歴史の本質から目を背けるな、日本人を蝕む同調圧力と社会的病理の正体

木村三浩

・相互理解のために真に必要なもの

ひろゆき氏はさらに10月16日、今度は日韓関係をめぐり、「ビートたけしのTVタックル」(テレビ朝日系)で、「政治的に仲良くなる必要はないと思ってて、経済的に繋がってればいいと思うんですよね」と発言した。ここでも、問題をあえて矮小化しつつ、世間の関心のみを集める手法だ。

そのやり方は、小泉純一郎元首相の新自由主義的手法と似ている。さらに安倍晋三元首相時代の拉致問題の引き伸ばしとも通じるものだ。安倍氏は拉致問題を、政権維持のためのプロパガンダの材料にした。結局、問題の本質に迫ることのないまま解決できず、今また田中実さんや金田龍光さんの生存の可能性が指摘されても岸田政権は黙殺状態だ。

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現在の日韓関係を見た時、マスコミが喧伝する「戦後最悪」が嘘であることは、「紙の爆弾」6月号の寺脇研氏との対談で明らかにしたとおりである。そこでは鳩山由紀夫政権時代について触れたが、両国の相互理解の努力は民間レベルを含めて続けられてきた。その際には、互いの社会に生きる人々の文化風土や民族的メンタリティーを尊重し合うことが前提となる。

Japan and South Korea Flags Crossed And Waving Flat Style. Official Proportion. Correct Colors.

 

朝鮮の人々に日韓合邦でなく朝鮮神宮の創立により皇国史観を押し付けた、約35年間の日韓併合をはじめとした非侠の歴史を、日本人の側が誠意をもって埋めていかなければならないのは当然のことだ。

今年5月に発足した尹錫悦政権は日韓関係改善に向けた努力として、「日帝強制動員被害者支援財団」を通じ、強制徴用の被害者・最大300人に1人当たり1億ウォン(約1000万円)を補償する案を検討中だという。しかし、これも結局、金で対応して事足りるとすることにすぎない。

この政策の前提には、安倍政権と朴槿恵政権による従軍慰安婦問題の日韓合意があった。平成28年、「和解・癒やし財団」に日本政府が10億円を拠出し、元慰安婦に現金支給を行なうとしたが、韓国内の世論の反対を背景に3年後に解散した。

儒を重んじる韓国に徳をもって対すべきところ、金銭で幕引きを計った安倍・朴政権の勇み足が、現在の両国の政策と不作為にも尾を引いている。

日韓関係が恩讐を越えるために、ここから教訓とすべきは、地道な努力の重要性であるはずだ。しかし、「経済だけ繋がっていればいい」というひろゆき氏の論理は、日本の病理を今また韓国側に押し付けるものである。

一部の日本人が繰り返す、「ゴネ得」との相手国民への蔑視も増長させる。それでは経済ですら繋がれないことは、アジアでビジネスを成功させてきた経済人たちがもっともよく理解しているところだろう。

・方法としてのやまとごころ

他国との相互理解のためには、まず、わが国が主体性を確立していることが必要である。しかし、ウクライナ紛争への対応を見るまでもなく、安倍政権下で米国属国化はさらに進んだ。

日本人は明治の近代化以降、その多くが名誉白人的意識にとらわれ、さらに敗戦を経て屈折した。いまや米国に従順に阿る姿勢しかとれないことは、他国から見透かされている。その状況で、韓国を小馬鹿にしてみても、自尊心を満足させているにすぎない。

ここまで日本人の社会的病理について指摘したが、これは、本来的に日本人が持っている資質ではないと私は思う。やまとごころ(大和意)とは調和の精神であり、寛容さや潔さである。それこそが、われわれが取り戻し、外交における方法論とすべきものだ。

しかし、米国に対してものを言えない一方で、中国・韓国が相手では「毅然とした対応をすべき」と繰り返しているのである。

さらに、有事を前提に抑止力として核武装せよという勇ましい意見が跋扈している。令和4年末には安全保障関連3文書の改定も控えている。防衛費増額・敵基地攻撃能力保持について、岸田首相は5月に来日したバイデン大統領と「日米協力」の約束を交わした。結局、自主防衛を目指すものではなく、米軍補完にすぎないということだ。

自主防衛の在り方を探っていくべきだが、聞こえてくるのは真逆の言説ばかりである。元大阪市長の橋下徹氏や経済学者で安倍政権のブレーンだった高橋洋一氏は、日本もNATO(北大西洋条約機構)に加盟し、米国と一体となって自衛隊を国外で活動させるべきなどという、馬鹿馬鹿しい論を振りまいている。

「紙の爆弾」が11月号で特集しているように、すでに集団的自衛権行使容認や安保法制など、日本の「戦時体制」は整えられつつある。それも、自衛隊下請け体制といういびつな形で、だ。

Man and woman of the Ground Self Defense Force

 

世界の警察官を自称していた米国が、その覇権力を保てなくなり、自衛隊に尖兵となることを求めている。海外派兵されれば当然、自衛隊員が命を落とす可能性も出てくる。靖國神社にいま首相が堂々と参拝できない状況で、隊員に命を賭すことを求める者こそ、まさに「国賊」である。

自衛隊の本来の任務は、あくまでも日本の国土・領海・領空、そして国民の生命・財産、ならびに歴史・伝統・文化の防衛にある。米国の他国との利害対立から生まれた争いに、なぜ自衛隊員が命を賭けなければならないのか。

「諸官に与へられる任務は、悲しいかな、最終的には日本からは来ないのだ」と、半世紀も前に三島由紀夫・森田必勝両烈士が檄文で指摘した。戦後日本を法的に規定しているのは、日本国憲法の上位にある日米安保条約である。

すでに、戦後世界の国際秩序がバランスを失っている。それが端的に表れたのがウクライナ紛争だ。バイデン政権は、一大利権の絡むウクライナへの支援を声高に訴え続けている。

shot of american flag with ukraine

 

10月にロシアが4州を併合した際、プーチン大統領は声明で「ソ連?それは必要ない」と“ソビエト連邦復活”を否定するとともに、「文化・信仰・伝統・言語において自分をロシアの一部と考え、何世紀も一国家で暮らしてきた人々の、真実の祖国に帰ろうという決意より強いものはない」と指摘した。

一方、ゼレンスキー政権は、ロシアからの報復を知りながら、停戦を望む国民を人質に取り、対ロ攻撃をエスカレートさせてきた。クリミア大橋攻撃はその最たるものだった。

完全な米国傀儡で自主判断がないのは、わが国も同じだ。日本が果たすべき役割とは、紛争における緊張感の軽減である。もし自衛隊が出て行くのであれば、国連で基準を決めたうえで、平和維持に参加していくことしかないはずなのだ。

日本人の名誉白人意識は、現在に至りさらに屈折し、人士の徳を見失っているようだ。「愛国者」向けの集会で、内輪のウケ狙いか知らないが「SNSで国葬に反対していたうちの8割が隣の大陸からだった」と発言した大臣もいた。日本人はみな国葬賛成で、反対する者は「非国民」だと思いこみたい願望があるのか。上っ面の敵愾心を煽ったところで、国民の真の結束は高まらないだろう。

同調圧力

Tuning pressure

 

冷笑と同調圧力に対抗する日本人の論理・倫理と魂がますます必要となっている。

(月刊「紙の爆弾」2022年12月号より)

 

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木村三浩 木村三浩

民族派団体・一水会代表。月刊『レコンキスタ』発行人。慶應義塾大学法学部政治学科卒。「対米自立・戦後体制打破」を訴え、「国際的な公正、公平な法秩序は存在しない」と唱えている。著書に『対米自立』(花伝社)など。

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