【連載】インタヴュー:時代を紡ぐ人々(前田朗)

第8回 北極圏250kmを走ってアフガニスタン緊急人道支援―ラップランドのアドベンチャーレースに挑戦した相澤依里さんに聞く―

前田朗

・地球を走る:ラップランド2022

――この夏、相澤さんは「RUN FOR RAWA」というプロジェクトで、北極圏ラップランドの大自然を7日間で250㎞を走るレースに挑戦しました。クラウド・ファンディングで集まった資金(527,300円)を食糧危機にあるアフガニスタンへの緊急支援として、現地で人道支援を行うRAWA(アフガニスタン女性革命協会)に届けました。大変な夏になりましたが、ラップランドを走っての感想はいかがでしたか。

 

相澤――すごく楽しかったです。フィンランドに行ったのは初めてですし、北極圏も初めてでした。白夜の中をひたすら進む経験はとても楽しいものでした。スポーツにかかわることはあまりなかったので、これまで会ったことのない人たちに会えて、新しい世界が広がったので良かったです。

 

クラウド・ファンディングでRAWA緊急支援をすることができて、そこでも多くの方に関わってもらえたので、直接お会いする機会を得られた方もいましたし、まだお目にかかっていない方もいますが、多くの出会いにつながったと思います。初めてのレースをクラウド・ファンディングという形で実現できました。

――北極圏を250㎞走ったということですが、いったいなぜ、そんなことを思いついたのでしょうか。

相澤――「RacingThePlanet and the 4 Deserts Ultramarathon Series」のなかの「racingtheplanet Lapland2022」に参加しました。

 

――地球を走る、4つの砂漠を走るウルトラマラソンのシリーズの一つで、フィンランドのラップランド地方の山野を走る「racingtheplanet Lapland2022」ですね。

 

相澤――この企画は2003年にゴビ砂漠を走るレースが開催され、それ以来、世界各地で続いてきました。

2019年に知人から教わって知ったのですが、調べてみるとすごい企画で、チャレンジングに思えました。私にもできるかな、無理かな、どうだろうかと思いましたが、挑戦してみようと思いました。出場したいという気持ちと、体力的に難しいかなという思いと、参加費用が結構かかるので、いろいろ悩みました。

ちょうどその頃、RAWAのサラさんが来日されたので、講演を聞く機会がありました。サラさんの話を聞いて、同じ女性として何ができるだろうかを考えました。その中で、はじめはぼんやりとでしたが、レースとRAWAのことが結びつき始めました。

2021年に北海道洞爺湖地域の勤務先に移動して、清末愛砂さん(室蘭工業大学大学院教授)とお会いする機会が増えた中で、このレースのことをお話ししていました。

――1週間で250㎞ですね。毎日30~40㎞も走る企画ですが、もともと陸上競技をしていたのですか。

相澤――私は普段は看護師として病棟勤務をしています。体を動かすことは嫌いではありませんが、学生時代にバレーボール部や水泳少年団に入っていました。田舎だったので、そんなに選べるわけではない中でしたけど、バレーボール、ソフトボール、水泳をやっていました。
マラソンとは無縁でしたが、昨年2021年11月からランニングを開始しました。同僚でもある先輩ランナーに習いながら、少しでもこのクラウド・ファンディングに興味を持ってもらえるように250㎞完走を目指しました。

・白夜を駆け抜ける

 

――みなさん、どんな格好で、走るのですか。

相澤――フィンランドのロヴァニエミからレヴィまで、山や森の中にあるコース250kmを7日間6ステージに分けて、チェックポイントを通過しながら走ります。制限時間以内に通過できなければ失格になります。詳しいルートは競技者も知らされていません。ピンクのフラッグを目印にフィンランドの大自然に挑みました。

7日間の寝泊りはテントで、もちろんシャワーもありません。レースに必要な物品(水、食糧、寝袋、ライトなど)約10㎏のザックを背負って走り続けるレースです。

 

スポーツタイツ、半ズボン、Tシャツの人が多くて、靴はトレイルランニング用のシューズです。道路を走るわけではなく、山登りもありますし、岩山を上ることもあります。川に入ったり、沼を駆けたりしますので、毎日、靴下が濡れます。乾きやすい靴下です。

平坦な道や下り坂では走っても、途中歩くこともありました。登り坂はゆっくり上るしかありません。他の人たちを見ても、速足で歩いている人もいました。

 

――参加者はどのくらいいましたか。

相澤――ラップランド2022の参加者は133人です。世界43か国から集まって来た人たちです。日本からも13名ほど参加して、8名がゴールしました。

――「RUN FOR RAWA」の横断幕を持参したとのことですが。

相澤――クラウド・ファンディングでRAWA緊急支援を送ってくれた方たちのお名前を「RUN FOR RAWA」の横断幕に記載して、それを持って走りました。みなさんに報告(リターン)するために、RAWA関係の本や資料だけでなく、やはり現地での横断幕の写真をお届けしたいと思いました。

 

・幻想の森でブルーベリーを

――走っている時はどんなことを考えましたか。

相澤――楽しく走っている時はあまり何も考えず、きれいだな、素敵な景色だなと思いながら、ひたすら走っていました。辛くなってくると、これまでの練習の時のこととか、レースの先輩のこと、支援していただいた方のことを思いました。良い報告をしなくてはいけないと思って、頑張りました。ぐるぐるぐるぐる、同じことばかり考えていました。

――ラップランドの風景は満喫できましたか。

相澤――山を登り切った時に、下に見える湖の景色は本当に素晴らしくて、胸がいっぱいになりました。日本で見る景色とは違い、幻想的で、引き込まれました。森も、いままで自分が持っていた森のイメージと全く違います。地面がフカフカで、おとぎ話のようでした。周囲に民家もないところを走るので、空と深い森とフカフカの地面に囲まれます。

 

あちこちでブルーベリーが実っていました。レース参加者のみなさん、ブルーベリーをつまみながら走るんです。おいしいブルーベリーで栄養補給しながら楽しく走りました。

それから、すごく大きな蟻塚がありました。小山かなというくらいの大きさで、至る所にありました。あんなに大きな蟻塚は初めて見ました。

 

1 2
前田朗 前田朗

(一社)独立言論フォーラム・理事。東京造形大学名誉教授、日本民主法律家協会理事、救援連絡センター運営委員。著書『メディアと市民』『旅する平和学』(以上彩流社)『軍隊のない国家』(日本評論社)非国民シリーズ『非国民がやってきた!』『国民を殺す国家』『パロディのパロディ――井上ひさし再入門』(以上耕文社)『ヘイト・スピーチ法研究要綱』『憲法9条再入門』(以上三一書房)『500冊の死刑』(インパクト出版会)等。

ご支援ください。

ISFは市民による独立メディアです。広告に頼らずにすべて市民からの寄付金によって運営されています。皆さまからのご支援をよろしくお願いします!

Most Popular

Recommend

Recommend Movie

columnist

執筆者

一覧へ