係を築いてきたのが、清和会(安倍派)周辺の政治家です。

安倍さんの暗殺のきっかけになったのが、2021年9月に配信されたUPF(天宙平和連合)のビデオメッセージです。これは集会で演説しているような演出で、リモート登壇に近いものでした。あの映像が出るまでは、安倍さんと統一教会の関係については、僕も内部文書や証言の証拠は押さえていましたが、あくまでも傍証にすぎません。統一教会が勝手にやっていることだと言えば、言い逃れできることでした。

しかし、このビデオで、はじめて安倍晋三という政治家が統一教会との関係を隠さなくなった。「これが公になっても、自分の政治生命に何の影響もないだろう」とたかをくくった。結果的には、政治生命には関係なかったものの、命を失うきっかけになってしまった、というのは皮肉なことです。

とはいえ、安倍さんのその認識は、実は正しかった。2021年の映像はその日一日だけ、全世界に教団系のネットメディアから配信されましたが、その配信以外には出さないように、という条件があった。でも、ネット社会である以上、一度でも出れば拡散するのが当然。保存していた人がいて、今でもユーチューブで観られます。

2021年9月の段階で、あの映像を報じたのは、共産党機関紙のしんぶん赤旗、週刊誌では「FRIDAY」「週刊ポスト」、月刊「実話BUNKA超タブー」「フォーラム21」だけでした。一般の大手メディアはいっさい報じませんでした。やはり、政治家としての安倍さんの判断は正しかったのです。

2022年6月には日本世界平和議員連合懇談会が衆議院議員会館で行なわれ、自民党の政治家数十人が、統一教会の政治団体のトップと一緒に参加。「支援を受けたい人はここに記入して下さい」、なんていうことが、堂々と議員会館で行なわれています。

そして7月。参院選のなかで、安倍さんが銃弾に倒れた。銃撃したのは、統一教会によって家族・家庭を壊された被害者の子ども。つまり二次被害者だった。あの事件がなければ、ここまで問題は顕在化しなかったのです。

そこでクローズアップされたのが僕の存在でした。なぜかというと、この10年間、その不適切な関係をリアルタイムで追っていたのは、僕しかいなかった。それだけです。

当初は警戒されていたようで、すぐにはメディアからお呼びはかかりませんでいた。「鈴木エイト」という名前からも、これはペンネームですが、突撃系ユーチューバーのように思われることもあり、いきなりテレビに出すと不規則発言するんじゃないか、と思われていたようです(笑)。

有田芳生さんら先輩ジャーナリストがテレビで発言されていましたが、岸信介、安倍晋太郎さんの時代のことはよくご存知でも、どうしても2006年くらいまでで止まっている。それで声がかかるようになりました。

 

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浅野健一 浅野健一

1948年、香川県高松市に生まれる。1972年、慶應義塾大学経済学部を卒業、共同通信社入社。1984年『犯罪報道の犯罪』を出版。89~92年、ジャカルタ支局長、スハルト政権を批判したため国外追放された。94年退社し、同年から同志社大学大学院メディア学専攻博士課程教授。2014年3月に定年退職。「人権と報道・連絡会」代表世話人。主著として、『犯罪報道の犯罪』(学陽書房、講談社文庫)、『客観報道』(筑摩書房)、『出国命令』(日本評論社)、『天皇の記者たち』、『戦争報道の犯罪』、『記者クラブ解体新書』、『冤罪とジャーナリズムの危機 浅野健一ゼミin西宮』、『安倍政権・言論弾圧の犯罪』がある。

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