【連載】無声記者のメディア批評(浅野健一)

鈴木エイト講演:統一教会と自民党の癒着が見過ごされてきた理由

浅野健一

・メディアが報じないなら付き合うほうが得

安倍さんは2006年にはUPFに祝電を送っており、メディアが報じています。その時、安倍さん側は、「事務所が勝手に送った。注意しておく」とコメントしています。2005年の段階でも、政治家が統一教会系団体に年会費を数万円納めただけで報道されていました。

ただしそれ以降、この16年間、メディアはその程度では報じなくなりました。リアルタイムで起きている問題だという認識がなかったこともあると思いますが、メディアが報じないことで、政治家も気が緩む。関係を持っても、どこも報じないのなら、付き合う方が得だ、と。

 

なぜ、政界と統一教会の関係が問題視されてこなかったのか。そのヒントになるのが7月29日、福田達夫・自民党総務会長(当時)の発言です。

「僕自身、個人的にまったく関係がないので、なんでこんなに騒いでいるのか正直わからない」。非難を受けて弁明した、この発言は核心を突いており、福田さんと同じように多くの政治家が、統一教会とその関連団体との付き合いを重大な事案だと思っていませんでした。選挙を支援してもらう見返りにイベントに祝電を送ったり、来賓として挨拶をするのは普通のことだった。

メディアでは、カルトという言葉も使えなかった。今、女性アナウンサーが「カルト団体」と発言するのも、いまだに慣れず、隔世の感があります。

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どうしてメディアは報じてこなかったのか。これまで雑誌に記事を書くと、統一教会からクレームが入りました。「鈴木エイトは取材もせずフェイクニュースを書く」という内容のファックスをメディアに送りつけたり、もっとちゃんとした記事を書ける人間を紹介します、ということもありました。

「幸福の科学」など、鈴木エイトが書くなら、うちはコメントも出さない、という団体もありました。訴訟恫喝もあります。数十年前には、出版社や通信社に対して執拗な電話やファックス攻撃で麻痺させるというのも、いろんなカルト団体が行なっていました。

そんなところから、メディアが恐れるという以上に自主規制をしてきた点が非常に大きい。面倒くさいことにはさわらないでおこうという空気が醸成されていったと思います。

山上容疑者が起こした事件は許されないことですが、カルト団体によって家庭が崩壊したという事例は数多くあります。なぜこういう事件が起きるのかを考えると、たとえば1990年代、オウム真理教による一連のテロ事件は、カルト団体自体が引き起こした重大な事件です。

しかし今回の事件はカルト団体の被害者が起こした事件。フェーズが完全に移っています。カルト問題の被害者を、しっかりと見ないで放置してきたツケが、こういう事件を呼んでしまったのではないか。その重大性を考えてほしいと思います。

ただ、事件以降は、メディアは健全な形になってきたと感じています。僕も、得た情報を自分だけで抱えるつもりはなく、当然、自分では調べきれていないことが多々あります。

僕はよくパズルのピースに例えますが、個々の政治家と統一教会との接点を、ピースとして一つ一つ置いていく。教団名の変更や、疑惑段階のものも置いていく。それを全体として見ると、なんとなく絵が見えてきます。

今回の事件の前がその段階で、事件後、特に地方局が非常に精力的に取材し、僕が掴みきれなかった情報をどんどん発掘、そことここが繋がるのかと、非常に新鮮な発見が多くありました。そこには、これほど重大な事件を起こすような被害者の存在を見てこなかった、メディア側の悔恨を感じます。

僕の役割は、人を引っ張るアジテーターではなく、国葬に安倍晋三という政治家が値するのかどうか、その材料を一般市民に提示する役割しかありません。僕の本を読んだうえで、安倍さんの功罪の「功」を評価する人がいてもいい。安倍晋三という政治家をどう評価するか、その判断材料として、この本を役立ててほしいと思います。

献金被害に悩む人が、自分にそれを指令してきた直属の上司を襲い、一緒に焼身自殺を図るという事件は、これまでも起きていました。でも、それがまさか、教団に体制保護を与えている政治家に刃が向くとは想定していなかったのは、僕の反省点です。

弁護士も言っていますが、統一教会と付き合うことの危険性を政治家に理解してもらえませんでした。脱会した元二世信者と話していると、こういう事件も起こりうるということを教団側に忠告していた、というんです。

当事者はそういう萌芽があることを感じていたのです。ということは、今現在、別の社会問題でも、表面化していないことがまだあると思います。そういう萌芽を見逃さないように、メディアもいろんな所を見るべきです。

・日本の民主化をゼロから始めよう

講演の全体は、ネット動画メディア「IWJ」でも観ることができる。

10月22日、あらためて鈴木氏に以下の質問をした。

――自民党と統一教会について、今後どういう展開を予想するか。
「岸田首相は国会答弁で、民法の不法行為や使用者責任を認めた民事訴訟判決も解散命令請求への根拠となると発言したことは、分水嶺になる。これが今国会を乗り切るためだけや支持率回復のためで、最終的に解散命令請求へ確実に持っていくのかはまだ不透明。関係を持つ政治家を情報リークなどでコントロールするなど教団の抵抗もあるでしょうし、個々の政治家の発言を注意深く見ていく必要があります」。

――統一教会の被害者救済法案などで、立憲と維新が共同歩調をとるなど、政権反対党が団結して政府・自公に迫っている。国会の今後の役割は何か。
「与党も当該法案には協力姿勢を示しています。被害者救済については歩調を合わせることはできるでしょうし、進めてほしいですが、これまで教会と深く関係を持ってきた政治家への追及は譲歩せず行なうべきだと思います」。

――いま、マスメディアで問題にしていないことで、今後、問題にすべきことがあれば教えてほしい。
「被害者の小さな声を見逃さないことだと思います」。

鈴木氏は10月24日にも参院議員会館内で、私が顧問を務める市民団体主催の安倍国葬検証集会で講演し、「自民党が統一教会を利用するようになったのは、菅前首相と萩生田政調会長によるところが大きい。事実を突きつけ、菅氏の関与を追及する」と語った。

 

山際氏の更迭については、TBS系「NEWS23」で、「2019年にわざわざ名古屋まで行き、統一教会の韓鶴子総裁の横にいた写真の存在が明るみに出たことが、辞任の一番の理由ではないか」と述べている。

私は「紙の爆弾」10月号・11月号で、自民党は自らの党綱領、党是の根幹を否定しており、自由と民主を掲げる健全な保守政党として存続できない事態と書いた。自民党は2022年度、160億円の政党交付金(血税)を受給する。

ただし、「安倍『国葬』やめろ!実行委員会」の国葬裁判担当弁護士、山下幸夫氏は「政党交付金を受け取る政党要件は、政治資金管理団体であることが必要であるところ、おそらく形式的に判断され、綱領・党規約などに定めた活動方針に反しているというような実質的な判断はされないのではないか。その判断も特に決められた方法はないように思う」と指摘する。

自民党が自ら解散を申し立てることはないだろう。人民が様々な運動で自民党に解散を求めるしかない。

統一教会は事件後、数回にわたり記者会見を開いているが、参加者は内閣記者会などの記者クラブに限定している。私は教会の広報部に、会見参加資格などを質問しているが、回答はない。鈴木氏は私の「記者クラブ廃止」論に同意を示し、「私は野良ジャーナリストで中には入れてもらえない。誰でも参加できる広報センター、メディアセンターができればいい」と答えた。

自民党は10月12日、安倍氏を「国賊」と呼んだとされ、国葬を欠席した衆院議員・村上誠一郎元行政改革担当相を1年間の党役職停止処分とした。村上氏は欠席理由として、「国民の半数以上が反対している以上、国葬を強行したら国民の分断を助長する。こうしたことを自民党内で言う人がいないこと自体おかしなこと」と説明するなかで「財政、金融、外交をぼろぼろにし、官僚機構まで壊した。国賊だ」などと発言したと一部で報じられていた。

報道各社の世論調査で、岸田内閣の支持率が低下する一方、自民党の支持率はあまり下がっていない。微増している調査結果もある。自民党が「組織としては統一教会と関係はない」というウソがまかり通っている。

仏ル・モンドのフィリップ・ポンス元東京支局長は1970年代に「自民党は権力に群がる個人と団体の集団で、政治的理念に基づいた結社ではない。近代の民主主義社会で定義される政党とは言えない」と断言していた。

自民党は、国家神道を肯定する神社本庁、アジア太平洋侵略戦争を聖戦とする靖国神社、極右国粋主義の日本会議などとも深く関係している。統一教会の悪事を暴くだけでなく、「自民党が政党として存続していいのか」を問うことが今最も重要だ。

私たちは、日本には市民革命がなく、人民が主権者であるという考え方がいまだに定着していないことを自覚し、日本の民主化をゼロから始めるという認識を持つべきではないか。自民党を解散・解党させることがその出発点となる。

そのために今、人民とジャーナリスト、政権反対党との幅広い団結が求められている。統一教会の取材報道で、真実を伝える鈴木氏ら闘うジャーナリストを支援したい。

(月刊「紙の爆弾」2022年12月号より)

 

ISF主催公開シンポジウムのお知らせ(2023年1月28日):(旧)統一教会と日本政治の闇を問う〜自民党は統一教会との関係を断ち切れるのか

ISF主催トーク茶話会(2023年1月29日):菱山南帆子さんを囲んでのトーク茶話会のご案内 

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浅野健一 浅野健一

1948年、香川県高松市に生まれる。1972年、慶應義塾大学経済学部を卒業、共同通信社入社。1984年『犯罪報道の犯罪』を出版。89~92年、ジャカルタ支局長、スハルト政権を批判したため国外追放された。94年退社し、同年から同志社大学大学院メディア学専攻博士課程教授。2014年3月に定年退職。「人権と報道・連絡会」代表世話人。主著として、『犯罪報道の犯罪』(学陽書房、講談社文庫)、『客観報道』(筑摩書房)、『出国命令』(日本評論社)、『天皇の記者たち』、『戦争報道の犯罪』、『記者クラブ解体新書』、『冤罪とジャーナリズムの危機 浅野健一ゼミin西宮』、『安倍政権・言論弾圧の犯罪』がある。

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